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19,「お兄ちゃんさ。せっかくだけど自分の家に帰ってよ。霧、やっぱりお兄ちゃんのこときらーい」

「あ゛ーしんどかっだ…でも何とかなったなー」


天川は自室にもどりベッドに倒れこむ。


《天川。あなたは結局何がしたかったのです?私の力で彼女とのゲームに勝つまでは良いのですが、水無月霧雨の情報を得るでもなく、最終的にはわざと負けて引き分けで終わる始末》


後からついてきたアルマがそう言いながらふうとため息をつき、椅子に行儀よく座った。

天川は華音の推察通り、カードの位置を知っていた。

しかもその手口は華音と同様で、リフルシャッフルで一瞬見えるカードの中身だけで全てを把握していのだ。

だがこんな芸当は天川には当然できない。


天川のいう所の女神。


アルマの力によるものだった。


華音と同じ。


人ならざる者の力。


《ああ、まだお礼言ってなかったな。あんがとよ、アルマ》


そう言って、うつ伏せから仰向けなった天川はアルマに向かってそう頭を下げた。


《別に。そう言うのはいいですから、先を言ってください。…まったく天川は調子がいいのですから。最高の女神がどうとかなんとか》


そう言ってツンとするアルマ。まんざらでもない感じだ。


《嫌がらせだよ、ただの。そもそもお前があのゲームに間に合っていなかったら勝負にすらなっていなかったしな。元々が負け戦だったんだから勝敗など関係なく遊んだ。それだけの事さ》


天川は自分の残したメモ紙の切れ端がアルマの座るひじ掛けに置かれたままなのを確認した。

アルマは恐らくそれを見て天川を探してくれたのだろう。


《それは然り…ですね。あの鮮やかなカード捌きから察するに…例えブラックジャック以外のゲームに変更したとて、天川の勝利は程遠かったでしょうね。むしろブラックジャックのような運要素が強いゲームこそ天川にも可能性がようやく出てくるという感じですかね?…まあ、それにしてもイカサマされていたわけですが》


これは天川も同じ見解だった。

ならばいっそ運要素の塊であるじゃんけんという手もあったが、華音は人ならざる動体視力を持つ。

もしかすれば手の動きを一瞬で見切り確認してからの手を出すことが出来るかもしれない。


《…で、私が来たことにより負け戦が裏返り…嫌がらせに帰結した訳ですか。天川の思惑がなんとはなしに見えてきた気がしますね。…ふふふ。嫌がらせ。ね。因みに私がいなかった世界線では天川はどう対応したのですか?》


そうクスクス笑むアルマに天川は頭を掻きながら答える。


《さあ?どうしてたんだろうな?…あんま考えてなかった。お前が来てくれて安心した俺だけがいたよ》


《…》


そう言って。天川は目を閉じた。

疲れた。

大体にして。

あのゲームは突発的なものだ。

華音側からいきなりに仕掛けられたゲーム。

運よく天川の想定通りに華音が動いてくれたから勝ちが拾えただけだ。

それも思考を捻り出し尽くしてようやくだ。

その上それはアルマがいてこそだ。

ギリギリの勝利。

全くもって余裕のない。

小さい小さい男。

天川はそう自分で自分を責める。

でもそれは当たり前だ。

元は天才でも何でもない。


ただのおっさんだったのだから。


《…なあ、アルマ》


《どうしました?》


《虚勢張るって疲れるな》


天川は深い眠りについた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「………ここは!?霧雨!!無事か!?」


天川が気づくとすぐに周囲を把握し、水無月の名を叫ぶ。

あの砂浜。

夢の砂浜。

水無月霧雨と出会った砂浜。


「おーい!霧雨ー!いるかー!」


天川は一面砂浜を走りながら呼びかける。

四鏡は水無月が無事だとは言ったもの、内心心配であった。

魔力を食べることを止めた水無月は大分元気がなさそうだったから。


それに。



早く水無月をと話がしたかった。



四鏡島に着いてからというもの。

初日だというのに色々なことが起こり過ぎた。


魔法公安課。

自己判断で極刑を下すことが許されている

氷室炎々羅と出会い。


四鏡島の英雄。

水無月霧雨を匿っているという

四鏡勘九郎と会合し。


人に造られたという人ならざる者。

人の出来損ない。

四鏡華音との駆け引き。


故に霧雨と話したいことが山ほどあった。


いや。


もうすぐ現実で会えるぞと言ってやりたかった。


しかし。


なぜここまで俺は霧雨に惹かれているのだろうか?


自問自答しながらそれでもその名を呼ぶ。


そして。


あのいつもの二人がだべっていた場所…海の家が見えた。

古ぼけた海の家。


「…!?霧雨!!元気にしてたか!?はは…!」


いつものように古ぼけたベンチに座る少女がいた。

黒髪のおさげで青色のワンピース。

10歳前後だろうか。身長は140にも満たない。


前回会った時は消え入るような感じで心配していたが、今回はご機嫌そうに頭を揺らしながらスイカバーを齧っていた。


「なあ、聞いてくれよ。お兄ちゃん実はさ…」


元気な姿を見せてくれた水無月に、自分がすぐ近くまで来ているぞと言おうとした。

隣に座って高ぶる感情を隠さずに天川は言おうとした。






だが。





「お兄ちゃんさ。せっかくだけど自分の家に帰ってよ。霧、やっぱりお兄ちゃんのこときらーい」






笑顔のまま。


水無月は突然に天川を突き放した。


「………なんだよそれ」


天川は想定外過ぎる水無月の返しに、動揺を隠せず顔を歪めてしまった。

しかし水無月は構わずにスイカバーを笑顔で齧っている。


「そんな顔しないでよー。ほら!最後のプレゼントにこれあげる♪ほらほらーロリロリな女の子の食べかけアイスだよ!」


そう言って水無月は天川に自分が持っていたスイカバーを天川に差し出した。

天川は少し間をおいてスイカバーを受け取る。


「…霧雨」


いっぱい話したいことがあったのに全部吹き飛んでしまった。

何か口にしたいのに何も言葉が出ない。

ただただ、スイカバーだけが解けていく。

そんな天川を見ても水無月はご機嫌そうに頭と足を揺らすだけである。



何かあったのか?



こんな簡単な質問が天川にはできなかった。


他人が死ぬまで魔力を食いつくす少女。


水無月霧雨。


だが天川に出会ったことにより魔力を食べることを止めた。

自分が死ぬことも厭わずに。

そんな水無月を助けやると息巻いて天川は四鏡島まできた。水無月もそれを嬉しそうにしていた。

だが一転して天川を突き放した。

ただの気まぐれかもしれない。

だが少女の中でそうならざるを得ない並々ならぬ理由があるとしたら?

六文銭曰く『世界を滅ぼしかねない』魔法使いの可能性がある姓を持つ水無月霧雨。

そもそも死ぬまで魔力を食いつくす行為自体が異常なのだ。

水無月霧雨もまた。


人ならざる者。


そんな少女が助けてやると言った天川を突き放す理由。


仮に自分がそれを聞いて。


背負えるのか?


こんなしょうもない自分に?


…わかっている。

自分の持つ一回こっきりにして最大の切り札。

それを使えば水無月を救うことは容易だろう。

だがそれは使えない。

自分の欲のために。


結局のところ。


俺は水無月を救うために全てをベットできないのだ。



「…やっぱりお兄ちゃんは優しいね。霧のためにそんなに悩んでくれるんだもん」



隣で悩む天川に水無月はにぱあと笑った。


「…!?別に優しくは…優しいとかじゃねえよ」


…わからない。

なんとか返答できたが、水無月が何を考えているのか、何を思っているのか、わからない。

この飛び切りの笑顔は何を意味する?



「でもさ。やっぱりキモいよ、そんなお兄ちゃんは」



水無月は立ち上がり。


水無月は年に似合わない妖艶な笑みに変わった。


そして。


水無月から魔力がほとばしった。


「!?うおおおお!!?」


天川はそれに吹っ飛ばされる。


天川は正規に魔力を視認する術を得ていない。

しかしこれまでの属性変化の修行?の成果で培われた感覚で魔力と分かった。


(…一体全体さっぱり訳が分からねえ。だが、こうなれば…!)


天川は死をイメージする。

天川にしかできない死の追憶からのリミッター解除による魔力開放!


「…。霧雨。お兄ちゃんはそんな悪い子に育てた覚えはないぞ?」


ようやく立ち上がり、精一杯強がって嘯く天川だったが、足は震えていた。

魔力開放は目からもされる。外法ではあるが天川はそれで魔力が視認できるようになる。

そしてそれは。

砂浜一体を覆い尽くすような黒紫色の魔力だった。

身も凍るような禍々しい魔力。

どの属性色にも当てはまらない魔力。



「…霧さ。お腹空きすぎたら死んじゃうかと思ったんだけど、逆だった」



ほとばしる魔力とともにゆっくり近づいてくる水無月。

天川の揶揄は耳に入ってこないようだ。


「………早く帰ってよ。死にたくないでしょ?霧だってお兄ちゃんのこと………嫌いだから………嫌いだから!食べたくないの!」


「…きりさ!!?」


言うが早いか。


水無月が天川に襲い掛かった。


その刹那。


天川はブラックアウトした。


一瞬だったので気のせいかもしれないが。


天川は水無月の目に涙が浮かんでいるようにみえた。




































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