5.お粗末すぎる悪巧み(2)
仕事と夜会の準備に追われているうちにあっという間に年は明け、新年の夜会の日がやってきた。
前回と同じく、エヴェリーナはまだ日が高いうちからラファエロと共に王宮に向かい、念入りに準備を施された上で会場入りを果たした。ステラーレの役も二回目ともなれば精神的にかなり余裕ができ、王族より先に踊り始めることも今回はさほど抵抗感なく受け入れられた。
何よりラファエロに対する信頼度が前回とは格段に違う。トリステラ領の聖騎士団で息子の模擬試合を見たあの日以来、エヴェリーナの中でラファエロに対する苦手意識がなくなった。
息子のこと。マリアンナからの課題のこと。自分の心を癒すこと。エヴェリーナが抱えている問題について、ラファエロはその後も幾度となく温かい助言をくれた。お陰で回帰してからの僅か数ヶ月間で、エヴェリーナの自己肯定感は均衡と健やかさを完全に取り戻していた。
無事ステラーレの役目を終え、控室で若草色のドレスに着替えた直後、コンコンと扉を叩く音がした。今回は間違いなくラファエロだろう。期待に胸が弾む。
(前回の夜会では彼が鬱陶しくてしょうがなかったのに、私ったら現金ね)
以前だったらそんな自分にも一々嫌気が差していた。しかし今は、そういう自分の心境の変化を好もしいと思う。苦手な相手と仲良くなれたということは、自分の味方が増えたということだ。これ以上心強いことがあるだろうか。
「もしかして早すぎましたか?」
「いいえ、丁度今、支度が終わったところです」
「それなら良かった」
夜会服を纏ったラファエロはいつもより三割増しで男前に見えた。男神フェブリヌスの衣装も似合ってはいたが、あの姿は神を模しただけあってどこか人外じみていた。こちらの方が人間味が感じられ安心感がある。
「では参りましょうか」
今回はラファエロと共にきちんと夜会に参加するつもりだ。夫やその愛人に鉢合わせようがどうでも良い。万が一見かけてもエヴェリーナが見て見ぬふりをすれば済む。きっと向こうもそうするだろう。
気づけば夫への執着心は綺麗さっぱりなくなっていた。
控室を出ようとするエヴェリーナを、しかしラファエロが引き止める。
「その前にこれを」
彼は持ってきた革のケースをエヴェリーナに差し出した。分厚い本の大きさほどもあるその蓋を開けると、磨き上げられたジュエリーがひと揃い鎮座していた。数年前に儚くなった母が公の場で必ず身に着けていた、アルディーティ侯爵家に伝わる家宝だ。
「トリステラ卿、どうしてこれを……?」
「公子様が、前アルディーティ侯爵に連絡をとり、今日のためにご手配されたそうです」
「ガブリエーレが?」
思いがけぬ話にエヴェリーナは瞬きする。
息子にアルディーティ侯爵家のパリュールについて話したことがあっただろうか? それともまさか、あの父がまだ十歳の息子に話したとでも?
いずれにせよ、このひと揃いのアクセサリーを自分が手にすることはないだろうと思っていた。前回の人生でも、一度も身に着けることは許されなかったのに。
「社交に出るのはお久しぶりでしょう。今日は絶対にこのパリュールを身に着けておいてください。私が全力でお守りするつもりですが、万に一つも何かあっては困りますから、万全を期しておいた方が良いでしょう」
「?」
その言葉の意味を最悪の形で知ることになろうとは、この時のエヴェリーナは予想すらしていなかった。
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