第4話「グラフの権能」
マスターの手当てを終えた俺たちは勢いよくスパイダーとやらのアジトに向かった。もちろん俺はアジトの場所なんて知る由もないがグラフの方は知っているらしい。というより結構有名な悪党らしくアジトの場所も結構知られてるとか。
そんなわけで俺はグラフにすべてを任せて飛び出したのである。
そんな能天気な俺でも一応気になってはいた。スパイダーは何人くらいの組織でどれくらい強いのかが当然である。いくら俺でも無謀な戦いはしたくはないし、100人くらいいられたらそれはもう2人でやるには無謀だ。
そして今回はもしそれくらいいたとしてもおっちゃんの仇でグラフはものすごくやる気満々だし、俺としても本は読みたいのでどんな的であろうと結局は戦うのでめんどくさくて逃げたりはできない。だからすごく気になっていた。
「ところで、スパイダーは何人くらいの組織で二人で勝てるくらいなのか?」
「その名の通り蜘蛛の足の数と同じ8人の組織だ。だが、ほとんどが俺からしたら雑魚だな。幹部の2人が仕切ってるみたいな感じらしい。奴らが有名なのもイニティウムでの話だ。雑魚ばかりを狙って盗賊紛いのことをしている連中だしな。だが、油断はするな。よく耳にする噂では上の2人は蜘蛛のような糸を使う奴ともう1人は剣使いとも聞けば体術で戦うとも聞く。」
安直だな!
8人の組織だからスパイダーって…まぁとにかく8人ならたぶん余裕だなグラフの反応からしても余裕そうかな。おそらく幹部2人は権能を扱えるんだろう。それを町の連中が必要に怯えたって感じかな。権能くらいは扱えて当然。
「あれがアジトだ」
倉庫……みたいな見た目をしている。薄暗いグレーの豆腐型の建物。外にはシャッターみたいなものが付いていてその横には小さな扉がある。
いかにもって感じのアジトだな。
さて、どうやって侵入するか。あんまし深く考えなくてもいいだろうし適当に作戦はっと。
作戦1。
正面の扉から丁寧に入る。
これはなんか舐められそうだし、微妙かな。
作戦2。
裏から奇襲攻撃。
これはグラフが考えてそう。正直これが一番スムーズに済むだろうし。楽かな。
作戦3。
正面の閉まってるシャッターみたいなやつを破壊して侵入。
これは、迫力出る感じかな。
正直2の方がいい作戦だけど……3で行こ。楽しそうだし。
でも多分これをグラフに伝えると(やめとけ)って止められそうだから……。
「行こう、グラフ」
そう言って俺は勢いよく地面を蹴った。ただ全力を出したのではなく空間を使って足元の空気を固めて踏み台にして、それと同時に自分にかかる空気抵抗を極限までなくして一気に加速する”ラピッド”を使った。それだけではなく覚醒率10%を超えたころに扱えるようになった”身体強化‘‘も使ってね。
グラフに行こうといったときに何かグラフが作戦を言おうとしていたのは知らないふりをしておく。勝てる可能性の高い相手にそもそも作戦なんて面倒なのである。そもそも俺がやろうとしていたこれを話したら止められるしね。
俺は50mほどあった距離を一瞬で詰めてそのままの勢いと“身体強化”をしたまま一気にシャッター部分の大きな壁をぶっ壊した。
「なんだ!?」
中にいた連中は数人焦ったような表情で声を荒げながら振り返ってきた。おそらくあまり動揺してなかった奴らが幹部なのだろう。
「リーヴル。お前な」
叱られそうな雰囲気なのでまたしても聞かないふりをして注意をスパイダーの連中にそらす。
「舐めてんのか!? テメェら!」
「激怒してんじゃねえか。あいつら」
「先におっちゃんに手出したのはあいつらだしね。とりあえずやるぞグラフ」
都合よく吠えてきたので俺はちょうどいいと思いながらそれっぽい理由を並べて臨戦態勢に入る。
「それもそうだな」
グラフも何とかその気になってくれたのでセーフということにしておこう。
まず初めに「なんだ!?」と大きな声を上げたヤツらが4人。それと「舐めてんのか!?」と奮起したヤツらが2人が襲いかかってきた。
一方、最初に幹部だと予想した2人は腕を組みながら壁にもたれた状態でこちらを睨んだまま止まっている。
「まずは雑魚6人か。半分は俺が倒す。残りはリーヴルに任せる」
「おう!」
グラフの作戦をおそらく台無しにしたのは俺なので責任を取って俺は先に前に出る。
「さぁ、俺が相手してやる! かかってこい!」
「舐めやがって!」
俺の敵は剣が2人。そして1人は鉄砲のようなものを使って襲いかかってきた。前衛が2人に後衛が1人。しっかりとフォーメーションを組みながら両サイドから挟み込むように剣を振ってくる。そして、正面にいる後衛が鉄砲を放ってきた。俺は少し後ろに飛びながら空間を発動させる。
その能力で俺は前衛2人の正面の空間を歪ませ剣の軌道を操作する。空間曲折である。
そして、2人の剣を交差するようにぶつけさせた。俺は視認できる範囲なら空間の影響範囲なので飛んできた鉄砲の弾も空間を歪ませて軌道を変える。弾を俺からみて右側にいた敵の足へ命中させた。
足から崩れ落ちたので結構いたそうである。
そして、残りのは左側にいた敵めがけて”ラピッド”と”身体強化”を発動させながら顔面をぶん殴ってやった。威力は先ほどと同等で申し分ない。ただ計算違いだったのは吹き飛びすぎて後ろの後衛の敵に当たってそのまま二人とも壁に衝突して気絶してしまったことである。
まぁ一石二鳥なので問題ない。雑魚を片付けた俺はグラフの先頭に目を移した。
――――――――――
(リーヴルのやつ、勝手に派手に突撃しやがって。作戦が台無しじゃねぇか。)
「ぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「突撃してくるなら、黙って来いよ」
グラフのやつの敵は俺とは逆。前衛の剣1人に、後衛は2人の鉄砲隊。敵の声を上げて動き出すと同時に、グラフは空中に何かを書き出した。何か道具を持っているわけではない。ただ、指でなぞった場所に線が浮かび上がる。そして、すぐに書き終わると――刀が出現した。
おそらくこれがグラフの権能表象
そしてグラフは刀の技能も高かった。おそらくは”熟達級”
技能とはこの世界の覚醒率とはまた違った強さの指標であり、剣術や体術など様々なものに使われる。その中でも”熟達級”は剣士でも皆がなれるものではなくかなり高い水準なのである。
まず、前衛の後ろから2発飛んできた弾丸を両方とも真っ二つに切りながら前衛との距離を詰める。
そしてグラフももちろん”身体強化”は扱える。熟達級で”身体強化”を扱えるものならそこらの使い手では相手にもならずグラフは敵の剣ごと切った。
そして、後衛2人もすぐに距離を詰めて防御する暇もなくわずか二撃で片づけたのである。
その戦いはまさにあっぱれであった。
「さすがだな! グラフ」
「お前もな。リーヴル」
「ッチ」 「雑魚どもがよ」
するとここで壁にもたれかかっていた2人が動き出した。
「じゃあ俺があの銀髪剣士の相手をするからシルクはあの黒髪を頼む」
一応説明しておくと銀髪剣士とはグラフのことであり黒髪とは俺のことである。
「じゃあ、殺すぞ。エッジ」
「あぁ、やるぞ!」
なんでかは分からないけど殺気がすごい。俺には理由がわからない。アジトの破壊か部下をぼこぼこにしたことなのか。容疑が多すぎるからだ。
それはともかく勝手に戦う組み合わせを決められてしまったけど異論はないので俺たちも乗っかる。
「じゃああっちの手や足から刃が生えていて見るからに体術とも剣士とも噂があった方のがお前らしいから頼むな。俺はシルクとやらだな」
「わかった。気をつけろよ」
「じゃあよろしくなぁ、銀髪くん。お前のその刀俺の刃で真っ二つにしてやるよ!」
「弱いやつはよく吠える」
「なんだと!ぶっ殺してやるよ!!」
先に始まったのはグラフの方だ。相手の能力は刃というらしい。まぁずっと手足が刃みたいに変形してたしな。おそらくやつの能力は手足を刃に変えて戦うタイプ。だから、剣士とも噂が出ていたり、体術とも出ていたんだろう。グラフはさっき出していた刀をしまうことなくそのまま構えている。特に新しく何かを描く素振りはない。
そして――
2人の戦いが開幕した。序盤はエッジの方が手数の多さで攻めていた。まるで体術使いのように刃をふるっている。細かく両手で交互に殴りながら後ろから回し蹴りで頭を狙う。エッジの体術も相当なものでグラフの剣術と同じく”熟達級”と言える。
ただ、グラフはそのすべてを剣でいなしている。
「防戦一方だなぁ!」
「騒ぐな」
(こいつの体術は確かにそこそこな域にまで達している。ただ、殺気立ちすぎている。狙いが単調で分かりやすいし大ぶりの技では必ず頭に狙いを定めている。)
「避けてばっかりで埒があかねえなぁ。もっと本気を出してやるよ!」
エッジのやつも覚醒率が10%を超えていたらしくここで”身体強化”を入れた。
「まさか、身体強化までできるとはな」
シルクとやらが動かないのでグラフを横目で見ていた俺は疑問に思っていた。それはグラフが”身体強化”を発動していないことだ。なぜかずっと防戦一方である。温存とかではない気がする。そもそも身体強化はやろうと思えば常時発動することができる。だから今のグラフはおそらく手を抜いている。
なぜかは分からないけどね。
「ほらほらほら! ちょっとずつキツくなってきたんじゃねえか!?」
(”身体強化”は少し面倒だけどまぁ問題ない。もう終わりだからな。)
観客となっていた俺は声が出ないほどに驚いた。それは突如、エッジが炎に包まれたからだ。
「なんだ!! これは!?」
「ただ、単調な攻撃のお陰で楽だったよ」
俺はエッジが声を荒げて少ししてから理解した。グラフは攻撃をいなしながら刀の先でエッジを囲むように絵をかいていたのである。
後になって聞いたことだが、グラフの表象は色を使い分けれるらしい。色が実際に必要なわけではなく想像でいいらしくその用いた色によって火や水なんかもいろいろ使うことができるらしい。
そしてそこから一瞬で決着がついた
「じゃあな。単細胞」
エッジは動けなくなり炎の渦を退ける間もなく最後に”身体強化”を発動したグラフの力強い斬撃によってエッジの自慢の刃ごと叩き切られた。
(次はリーブルだな。油断するなよ。おそらくスパイダーのボスはシルクだろう。)
【設定メモ】
”身体強化” 覚醒率が10%を超えているもののみが扱うことのできる技法。
技能 能域とはまた違った強さの指標のようなもの。
次回、第5話は9月30日(水)20時公開予定です




