紋章、適正、真名の力(後)
ああ、やっと更新できた。
説明回、のつもりです。次回から少しファンタジーっぽくできるかも?
では、どうぞ。
紋章、適正、真名の力(後)
暗いのは怖い。
喰らうのは嫌だ。
でも、喰らわなきゃ暗い。
ヒトの赤だけ、鮮明に。ゆがんだ顔だけ鮮明に。
僕の目に映る色彩は、モノは、それだけ。
嗤えるけど、笑えない。
誰かが死ぬのは平気。でも、死ぬのは嫌だ。
僕が嫌だ。『俺』は嫌だ。死ぬのは嫌だ。殺すのが嫌だ。
信じたくない。信じたい。
愛されたい。愛したい。
――いいや、違うな。
――何が?
――自分を偽るな、白々しい。
――俺は、偽ってなんて……
――その左腕を見ても、か。
――これは、『俺の』じゃない。お前のだ。
――ああ、そうだな。だが、お前のでもある。
――……違う。
――いいや、お前のだ。我のだ。あきらめろ、受け入れろ。おとなしく……渡せ。
――嫌だ。嫌だ。
――そんなだから、付け込まれるのだ。そして、なんとも、乗っ取りやすい。
――うぅぅ……
――せいぜい、全うしろ。ヒトとしての生をな。
――消えてくれ。
――くくく、それは無理な相談だ。恨むなら、愚かな両親を恨め。
――父さんと、母さん?どういう……
くるくるり。
廻って廻って、消えていく。左肩が、熱く滾る。
――またな。ヒトの仔。次に遭うときは、お前が我になる時だろうよ。
目の前で飛び去った黒は、おぞましくて。
俺の意識は、浮上していく。見上げれば、かすかな光。精一杯手を伸ばす。
父さん、母さん、俺は。
おれは
「起きなさい!ナル坊!はよ起きんか!」
そんな声とともに、ボグッというあまりよろしくない音が響き、痛みを添えて俺を覚醒させる。
「あ……うぅ……つう」
「ようやく起きたか……まったく」
なにしやがる、と敬語も忘れて叫ぼうとしたが、杖を握り締めた老人……ガルムのそんな声を聞き、思いとどまる。頬に手をやれば、じっとりとまんべんなく汗をかいていて、不快さに顔をしかめながら袖で拭う。
一旦落ち着くと、あたりを見わたした。
……なかなか斬新なデザインの部屋だな。壁に深い裂傷が走ってるし、ところどころ陥没しているところもある。インテリアだろうか、部屋の中央にあるテーブルの上に、きれいに二つに割れた水晶があって、なかなかシュールだ。
「ガルムさん、コレは」
「坊がやったんじゃよ、おそらく、『紋章』を使って」
その言葉に、思わず左腕の袖をまくる。
「ほう、それがナル坊の『紋章』か。……何というか、龍神の加護とは思えぬな。円に収まっていないとは」
その言葉に、何も言い返せない。それほど、そう、まがまがしい。
黒の円が刻んであるのはまだいい。だが、黒い角の生えたトカゲのような生物が手足を広げて円を三等分し、頭や爪は円からはみ出ている。節操のないデザインである。唯一の救いは三等分された空白のうち二つがそれぞれ落ち着いた緑、青で染められていることくらいか。
「これ、何かまずいんですか」
「まあ、まずいということではないんじゃがな。与えられた加護が、今のナル坊の器――精神に収まりきれていないんじゃ」
またよくわからない発言に説明を求めると、ガルムは真剣な表情で語りだす。
「まず、質問じゃが。おのれの精神の形は視たかの?」
「ええ、見ました。ついでに龍神を名乗る方にも出会いましたよ……散々に言われましたけど」
「どんな形――ああ、精神の方じゃ、教えてくれ」
「ひび割れた荒野と雲一つない青空でした」
「ふむ。では――その風景に、終わりは見えたかの?」
「……いえ、少なくとも途中で途切れることはなかったですね」
その答えに、うん、と頷くと、ガルムはいよいよ眼差しをまっすぐ俺に向けて、何かを説くように語りだす。
「ナル坊、あの世界、龍神様の前で見た世界は、すなわち自分のものであると、そう自覚しておくれ。そして、紋章が円に収まりきらなかった訳を考えてみるんじゃ。龍神様は、ぬしに何とおっしゃった」
「……さびしいところ、宝の持ち腐れ、と」
「そう、あの世界で見たものの広さ、豊かさはそのまま自分の心の状態じゃ。そしてそれと紋章、果てはマナは、理を同じくする物であると。
会って間もないものをこう判断するのもなんじゃが、ぬしの心は、疲れてるんじゃの。そして、さびしいと思いつつ自分からよることもせずただ羨ましそうに見ているだけ。それらが、荒野と青空となって形を成したのじゃ。
あの世界の広さは真名の意味の深さによって決まり、そのままマナの保有量に直結する。ぬしの真名は相当強く、スペースは相当にあるが、心の未熟さ、傷と言ったものがマナを創るのを阻害しているのじゃ。紋章は宿主の潜在能力によって決まるから、未熟な素質に耐え切れず、円の外に出てしまっているのじゃろう。
――心当たりが、あるかの?」
「……ええ」
俺はうつむきながら、やっとのことでそう答えた。いやはや、自分で自覚しているつもりだったが、第三者から言われるとなかなかに堪える。
「……そうか。先ほども言ったように、魔法、紋章は心によって左右され、時には成長することもある。わしはこうして知識としてぬしに伝えることはできるが、自分のことは、自分でするしかない」
「ええ、よくわかってます」
「なら、言うこともあるまいよ。――まあ素質は十分にあるのじゃ。仕事をする分には問題あるまいよ」
「あの」
「ん?なんじゃ」
「向こうで、龍神様に、『喰われるなよ』と言われたのですが、どういうことか分かりますか」
「……これも少し長い話なんじゃがな。ある伝説がある。
それは、とても強い加護を手に入れた少年の話じゃ。その少年はたぐいまれな武と魔の才を併せ持って生まれ、人徳もあり、与えられた加護は竜紋。すぐに人々の尊敬の対象となった。しかし、悲しき人の性か、歳が二十にもなると、尊敬されるのが当然、と思うようになった。
次第に横暴になっていく彼の態度に、人々が恐れを抱くようになり、いつしか彼は人を支配するようになっていったのじゃ。そのころから、彼の紋章に変化が起こった。今のナル坊のように、絵柄がはみ出し始めたのじゃ。どちらかと言えば、絵柄を囲む円が小さくなったと伝えられているがの。そのころから、彼はよく眠れなくなった。毎晩夢枕に、彼のせいで死に絶えたものたちが立つようになり、彼を苛み続けた。しかし彼は何が原因かを慮ることもせず、独裁を続け、紋章の円はどんどん小さくなっていき、ある日、円が絵柄に吸い込まれるようにして消えた瞬間。
彼は、竜になった。」
「!?」
「その後、竜となった青年は土地を荒廃させ、虐殺の限りを尽くし、世界に甚大な被害をもたらした。そして現れたのが、三人目の異世界人であるそうじゃ。……名は歴史に載っていないらしいがの」
「……」
「無論、伝説じゃし、似たようなことが起こったこともないが、龍神様が直接、となるとその話も本当なのかもしれんのう」
ため息とともにそう語るガルムを直視できず、俺はその可能性を考えてみた。
何度も夢に出たあの恐怖。鱗でおおわれた自らの黒い腕。知りたくもない赤色。訳もなく体が震える。
「ナル坊?」
「いえ、大丈夫です」
微笑みと共にそう答える。立ち上がりながらガルムから剣を受け取り、乱れた裾を直した。
おもむろに、俺は紋章を眺める。横を向いた竜の、その鋭い眼が俺を見つめているような錯覚に陥るが、首を振りその考えを払う。
――喰われる、か。
「大丈夫そうじゃの。ロイが待っておることだろう、そろそろ行きなさい」
「ええ、そうします、では。……この部屋、弁償とかは」
「ほっほ。心配しなさんな。金はロイにつけとくよ」
その言葉に苦笑いして、俺は踵を返し、ドアへと向かう。ノブに手をかけ、捻る。
――喰われるわよ。
不意に彼女の言葉がよみがえる。
もし、この部屋で起こったことを、龍神が聞いているのだとしたら。
そう思い、なんでだろうか、口元が歪む。
不意に、思った。
――やってみろ。
……今度こそ、ドアを開けた。
――――――――――――――――――――
「はー、竜紋とはね。やっぱ異世界人は違うのかね。しかも三属もちだし」
そんなロイの言葉に、なんだか釈然としないものを感じながらも、そうかもな、と頷く。
教会を辞した俺達は、ルーシュナの街になれるため、そこら辺を探索していた。昼時で、俺が何も食べていなかったため、露店で軽くつまめる固いナッツのようなものをかみ砕きながら。
さて、俺の左肩に刻まれた紋章だが、絵がはみ出てることをのぞけば、とても凄いものであるようだ。
まず、浮かんだ絵柄が『竜』であること。竜とは、龍の次に崇拝される対象となる存在であり、またこの世界に実在する魔獣でもある。無論すさまじい力を持っており、討伐するには国家規模の軍が必要だ。それが紋に現れるということは、その力の一端を身に宿すということ。と言うより人間にはいまだに竜紋の力をすべて引き出したものがいないというだけなのだが、ともかくすごい。現在確認されている竜紋持ちは両手で数える程であり、それぞれが一騎当千であるとか。さらに言えば、ロイの紋章のうち、白トカゲも竜であるので、然り。
恐ろしいことである。
次に、紋章には必ず色がついており、それが各個人の属性となるとか。基本的には四つ、火、水、風、土であるが、それぞれに上位互換の属性が存在する。そして、相反する属性に光と闇があるらしい。それぞれ赤、青、緑、茶、白、黒で、俺は背景に青と緑、そして紋章に黒を持っているので、水、風、闇の属性を持っているということになる。
まあ竜紋、三属。これだけなら問題ないのだが、問題はそれらが共存しているということだ。
ここでまた紋章の構造について説明することになるが、そもそも紋章とは一般の定義としてはその絵柄だけをさし、背景の色云々は本人のもとより持ってる資質である。絵柄こそが龍神より与えられる加護であり、それらは普通、共存する。
しかし、竜紋だけは別だ。竜紋は本人の資質とは相いれない。加護が、強すぎるためだ。本人の持つ領域や資質を、竜紋は自らの力で塗りつぶしてしまう。世界にいる猛者たちも例外ではなく、竜紋の周りの空白の部分は肌の色が露出しているらしい。
ただ、ロイなどのように、特殊な方法を用いて紋章を継承した場合はまた別で、本人の資質と違う所にまた新たな領域を作り出すことで、竜紋かつ二属であることを可能にするとか。そのためにロイの紋章は鷹と竜がいるらしい。
「まあ神の加護だしな、別に例外があっても不思議じゃねえだろ。問題は使えるかどうかだしな」
ロイはそう言って欠伸をした。
そんなこんなで、街の散策が終わり、陽が傾きだしたころ、俺達はギルドに戻った。さすがに国を代表する五大だけあって、その構えは立派なものだった。観音開きの扉をロイが押し開き、俺はそれに続く。中は俺が思ったほどやかましくなく、何台も設けられた丸テーブルに人が集まり、何かひそひそやっているのが見て取れた。
「なんだ、今日はやけに静かだな」
ロイがマスターの威厳など微塵も感じさせない横柄な態度でずんずんと進む。その先にはカウンター式のテーブルがあり、日本語で「受付」と書かれた板が天井からぶら下がっている。またその向こうに同じ格好をした少女が数名忙しそうに奥へ行ったり来たりしているので、あそこが仕事斡旋所なのだろう。
そんなことを考えていると、俺の顔の右側が不意に翳った。見れば何やら不満そうな目つきの女性。少しくすんだ金色の髪を肩の所で切りそろえていて、目尻は俺をにらんでいることを差し引いても鋭く、きゅっと締まった唇は彼女のりりしさを際立たせる。はっきり言ってかなりの美人なのだが、面識もないのににらまれたのではたまらない。少し腰が引けながらも、俺は問うてみることにした。
「何かご用……」
「ふん、見るからに貧弱そうだな。ウチに来たのは間違いじゃないのか」
質問すらできなかった。それどころか、地球でそれなりに鍛えていた覚えがあるが、貧弱だと頭ごなしに言われてはさすがに腹が立つ。まあこの世界の基準なんて分からないのだが。
「おい、どうした」
受付で何事かをしていたロイが、互いに睨み合っている俺達のところへやってきてそう言って、そして女性の方を見て何かを判断したような顔をした。有体に言えば、渋面をつくった。
「マスター。本当にこんなやつを入れるつもりですか」
「ああ、魔力障害で記憶も抜け落ちてるみたいだったし、剣やマントを見る限り路傍の石ってわけでもなさそうだったからな」
「つまり、マスターが見込んだと……?」
不意に剣呑な目つきになる女性。その顔を見て、ロイは明らかにしまった、というような顔をした。
「ふん、どうせ何かの間違いだろう。すぐに死ぬようなことにはなるなよ、天竜の名が穢れるからな」
「……」
俺が黙っているのが気に食わないのか、再度ふん、と鼻を鳴らして踵を返し、掲示板のようなところへ去っていく。
しかし、いるんだなあ、名前に固執するやつ。美人なのにもったいない。
「普段はいいやつなんだが、ちょっとプライドが高くてな。自分が認めた奴にしか親しくしようとしない。実力は確かなんだが、集団戦には向かない奴だよ」
「……天竜の名って、重いもんなのか?」
「いや、あくまで先代やその前のギルドマスターが功績を遺しただけだからな。今代は今代。関係ねえよ」
「……じゃあ」
「ああ。困ったもんだぜ」
二人で嘆息しながら、受付に向かう。みんな大好き受付嬢さんもとても応対がよく、何より華がある。見習ってほしいものである。
その受付嬢の説明を聞き、以下のようなことが分かった。
一つ、ギルドに登録する際に、身分証として媒体を一つ作りと言うこと。これはテンプレ乙なカードタイプのものと、腕輪型の物があるらしい。カードだと紛失する危険があるので、腕輪を選んだ。
二つ、サービスではあるが、一応、新規登録者は魔力測定をするようだ。これは、この世界が魔法に頼るところが多いため、ある一つの強さの指標になるからだそうだ。のちに別室で行うようだ。
そして三つ。当ギルドは五大ギルドの一角を担っておりますので、実力判定試験を執り行います。だそうである。内容は刃挽きした武器、魔法、なんでもありの模擬戦。合格確率は三割を割るとか。
いやはや。
俺、魔法使ったことないんですけど。
ロイにその旨を伝えてみると、何とも残念そうな、もといめんどくさそうな顔をした。
「誤算だった……あの試験はベテランでもきついってのに」
「おい」
まあ実力主義なら通用しなきゃ意味はないからいいんだが。それでも予想外だった。
どうやら次の試験は五日後にあるらしく、その頻度は隔月なので約六十日待たなければならない。
どうしようか、と悩む俺達の前に、いや後ろに、一つの影が落ちた。
「ふふふ、私に任せなさい」
そういえば懐かしい声を聞き、振り向いてみれば。
流れる銀髪。厚い唇。超絶残念美人の。
「ミラ、参上」
もう、どうにでもなれ。
とりあえず、フラグ。
タグにチートは入れませんでしたが、少し考えようと思います。
では。




