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21,天川翔と水無月霧雨

「さしあたって。霧雨がどこに行ったかなんだが」


四鏡邸。

地下施設から地上へ戻る階段を上る最中に四鏡が口を開いた。


「四鏡さん。それについては僕に心当たりがあります。…もっとも、そんな場所があればの話なんですけど」


そう天川が四鏡の言葉を繋いだ。

天川は夢の中で霧雨と出会った砂浜と、古ぼけた海の家のことを話した。

この開発されたリゾート地では存在し得ないであろうクラシックなビーチ。

だが四鏡は真剣な面持ちで頷きながら天川の言葉を聞いていた。


「…いや。心当たりは確かにある。だが霧雨がそこへ行ったかどうかは別次元の問題じゃないか?あいつは今極度の空腹状態だ。であれば餌…つまり人が多い場所…それこそ空港やらに向かったと思うのが正着」


四鏡の論はもっともではあったものの、天川は首を振る。


「確かに正論です。ならば空港へは四鏡さんがいけばいい。僕は今、水無月があの海の家のベンチに座っていると思っている。だから僕はそこへいく」


「………ふん。一応聞くが根拠は?」


「ありません」


「け、可愛くねえガキだぜ。…まあ、確かに正論なだけだからな。お前の直感を信じてやろう。…実は六文銭を既に呼んであるから、あいつがここに到着次第そこへ向かうといい」


どうせ俺たちはここを離れることはできんからなと階段を上り終えた四鏡がドアを開けながら言った。


「…どういうことですか?」


この期に及んで自分たちは水無月の捜索に加わらないのかと天川は流石に苛立ちを覚える。


「そう熱くなんなよ。今ここを留守にして万が一魔法公安課の連中にガサ入れされたら、流石の俺でも多少はやばいからな…」


それにと付け加えて四鏡は続けた。


「そもそも霧雨が暴走したのはお前が原因だ。なのでここから先はお前らでなんとかしろ。仮にお前の直感が外れて何人死のうが俺の知ったことではないしな」


「あなたは…本当に勝手ですね」


天川は自然に拳を強く握ってしまう。行き場のない怒りをどうしていいかわからないから。

四鏡の言うことも的を得ているのだ。

水無月は知ってか知らずか、天川の膨大な魔力を喰いすぎてしまい強制的な眠りから覚醒してしまったのだ。そして拘束から解き放たれ、同時に夢の世界から現実へも解き放たれてしまった。

自分が余計なことを言ってしまったばっかりに。

自分が夢で水無月に余計なことを言わなければ、四鏡島で定期的に数人が死ぬだけで済んでいたのに。

こうなった現状はどれだけの人が水無月によって殺されるかわからない。


それに。


水無月にその気がなくても。


天川自身、勢いで殺されるかもしれない。


いまさらだがアルマの言葉を思い出した。


『その結果、身を滅ぼすことになってもですか?』


…覚悟していたはずなのに。


アルマを一瞬見たがアルマは何も言わない。

冷たいでも笑うでもない。

無表情。

まるであなたが望んだ結果でしょうと言わんばかりだ。

…女々しいな。

アルマがそんなこと思っているわけないじゃないか。

くそ。やっぱクズは死んでも治らないのか…?



「四鏡様。私も天川様にご同行させていただきます」



「!?」「…!」


しばしの沈黙が流れた後、口火を切ったのは華音だった。天川は驚いて華音を見てしまったが、いつも通りの無表情だった。四鏡も天川ほどではなかったものの、目を見開いていた。

だがそれはすぐに戻り


「…華音。問答するつもりはない。俺とここに残れ」


と鋭い目つきで華音を制しようとする。


「拒否します。自体は一刻を争います故、六文銭様を待たずして出立されるのがよろしいかと」


だが華音も一歩も引かない。

それどころか華音は天川の腕を引っ張り、その場を去ろうとした。


「!!?か、華音さん!?これはどういう」


引っ張れるがまま、訳が分からないまま天川はそう華音についていく。


「どうしたのです?私に勝った時の勝ち気な態度は何処へ?…あんなくそ気持ち悪いじじいに言い負かされて」


「…」


そうして。

エントランスまでついた華音と天川。

四鏡は追ってはこなかった。

そして。

華音は振り向き。


天川に平手打ちした。


ぱしいんと奇麗で乾いた音がエントランスに響いた。


「気合入りましたか?」


「…」


「あ」


「…気絶させちゃいました。…テヘペロ☆」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…ここは?」


天川が目覚めると。

そこは大海原で、オープンクルーザーの座席だった。

隣で華音が操縦している。


「お目覚めですか。ご説明しますと現在四鏡様のプライベートビーチ…孤島といったほうが正しいでしょうか?そこへ向っています」


天川は思わず周囲を見渡す。


《…♪》


アルマが後ろの方で景色をご機嫌そうに眺めていた。

天川はとりあえずほっと一息をついて華音の方を向く。


「どうして助けてくれるんです?…いや、それよりもあんなことして後でただじゃ済まないだろうに」


華音は四鏡に仕える立場でありながら四鏡に逆らった。

会社の上下関係程度ならまだわかるが、自分の生死が関わる上下関係なのに。


「随分野暮なことを仰るのですね。惚れた殿方のために尽くしたい、発破をかけてあげたい乙女心がわかりませんか?」


そう恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく吐く華音。


「…華音さん。一応今は結構真面目にやばい状況だからふざけるのはやめようぜ?」


華音さんってそんなキャラだっけ?と脱力してしまった天川は思わず敬語じゃなくなってしまった。

そんな天川に華音は細目を向ける。


「…別にふざけていませんが?ですがやばい状況というのは同感ですね。そもそもですが…天川様。仮に天川様の予想通りに水無月霧雨がいたとして…それからどうするのです?」


どうするのです?

こんな簡単な質問に天川は答えることが出来なかった。

こんなことは会う前に考えるべきことなのに。

水無月の状態によっては。

殺されるかもしれないのに。

ならば。

やられるまえにやれ?


…冗談きついぜ。


「…華音さんよ。いくつか質問していいか?」


俯いて考えこみながらそうきく天川に疑問を思いながらも華音は頷いた。


「古ぼけた海の家はあるんだよな?」


「はい」


「そのまえにベンチもある?」


「はい」


「じゃあ最後に、その海の家にチョコミントのアイスっておいてあるか?」


「…。確か…はい」


質問の意図が読めない華音はとりあえず頷いたが、対照的に天川は顔を上げ軽快に笑った。


「水無月にあったらどうする?だったか?…そうさな」


天川は空を仰いだ。


「あのこきたねえベンチに並んで座って…」



「あいつの嫌いなチョコミント味のアイス無理矢理食わしてやる」




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここのビーチを道なりに進めば、目的地にたどり着けます」


オープンクルーザーを停泊させ、天川、華音、アルマが砂浜へ降りた。


「そっか。ここまで付き合わせて悪いけどこっから先は俺一人で行くよ」


「…そうですか。それではお気を付けて」


何か言われるかもと思ったが華音は存外素直に一礼するだけだった。


《アルマ…悪いけどお前もここに残ってくれ。…出来ればだけどな》


《あなたが望むのであれば、ここであなたの無事を願うとしましょう》


アルマも素直だった。

天川の意思を察したのだろう。


そして。

天川は二人に背を向けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こりゃあ、驚いたな」


天川は一人なのに思わず声に出してしまった。

夢に酷似している。

砂浜。古ぼけた海の家。そして古ぼけたベンチ。

初めてなのに鮮明に記憶に残っている。


「こんちはーって………流石におばちゃんはいないか」


四鏡はプライベートビーチになぜこんなものを造ったのだろうかという疑問はさておき、海の家はちゃんと電気が通っていて、アイスも冷えていた。

天川はカップチョコミントアイスを取り出し、店を出て誰も座っていないベンチに腰掛けた。


(…さあーて。俺の直感は大外れだったわけだが…これからどうするかね?)


水無月は夢で見たあの場所に必ずいる!

そう啖呵を切った天川だったが現実は非情である。

周囲を見渡しても水無月どころか人っ子一人見当たらない。

そもそも孤島なのに一応少女の水無月はどうやって来るのかという疑問が今更ながら天川の内に湧いてきた。

天川はチョコミントを頬張る。


(…あーあ。でも不思議とあんまりやべえとか思えねえんだよな…どうしてだろうな?)


口の中に爽やかな香りが広がる。

そして










「お兄ちゃん。…やっぱり来てくれたんだ」








声に気付きふと隣を見ると見慣れた少女が頭と足をご機嫌そうに揺らしていた。

黒髪のおさげで青色のワンピース。

10歳前後だろうか。身長は140にも満たない。


「当然。お兄ちゃんのロリコン具合を舐めちゃいけねえぜ?…あんときのおかえしだ」


そういって天川は食べかけのチョコミントアイスを水無月に渡した。

突然現れた自分を見てもまったく動揺しない天川に水無月は不思議そうに首を傾げた。


「お兄ちゃんってやっぱり変だよねー?…ってうげえ!?これチョコミントじゃん!?いらなーい!」


そうアイスを天川に突っ返す水無月。天川は再び受け取ったが、スプーンでアイスをすくい無理矢理水無月の口に突っ込もうとした。


「!!?え?ちょっと!!お兄ちゃん!?何すんの!?この変態!強姦魔!くそ野郎!!?」


「いいぞお!もっと罵れ!それでこそやりがいがある!」


よっぽどチョコミントが嫌だったのか。

よっぽど天川がキモかったからなのかはわからない。


だが結果。

それを拒絶しようとした水無月の。


水無月の目が紅く光った。


そして。


水無月の禍々しい黒紫の魔力が解放され、ほとばしる!




「うおおおお!!?」





天川はその勢いに十数メートルほどすっ飛ばされた。


だが。


このシチュエーション。

もうすでに。


予習済みだ。



「…なんでこんなことするの?もうこうなったら…霧…自分で自分を止められない…!」



水無月の赤い目から大粒の涙がこぼれた。

しかしそれに反して目は鋭く天川に向いている。


(…やっぱりだ。こんなちょっとしたことでも安全弁が外れるようになってる)


天川は強く死をイメージする。

そして。

リミッター解除!

魔力開放!!

水無月には勝るとも劣らない量の魔力が天川からほとばしる。



「…お兄ちゃん?」



天川は水無月を手招きし。



「安心して俺の魔力を喰え。自分で制御できねえって言うなら…」



天川は精一杯に虚勢を張った。



「俺が制御してやるよ」



















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