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22,『義を見てせざるは勇無きなり。四鏡華音。義によって助太刀する』

「ぐうう。…がああああ!!?…おにちゃ…逃げでえええ!!?」



水無月は例えるなら細い線一本でようやく理性を保っていたのだ。

魔力に飢え、魔力を貪りたい衝動を無理矢理押し込んでいた。

だが天川に無理矢理その線を切られ、暴走した水無月が天川を襲い掛かる。

対する天川は逃げずに真っ向から対峙する。


で。


この土壇場で。


天川は思い至る。


(そういや水無月は夢越しに魔力を喰うんだった!?…いやそれじゃ前提条件が!!?)


「ちょ!?やっぱたんま…!!!??」


さっきまでの威勢良さが消え、天川は慌てて背中を向こうとするが時すでに遅し。

暴走した水無月の身体能力はすさまじく、天川までの距離をあっという間に詰めた。


そして。


「…ん!!??」


これも予想外。

水無月は天川に抱き着き唇を重ねたのだ。

だが頬を赤らめる暇もなく次の刹那。


(うおおおおおおお!!????力が…魔力が!アホほど抜かれていく!!?)


暴れようにも力が急速に抜けていき且つ、暴走した水無月の拘束力も凄まじいので逃れることが出来ない。





だが。


想定外はいくつかあったものの。


この状況でようやく天川の思惑通りとなった。


だが水無月は無抵抗になった天川に妖艶な瞳を向け、容赦なく天川の魔力を唇越しに食らい続ける。


一件天川の絶命は必至かに思えた。


しかし。


天川には六文銭から授かった。


唯一にして最強の武器がある。



(…ここらが限界、だな!)


「…!?」


時属性変化。

天川の魔力範囲内に限り、

時間の流れが遅くなる。



「…ふう。俺が食えって言ったけどな。少しは手加減しろよ…マジで死ぬとこだったぜ?」


天川は名残惜しくも?顔と体を水無月から離した。

一方の水無月はというと、突然自分自身の身体が動かなくなり訳が分からなくなっていた。

天川は水無月の顔の前で手をパチンパチンと数回叩いた。

すると。

ある程度魔力を食べて満足したせいか。

水無月の紅い目が通常に戻った。


「…お兄ちゃん?これどういうこと?」


未だに体を動かせないでいる水無月はぽかんとした表情で天川にそう問うしかなかった。


「へっへー。なにもできないだろ?このまま霧雨ちゃんのスカートの中!覗いちゃおっかな~♪」


そう天川は嫌らしい笑みを浮かべた。


「…お兄ちゃん」


水無月はそんな天川をゴミを見るかのような目で見つめた。


「…冗談だよ。ほれ」


天川は属性変化を解除して、水無月を解放した。

そして。

今度は冗談でなく真剣な面持ちで水無月にむきあった。


「…なあ霧雨。俺は物事をごちゃごちゃ考えるのは好きだが、肝心要、他人の気持ちを考えるのは不得意なんだ。まったくもってよくわかんねえ。…だから率直に聞く。俺のこと本当に嫌いなのかよ?」


「…」


少しの間が開き。


水無月はわざとらしくため息をついた。


「お兄ちゃん本当野暮だよね。ここまで追いかけてきてそんなこと聞くフツー?…結局お兄ちゃんは霧をどうしたいのさ?」


野暮だよね。

華音さんにも言われた。

自分でもわかっている。

自身の気持ちを強く推すことができない心の弱さ。


「お前さえ良ければ俺の師匠…てか先生か。その人の下で生活しないか?そうすれば毎日ってわけにはいかないが俺の魔力を定期的に補給させられる」


まだ六文銭とは具体的にそういう話はしていない。

水無月がこれまで本当に多量の人を殺めていたとしたら、普通の生活に戻ることは通常不可能だ。

だが、これまでの経緯で六文銭が四鏡同様に『そういうことを捻じ曲げる』ことができる人物だと天川は理解していた。

そしておそらくは暴走した水無月をリスクなしで抑え込むことが出来るのも、天川が知る限りでは六文銭しかいない。

しかし、天川の提案に水無月は答えず、海の家に入ってってしまった。

しばらくして、水無月はアイスを二つ持って出てきた。


「ほら!お兄ちゃんもここに座る!!」


水無月はドサッとベンチに座り、その横をバシバシと叩く。

言われるがまま天川もベンチに座った。そしてアイスを渡される。


「…チョコミントか。嫌がらせかよ?」


「ん~?お兄ちゃん前に年食うとうまく感じるって言わなかったっけ?」


「年食ってもまずいもんはまずいんだよ。これまめな?」


「うそつき~♪」


そう言って水無月は無邪気に笑った。


そして。


急に俯いて。


暗い笑顔に変わった。



「………霧…お兄ちゃんと一緒にいてもいいのかな?霧、あんなに人こ……んぎゅ!!?」



言い終える前に再び、天川がチョコミントを水無月の口に突っ込んだ。



「お前こそ野暮な事聞くな。…俺が、………俺が、…とにかく!!別にいいんだよ。…何とかなる、うん………ぐえ!!?」


今度は水無月のアイスが天川の顔面を直撃した。


「やっぱりお兄ちゃんってキモい…じゃなくてきしょい♪」


そしてお互い笑い合った。



一見して。


大団円。


だが。


水無月霧雨が。


四鏡勘九郎が。


連続殺人鬼には変わらない。


その事実は消えようがない。





「…魔力を喰うね。なるほど、こんなガキが犯人じゃあ捕まるものも捕まらねえか」





「!!?」「…?」


一人の男が天川と水無月の前に立っていた。

190前後はあるであろう長身。細いが引き締まった体でノーネクタイの濃紺スーツをチンピラみたいな感じで着崩している。

咥えたばこに無精ひげ。茶色いウルフカットでワイルドなイケメンだが人相の悪さがそれを台無しにしていた。


魔法公安課。


氷室炎々羅。


個人の判断で処刑が許されている超法規的措置機関。


(空港で会った時からつけられていたのか…!?こんなことに頭が回らないなんて!)


天川はそう後悔したが時すでに遅し。

しかしそれも仕方がない。

氷室は武闘派だが潜伏潜入も警察として超一流の力を持っていたのだ。

気づかれないように尾行するなど朝飯前なのだ。


「おい化け物。めんどくせえから率直に聞くぜ?四鏡島の神隠しってのはてめえの仕業か?」


氷室の危険な瞳は水無月に向けられていた。

どう見ても可憐な少女の見た目をしている水無月を化け物と呼ぶ氷室。

魔法公安課の鋭い嗅覚が一瞬で見抜いたのだ。

人ならざる者。

異常者。

水無月霧雨に。

そして。

水無月も人ならざる者として

氷室の異常性に気付いた。

しかし。


天川が水無月の方を向くと水無月はまるで焦っていなくむしろつまらなそうに答えた。


「神隠し?霧、よくわかーんない。…でも、ここで人を何人も食い殺したは本当。…テヘペロ☆」


水無月はわざと氷室を煽るようにいう。

そして。

流し目で天川に逃げてと促す。


(…ふざけんな!?ここでお前をおいて逃げられるかよ…!)


そう睨み返す天川に水無月はため息して再び氷室を見据える。



「話が早くて助かるぜ。…にしてもお互いを気遣いあうなんて随分余裕じゃねえか?…安心しな。二人まとめて爆殺してやっから…よ!!」



氷室は加えていたタバコを右手の掌に押し付けた。

刹那。

氷室の右手は爆炎を纏い。

刹那。


眼にもとまらぬ速さで。


天川と水無月の目の前に迫った。


油断。


眼が紅い状態の水無月なら氷室の速度についてこれただろう。

だが。

氷室は陰で天川と水無月のやり取りを見ていた。

天川の力の謎までは分からなかったが。

ならば。

発動前に叩けばよい。

焼き殺せばよい。

シンプルだった。

一般人の天川まで纏めて殺そうとする氷室の異常性。

否。

氷室と初めて会った時。

天川は氷室に今回の事件の情報を伝えなかった。

それだけで。

氷室にとっては殺す理由に足る。




「おにいちゃ!!?にげてえ!!!!?」


「!!!?」


「無駄だあ!!死ねえええええ!!!!!!」


水無月が天川を横に吹っ飛ばそうとしたが間に合わない。

氷室の業火が二人に迫った刹那。




「…まったく。これではどっちが殺人鬼かわかりませんね」




華音だった。

華音が両者の間に割って入り。

氷室の業火を纏った右ストレートを止めていた。


「…四鏡んとこの人形か。人間様の邪魔してんじゃあねえぞ…!」


氷室は止められた右ストレートを左手で触れ、左手にも業火を移した。

そしてその左フックが華音を襲う。

だがそのフックも華音に止められた。

…しかし。

同時に華音の両腕が氷室の業火に包まれた。


「…天川様。水無月を連れてここから離れてください。これは私が止めます」


「止めるだあ?そのやせ我慢がいつまで続くか見ものだな?」


両者手を組み合った状態でじりじりとなっている。


「ありがとお姉ちゃん!でも逃げなくたってこんな奴私が一瞬で………んぎゅ!!?」


そういって眼が紅くなりかけた水無月は華音に加勢しようとしたが、天川に背後から押さえつけられる。


「…華音さん。死ぬ気じゃないよな?」


水無月が暴れてなにか言っていたが無視して抱きかかえた天川。


「無論です。邪魔なのでとっとと消えてください」


そう、いつもの無表情で華音は返した。

天川は水無月を抱えたまま無言で走り出した。


そして。


天川と水無月がこの場からいなくなったと同時に距離をとった、華音と氷室。

華音が雑に両手を振ると、華音の両腕に燃え移った氷室の業火が消えた。


「…あん?てめえ、何しやがった?普通の奴だったら骨まで溶けているはずだが」


訝し気な表情を華音に向ける氷室。

それもそのはずであれだけの炎を長く受けていたのに、華音の両腕はロンググローブが燃えた程度でほぼ無傷だったのだ。


「答えたくありません。それを口にすると反吐が出そうですので」


そう慇懃無礼に一礼する華音。


「はん。まあ、どうでもいいがな。…いずれにせよ犯人が特定できた以上、せぐ必要もねえしな。取り合えずお前から血祭りにあげてやるよ」


そう言って氷室は煙草を吸いまたもその火を右手に押し付けた。

業火が纏われる。


(…さて。恐らく『次』まともにあの炎を受けたら…こいつの言う通り、腕が無くなるどころか命すら危ういわね…どうしたものか)


今度はゆっくりと華音に近づく氷室、と同時に後ずさる華音。

華音には人ならざる怪力がある。

それを使って氷室を殴り飛ばせば勝機もあるだろうが、それには氷室の業火をかいくぐらなくてはいけない。

氷室曰く骨まで溶かすほどの火力を持つ炎を。


「どうした?さっきまでの勢いは?言っておくが俺は男女平等だからな。手心は期待すんなよ?」


(…あの二人をやろうとしてたのに何をいまさら)


華音は意を決して構える。

逃げ回るという手もあったが、それではターゲットを天川たちに変えるかもしれない。

ならば。

危険は承知の上で奴の懐に飛び込み。

一瞬で奴の意識を立つ。

判断を誤れば死がすぐそばに訪れる。

だが、成功すればすぐに殺せる。

両者の目が鋭くなり、一触即発状態に。

だが。

その状態は番外の登場人物によって解除される。



「義を見てせざるは勇無きなり。四鏡華音。義によって助太刀する」



初老の男。

忍者のような黒装束を纏っていた。長髪を後ろで縛っている。

華音の隣にいつの間にか現れ、立っていた。


誰だよ?


という単純な疑問が華音と氷室に浮かんだ。

だが華音ははっとなり男に声をかける。


「…もしかして、六文銭様が仰っていた『保険』ですか?あなたが」


「いかにも。霧隠才蔵という。陰ながら天川を守るように言われていた。だが私が守るはずだった天川をお前が守ってくれた。ならば私はお前を守るとしよう」


そう言って才蔵は氷室に向き合った。

華音は内心、ホッとした。六文銭の手の物なら実力は折り紙付きだろう。

少なくとも自分の足を引っ張られることはない。


「…け。どいつもこいつもカスかよ。あのガキが何人殺したかわかってんのか?そのガキを救おうってガキを助けるだあ?正気かお前ら」


そう不機嫌に唾を吐く氷室。

然り。

異常に過激なだけでこの場合氷室の言い分が通ってはいる。

だが氷室を見据える才蔵と華音の瞳は揺るがなかった。


「泣く子も黙る魔法公安課が正気を語るか…失笑ものだな?氷室炎々羅」


「…少なくとも、あなたよりはいい男ですよ?天川様は」


そう嘯く二人に氷室の業火がさらに勢いを増した。


「オーケーオーケー、カス同士、お望み通り灰カスにしてやるよ」


激突する。











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