表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/46

16、私と遊びませんか?

《随分長風呂でしたね?天川》


あの後。

部屋に戻った天川をアルマが迎える。


《…ああ、色々考え事してた。ああ…あと収穫もまあまああったかな?》


《収穫?》


そう首を傾げるアルマに天川は風呂場で起きたすったもんだを説明した。最初話さなくてもいいかなと思ったが(面倒になるかもだから)後であの事が露見したときに変に疑われても嫌だしと。

隠さず話した天川にアルマは好印象だったらしく、うんうんと頷きながら聞いていた。


《…しかし天川。良かったのですか?仕方ないとはいえ属性変化による時間操作を華音に知られてしまいました。聞く限り能力の詳細までばれたとは限りませんが…》


華音視点ではもし属性変化でそうなったとわかっていなければ、体を拘束する能力だと勘違いしている可能性もある。しかし魔法以外でそんな超能力を持っていると知られたのは大きいマイナスだ。

少なくとも現時点では華音は四鏡側だろうから。


《それに関してはお前の言う通り仕方ないというしかないな。ただ、考えてみれば仮に命がかかった鉄火場でぶっつけ本番で、属性変化をするよりも予行練習が出来たと考えれば…まあ悪くはないかな》


こればっかりは練習では身につかないものだ。練習で自信を積み重ね、実戦で成功してそれは本物になる。


《それに華音さんが人ならざる馬鹿力を持っていることと、そして…これはフェイクの可能性はあるが華音さんは四鏡に心から従事していないことが知れたことも大きい。以上を考えれば差し引きプラスだな。どうせ属性変化は遅かれ早かれ露見する可能性が高かったし》


六文銭はいつでも属性変化で身を守れるようしておけと言っていた。予想外の事態で使ってしまったが天川を一人で残した以上、こういう事態も織り込み済みのはずだろう。


《もしかして天川は四鏡華音を調略するつもりですか?》


アルマの問いに天川はばーかと笑う。


《戦国の軍師じゃあるまいし。そんな大層なもんじゃないよ。ただ、ぽろっとでも何かしら口走ってくれればいいなと考えるくらいさ》


ベッドに大の字になっている天川はそう言って笑うのを止めた。

天井を無表情で眺める。


《そんな簡単なもんじゃねーよ。華音さんは四鏡に拾われて、四鏡に生かされてるんだ。それを寝返らすなんて普通に考えて無理だろ?》


四鏡に殺処分されるところを拾ったと言っていた。それが本当だとすれば華音が未成年おそらくでこんなところで働いていて、あんな扱いを受けていてなにも抵抗しないのも納得がいく。


《そうですね。しかしもし仮に華音が四鏡のことを内心嫌っていたとして、天川に助けを求めてきたら…どうします?》


アルマの問いに天川はピクリと反応した。


《…どうだろうな。本来の俺だったらい関係ないし無理だしとか言って断るんだろうが…》


天川は思う。これまでの知ったことが全て本当だとして。


《まあ、損得勘定抜きで助けたいとは思うかな。実際にそうするかは別として》


ただそれは。

純粋な正義感ではなく。

そんな天川を見てアルマはふふふと微笑する。


《ではどういった理由で彼女を助けたいのです?》


水無月霧雨については本当に助けたいと思った。しかし華音は今日会ったばかりだ。しかも彼女にあなたに私の何が分かるのですか、とまで言われた。それもあり天川自身そもそも助けるなんて発想自体がおこがましいとも思う。


だが。


《気に入らねえ》


天川の表情が暗くなる。

アルマは何も言わず次の言葉を待つ。


《四鏡が華音さんを人の出来損ないだとか言ってるのが気に入らねえ》


華音さんにどういう背景があるかは知らない。普通の人として生きていけない制約があるのかもしれない。

だが大なり小なり華音以外の人だって生きていく上で様々な制約を受けるものだ。

生きていくために勉強をし、就職して金を稼ぐ。

それ以外もそうだ。

ほとんどの人は金のために人生の大半を割く。

それは制約と言ってもいいほどだ。


華音も制約を受けいれて生きている。

メイドとして四鏡の世話をし、性処理の道具になってまで生きている。

それ以外に選択肢がなかったのだろう。

なぜなら拒否すれば殺されるから。

だが生きるためにそれを受け入れ自分の職務を果たしている。

それは天川から言わせてみれば十分尊敬に値することだった。


世の中にはそれを果たさないで犯罪に走るクズも多いのに。


自分だって生きかえるチャンスがあったのにそれを一度はくだらない理由で拒否したクズだ。

生きたくても生きれない人だって星の数ほどいるのに…だ。


…。


転生前は他人がどう生きようがどうでもいいと思っていた。

生きたくても生きれないなんて関係ない。

俺が生きたくないからそれでいいとだけ思っていた。


…でも今は。


《…。俺から言わせれば俺の方が華音さん以下の出来損ないだよ。だからこそ四鏡が気に入らねえのさ。…気に入らねえから………あいつから華音さんを引き離してやりたい》


天川の返答にくすくすと笑うアルマ。


《相変わらず捻くれた理由ですね。単純に助けたいのではなく、結果助けることになるというわけですか。あくまで仮定の話ですがもし万が一その通りになったら天川がどう動くのか…うふふ、面白そうです♪》


そう無責任に笑うアルマ。

対する天川の表情は重い。


《流石にそんな展開にはならないと思うけどな。大体にして四鏡から華音さんを仮に引き離すことが出来て、どこか違う場所で暮らすことになったとしてだ。それが華音さんにとって本当の救済に繋がるかどうかもわからんしな》


天川のの返答にアルマがにたあと嫌らしい笑みに変わった。


《…なんだよ》


《いえいえ。その理屈なら水無月霧雨にも当てはまるかと思いまして》


水無月を助ける。と天川は決意してここまで来た。

しかしそれは水無月霧雨にとって本当の幸せなのだろうか。


《…ああ、それも然り…だな》


天川はそのまま眠りについた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



深夜。


天川は喉が渇き起きてしまう。


「…」


アルマは椅子に座ったまま、こくりこくりと寝ていた。


「…転生の女神でも寝るんだな」


どうでもいいことに感心しつつ、自分のドラムバッグを物色する。


「あちゃあ…そういやのみもん切らしてた」


天川は部屋を見渡す。

客室は多少狭いがクラシックで豪華だった。しかし冷蔵庫や水道の類はなかった。

…まあ、ホテルではないのだから当然か。


(…)


そのまま寝ようかと悩んだが、結構乾きが酷い。我慢できないので別室にあるトイレの水道で喉を潤そうと思い部屋を出ようとした。


出ようとしたが。

寝ているアルマが目に入り、立ち止まった。


(あんなこともあったし、なにかの保険になるかもな)


天川は設置されているテーブルにあったメモ帳に、さらさらと文字を連ねてアルマが座っているひじ掛けにそっとメモ紙の切れ端をおいた。


満足した天川は部屋を出る。

トイレに行く途中、一瞬風呂場も考えたが華音がもしかしたら入っているのかもしれないと思い止めた。

時間は深夜2時を回っている。

普通なら就寝している時間だがメイドの華音なら仕事上の都合で入っている可能性もあると考えたからだ。

引き続き薄暗い廊下を歩く。

広い洋館というのはデメリットもあってトイレも遠い。


トイレに向かう道中。


キッチンの扉から明かりが漏れていた。


(…華音さん?明日の朝食の仕込みでもしてるのか?)


それにしては早すぎる気もしたが、今の時間にキッチンにいる理由が思い浮かばない。

しかしこれは天川にとって好都合だった。

カチャカチャと金属音もキッチンから響いてくる。

例え朝食の仕込み…いやそれ以外の仕事をしているとしても天川にミネラルウォーターのペットボトルを渡すことぐらいしてくれる余裕はあるだろう。

そう考えていると扉が完全に閉まっていなかったのか、きぃいと隙間が空いた。

天川は思わずその隙間からキッチンを覗いてしまう。


(…………!?)


「………」


広いキッチンの作業台に大量の肉と何枚も重なった使用済みの皿が並んでいた。

華音はいつものメイド服姿で、肉をナイフとフォークで上品且つがつがつと次々に口に運んでいく。

肉の種類も豊富でサーロイン、ホルモン、ヒレ、エトセトラ…あらゆる部位が揃っていた。

空になった皿がどんどん積み重なっていく。


(…おいおい、ネットの大食いタレント顔負けの食いっぷりだぞ)


天川はあんぐりと口を開けたまま覗いていた。

本当だったらすぐに覗くのをやめてキッチンに入ろうと思っていたが、あまりの食いっぷりを見てフリーズしてしまった。


「…天川様。何か御用ですか?」


(………!?)


華音は口に溜まった肉をごくんと飲み込んだ後、扉に冷ややかな目線を向けた。


「…いやー、別に覗くつもりは無かったんですけど」


バツ悪そうに頭をかきながらキッチンに入る天川。


「お気にせずに。空腹でしたら夜食をご用意しますが」


といってナプキンで口を拭く華音。


「いやいや!ちょっとのどが渇いただけです。水の500ペットボトルとかそういうのあったらもらえませんかね?」


そう手を振りながら答える天川は、自然と顔が少し赤くなってしまう。

華音を見ると風呂場でのやり取りを嫌でも思い出してしまうからだ。


「かしこまりました。…それと敬語は不要ですよ?」


ここには私と天川様以外誰もいませんからと業務用のでかい冷蔵庫をあけ、ペットボトルを取り出し天川に手渡す華音。


「…じゃあ遠慮なく、ありがとう華音さん」


天川は受け取るなりペットボトルをあけごくりと喉を鳴らしながら水を飲む。


「ふう…。生き返った。…ああ、そういや食事の邪魔して悪かったよ。それじゃあ退散しますんでまた明日」


そういって踵を返す天川。


「お待ちください」


キッチンから出ようとする天川を呼び止める華音。


「こんな時間に邂逅したのも何かの縁です。私とちょっとしたゲームをしませんか?」


ゲームという言葉に天川の足が止まった。


「…華音さん。今日は遅いんでそういうのは明日にしませんか?」


天川がそう言って振り向くと、華音はここでようやく初めて笑みを見せた。


しかしそれは。


にこやかな笑みではなく。


歪んだ、冷ややかな笑み。



「もし私に勝てたら」



「…」



「水無月霧雨の居場所を教えますよ?」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ