天海白眉の初恋 7
集団生活を始めて一週間ほど経った。
最初はどうなることかと思ったが、僕ら四人の生活は快適だった。初日こそ羽黒彦一の機嫌は最悪で、僕も彼に悪印象を抱いたが、付き合ってみると存外に悪い奴ではない。いや、異常な環境に適応してしまった自分のほうこそ異常だった。それを認めるのが恐ろしく、彼を目障りと思った。
だが、彼の催眠能力によって天海筏の講師を妨害するのは、正直とても楽しかった。今まではできなかった。彼らもまた仲間のはずだったからだ。超能力に悩み、自分が怪物ではないかと苦しみ、同じ痛みを分かち合う仲間。
そのはずの彼らは、超能力者を再生産しようとしている。おかしいと感じつつも反抗できなかった。反抗すれば彼らを裏切ることになる。羽黒彦一に「おまえらばかじゃねえの」と言われて怒ったのは、それが真実だからだ。彼と共に一週間を過ごしてそれがよくわかった。
「やっぱお前らおかしいって」
「何がさ」
「ロブスターとムール貝の味噌汁って何だよ! もったいないだろ!」
「良いじゃないか。ここなら別に珍しい具材でもないし」
「良いけどな……もうちょっと野菜かなにか欲しいな……」
「任せたよ羽黒」
甲殻類特有の、ガツンと来る匂いがリビングに漂っている。
羽黒彦一は文句を言いながら鍋をかき回していた。
「そんなこと言いながらちゃんと作ってるじゃないか」
「料理できるのが俺だけだからだよ!」
「僕だって手伝っただろ。せっかくの休みなんだからカリカリせずに過ごそうよ」
ふぁーあ、とあくびが出る。
土曜日の午後と日曜日は完全なオフだ。
その際の食事は、食堂で取っても良いし、あるいはペントハウスに用意された保存食や自分で持ち込んだ物を食べても良い。パスタや塩、小麦粉、その他簡単な調味料などは揃っていた。自炊しようと思えばできる……料理のできる人間さえいれば。
「白眉、だらしない」
鹿歩がパジャマのままの僕を若干冷たい目で見てくる。
向こうはちゃんと着替えて身だしなみを整えている。
「鹿歩はちゃんとしてるなぁ」
「朝ご飯できるまでに身支度する!」
「はーい」
◆
素晴らしい……というより凄まじい朝食だった。
ロブスターにムール貝、マッシュルームの味噌汁。
白米。
ベーコンエッグにキャベツのサラダ。
品数は少ないが、味噌汁の旨味が異常だ。特にロブスターの爪の肉がすごい。みっしりとした肉をかみ締めればほろほろと崩れ、旨味が口の中いっぱいに広がっていく。そこにムール貝のほろ苦い旨味と、マッシュルームの野趣溢れる旨味が味噌と合体して脳がパニックを起こす。
「これは……罪の味がするよ……」
「ヤバい。この具材で味噌汁にするって発想がヤバいが、出来上がったものも頭おかしい」
ボクが戦慄して呟くと、羽黒彦一も同様に頷いた。
鹿歩と悟は一心不乱に食べている。
「ぶっ……あはは……朝からなんてものを食べてるのさ……」
「良いだろ、せっかくの南国なんだし。おかわりもあるし、食い尽くされないうちに食べろ」
そして、一人あたり二食分はあったはずの鍋はすぐに空っぽになった。
白米もおかわりした。
もう一日が終わったかのような満腹感と満足感に包まれる。
これはまずい。
舌が合わなくて困っていたはずなのに、幸福感の過多で味覚が壊れてしまいそうだ。
「あー……今日はどうするんだ? 予定あるのか?」
「完全なオフだよ……もう二度寝で良いんじゃない?」
「いやあ……十代の少年少女四人が午前中からゴロゴロしてるのもどうかと思いますけど……」
「……あと十分だけ休む」
悟も鹿歩も旨味の暴力にやられてグロッキー状態だ。
再び頭がしゃきっとするまで三十分ほど費やして、ようやく片付けを始めた。
洗い物をするのも久しぶりだ。
悟と鹿歩が洗った皿を拭いて片付けている。
調理担当だった羽黒彦一はスマホをぽちぽちいじりながら暇を潰していた。
「ここってなんか遊ぶところないのか?」
食事の片付けが終わった頃、羽黒彦一が出し抜けにそんなことを尋ねてきた。
一週間前なら「何言ってんのこいつ」と呆れただろうが、正直待ってましたって感じだ。
「そういえば釣り竿あったんだよ! キミは釣りできたりする?」
「やったことないな」
「なーんだ」
「なんでそこで俺に頼るんだよ。だいたいお前、念動力で釣り放題だろ」
「うっわ、本当にロマンがないなぁ。ロマンのない人間が催眠能力を持ってるってこわーい」
「鹿歩、悟。こいつちょっと叱って良い?」
すぱぁんと快音を立てて鹿歩に新聞紙ハリセンで叩かれた。
「何するんだよ!」
「今のはあなたが悪い。ともかく釣りはあんまり興味ない……っていうかシーフードはもうたくさん」
「それもそうだね」
仮に釣りが上手くできたとして、釣ったものを食べないのも考えものだ。
そうなると一日ヒマになっちゃうな。
「仕方ない、ゲームでもやるか」
「何か持ってきたのかい? 対戦できるやつ?」
羽黒彦一がごそごそと自分の荷物を漁る。
「電源ゲームじゃない。トランプとかウノとか……その他、ドイツ系の卓ゲー」
「卓ゲー?」




