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15、お背中...流しましょうか?

「それではごゆっくりどうぞ」


そう一礼して華音はバスルームの扉を閉じた。


(いやー広いな。バスルームではなくてこれじゃあ銭湯だよ)


天川が抱いた感想はその通りで小さ目な銭湯を彷彿させた。

脱衣場もそれぐらい広かった。

二人で使用するにはあまりにも広い。


(…まあ、金持ちの考えることなんて俺には理解できないけど…悪くない)


そう言って天川は生まれた時の姿になって風呂場に入った。


(日本の銭湯に寄せているのは四鏡の趣味かね…。だとすればようやくあのおっさんの良いところを一つ見つけたよ)


そう思いながら全身を洗う天川だった。

湯船につかる前に全身を洗う…銭湯のマナーである。


「はーあぁ…いやあ生き返るなあ」


ざばあんと広すぎる湯船につかる天川はおっさんみたいなセリフを吐く(いや事実中身はおっさんなのだが)


(銭湯って好きなんだけど中々いかないんよなあ。混んでたら最悪だし、あと水虫の心配とかもせんといけないしで…こういう貸し切り状態なら大歓迎よ)


と、珍しく天川の顔が緩む。

六文銭から警戒を怠るなと言われたがこの状態で警戒しろというのがそもそも無理だ。

これだけ広々とした風呂を独占できているのだから。


(とはいえ明日からどう攻略していくかね。そもそも四鏡が明日どういう行動をとってくるか次第なんだが…やっぱ出たとこ勝負なんよなあ)


熱い湯にぼーとなりながら考える天川。


(華音さんからなにか情報を引き出すにせよ、四鏡に筒抜けだろうし。ただ接触する価値はあるな。彼女が本当に心から四鏡に恭順しているかわからないからな。あの様子だと何聞いても怒らなそうだし)


ここまで考えて段々思考するのが面倒になってきた天川だった。

文字通り体がほてってきてどうでもよくなってきたのだ。


(ていうか、四鏡が神隠しに関わっていて水無月がここに(四鏡島)にいるのは確定したんだから後は自力で探せばよくね?…でも六文銭の様子からして四鏡の協力は必須みたいだし…あーめんどくせええ)


考えながら天川は髪をくしゃくしゃにした。

そのすぐあと。

風呂場の入り口が開く音が聞こえた。


「!!?」


天川は警戒する。恐らくは四鏡勘九郎だろう。

天川が入浴中だということは華音経由で知っているはずだ。

それならば何故入ってくる?


(…まさか男同士裸の付き合いでも…とか言うつもりか?だとしたらすげえ下らねえ…)


天川は風呂は一人で入りたい派閥だ。

別に裸で付き合う必要性など無いと考えていた。


しかし。


「………!!!!??い゛い゛い゛ーーーー!!???か!?華音さん!??」


入場してきたのは同じ四鏡でも勘九郎ではなく四鏡華音だった。

流石にバスローブを巻いているが肌の多くが露出している。


「…ご一緒させていただきます」


滅茶苦茶にてんぱる天川とは対照的に華音は無表情を崩さず洗い場の桶に座る。

そして躊躇なくバスローブをほどき、全身があらわになった。

そして体を洗い始めた華音。


(…これってどういう状況だよ!?こんな展開エロ漫画でしかしらねえ!?)


思わず華音から顔を背ける天川だったが、悲しいかな、男の性という奴で流し目で華音を見てしまう。

泡で全身はよく見えないがスレンダーな身体で控えめな胸と尻…。これはこれで…。

と、ここまできて天川は我に返り再度目を背けた。


「あ、あのー華音さん…?」


目を背けたまま天川は恐る恐る華音に話しかけた。


「いかがいたしました?」


いかがいたしました?じゃねえよと内心つっこみながらも天川は声を絞り出す。


「…大変申し訳ないのですが一応あの、僕男なんですけど?」


天川は中性的な顔をしてはいるが流石に女に間違われるほどではない。

いや問題はそこではない。

てんぱるあまり天川はややずれたことを言ってしまった。


「承知しております」


華音は華音でそんな天川の意を介さず体を洗っている。


(…なんなんだ一体?何が目的なんだ?)


まさか四鏡の差し金か?自分を誘惑して取り込もうとしているとか?それはあり得る…あり得るが…。


「失礼します」


天川が思考を巡らしていると、いつのまにか体を洗い終えた華音が再びバスローブを巻いて湯船に入ってきた。とても広い湯舟なので天川とは五人分ぐらいの間隔がある。

バスローブ姿の華音が天川の視界に入り、安心した半面ちょっと残念?な天川だったが、今はそういう問題ではない。

天川は華音には顔を向けず深呼吸した。

大きく鼓動していた心臓が少し収まった。



(…なんか一周回って落ち着けてきたな)



天川はゆっくりと目を瞑った。

華音の目的はわからない。だがさっき思った誘惑が理由だとしたら。

なんて魅力的なことだろうと天川は思った。

いや。

むしろそうであってほしい。


...。


そこまで考えて。

天川は深くため息をつき。

そして目を開けた。





「…華音さん。いい機会なので華音さんに質問があるんですけど聞いてもいいですか?」




天川の突然の問いだが華音は無表情を崩さずはいと答えた。


「好きな食べ物ってなんですか?」


「…」


天川の問いに華音はほんのすこしだけ怪訝な目に変わった。


「…お肉系全般ですね。特に内臓が好きです…というよりこの質問に何の意味が?」


そう不満を言いながらも正直に答える華音に天川は構わず続けた。


「ホルモン美味しいですよねー。じゃあ次は華音さんって猫派?それとも犬派?」


とりとめのない質問を続ける天川。


「…どちらかと言えば猫ですね。…次は何が知りたいのです?」


無表情というより呆れた顔に変わった華音。


「気が合いますね。僕も猫派です。ちなみになんで猫派なんです?」


「…着の身着のままというところが…でしょうか?」


と面倒そうに返す華音。他にもっと聞くことがあるだろと言わんばかりに。


「そんな嫌そうな顔をしないでくださいよ、傷つくなあ。…それじゃあ一番聞きたい事があるんで聞いてもいいですか?」


ここで初めて天川は華音の方を向いた。真剣な表情だ。

華音もそれを見て無表情に戻った。身構えるように。



「華音さんの…」


「はい」






「下着の色って何色ですか?」







「…」


華音の目がアルマと同じゴミを見るような目に変わった。


「ああ、流石に失礼な質問でした。それでは僕は先に上がりますので」


そう言って天川が湯船から上がろうとすると華音に腕を掴まれた。


「…。離してくれませんか?」


「お待ちください。私は我が主に天川様のお背中を流すようにとの命を受けておりますので」


やはりか。と思いつつ華音の腕を振りほどこうとするがびくともしない。


「!?」


「無駄ですよ。私『人の出来損ない』なのですが…その代わりすごい力が強いのです。…まあ燃費はもの凄く悪いんですけどね…!」


「!!!!??」


華音は力づくで天川を抱き寄せて、そなまま抱きしめた。

バスローブ越しだが華音の体温と体の感触が伝わってくる。


「は、離せ!?」


天川はもがくがびくともしない。


(人じゃないっていうのはマジだったのか!?こんなの女の力じゃねえ!!?…いやそんなことより)


「…確かに。四鏡様の言う通り食えないお人ですね?天川様。あのようなふざけた質問で私を脱力させ、あわよくばその間に逃れようとするとは………しかし言葉とは裏腹に体は正直なものです」


華音の言う通り天川の物は大きくなっていた。

しかしそれは無理もない。バスローブ姿の美少女に裸の状態で抱きしめられているのだ。当然の反応である。


「生理現象だからしょうがねえだろ…!ぐううう…!」


色んな意味でピンチな天川は思わず本来の口調を出してしまった。


「あらあら。そんなに嫌がらないでください。傷つきます。…あとこれはあくまでサービスですので後ほどなにかご請求するわけではありませんのでご安心を」


この後天川がナニをされるかは想像に難くない。

確かにただでこんなことをしてくれるなら本来であれば断る理由はない。


ないが。


(…ただよりたけえもんはねえんだよ!………ちきしょう!!かくなる上は………)


天川は眼を閉じ集中した。そしてもがくのもやめた。

華音はそれを見てようやく諦めたかと少し力を抜いた。


(くううう…!こんなしょうもないことでこの力を最初に披露することになるとは…)


天川は死を強くイメージした。

魔力開放!

時属性変化!





(俺の魔力内の時間を………遅くする!!)





「!?…これは?」




自分の身体が動かないことに気付いた華音が初めて驚きの表情を見せた。


(…いや、僅かだけど動かせる…でも思うように動かせない…体が重いわけでもない…まるで夢を見ているときの自分のよう…)


そう困惑する華音を見て力の発動に成功したと思い天川は安堵した。


「はあー、何とかうまくいったか」


天川は息を吐く。


「…はん、やっぱあんた人だよ。ただ感情を隠してるだけだ」


言いながら動けなくなった華音の拘束から脱出する天川。


「…何をしたのですか?」


「心配しなくてもすぐに解除するよ。ほれ」


天川は魔力開放を止め、華音は解放された。


「…これでわかったろ?俺を誘惑しても無駄だって。先に上がるからあんたが上がったら教えてくれ。こんどこそゆっくりと湯につかりたい」


そうやれやれと言った仕草をして脱衣所に向かおうとする。能力も見せてしまったので猫被った口調もやめた。


「お待ちください」


天川を呼び止める華音。天川は立ち止まった。


「お背中を流させてください」


「…」


「大丈夫です。本当にただそれだけですから。何もしません………女の子にこんな悲しいセリフ言わせないでください」


自分のせいだろと思いながらも天川は頭を掻きながら洗い場の風呂椅子に座った。




ーーーーーーーーーーーーーー



「…天川様。どうしてそこまで私を拒絶するのですか?」


洗い場の風呂椅子に座る天川の背中をスポンジで洗う華音が天川に聞く。


「別に拒絶したくてしてるわけじゃない。むしろあんたが相手なら望むところさ。普通に好みだし」


天川の返答に華音の手が止まった。天川からは華音の表情がみえない。


「今からでも遅くはありませんよ?恐らく天川様はなにも請求しないということを疑っているという事なのでしょうが、これは本当です。それに仮に嘘でも『あの力』があれば四鏡様にも実力で対抗できるでしょうに」


華音の馬鹿力から逃れるために時属性変化を使ってしまった天川。華音はあの力が時属性変化だということを理解しているのだろうか。

まあそれはともかく。


「…華音さん、あんたさ。本当は嫌なんだろ?『こういうこと』するの。それとしょうない質問って言ってたけど俺は結構あんたの内面がみれて楽しかったな。特に最後の質問をした後のゴミを見るかのような目…最高だったぜ?」


華音の手は止まったままだ。


「あんたは自分を人の出来損ないって言ってたけど俺からいわせりゃ十分人間だよ。それだけに思った。故に好きでもない四鏡さんや俺の相手なんかしたくないだろうってな」


四鏡が嫌いかどうかは定かではないが、あの行為をした後華音は四鏡に対して『お気は済みましたか?』と吐き捨てたことを天川は覚えていた。ならば決して好きではないだろうという予測だった。


「!!?…いででで!!?華音さん!?ちょっと力入れすぎ!!?」


華音の手が突然動き出し天川の背中を力任せにごしごしと洗う。


「…随分知ったふうな口をきくのですね。あなたに私のなにが分かるというのです?」


背中を向いている天川は華音の表情が見えないが明らかな苛立ちが伝わってきた。


「ああ。あんたの本質はなにもわからねえ。…そもそも俺は他人の深層心理なんて理解できるほど器用じゃねえし、むしろできなくていいと思ってた」


天川は思い出す。

他人に深入りして傷ついてきた過去の自分を。

ならば上っ面の関係だけでいい。

結局最後に頼れるのは自分だけなのだから。

そして自分の殻に閉じこもる。


…そう諦めながらながら生きてきた。


しかし。


「でもさ。あんた含め最近は理解したいやつが多くてさ。色んな想いを交錯させながら、遊ぶのも遊ばれるのも、好きになるも嫌いになるも、助けるのも、助けられるのも、一切合切おつなもんだな…って思うようになった」


転生してからというもの。

天川は色んな人に助けられた。

望月、三好、海野、由利…蓮沼先生に六文銭。天川にとって第二の母、夏奈。

そして。

転生の女神…アルマ。

人同士が完全に互いを分かり合えるなんて天川は無理だと今でも天川は考えている。

だけど。

それでもあいつらのことは…。

出来るだけ理解したいと思っていた。


「…天川様はよき人たちに恵まれたのですね」


言いながらスポンジを上下に動かす華音。


「…それに比べて私は」


そう言いかけてスポンジの動きが再び止まる。華音の声のトーンが少し下がった。


「華音さんよ。…そういやさ」


天川が変わらずのトーンで華音に声をかけた。


「…はい」


華音はどんな質問が飛んでくるかわからないので沈んだ気分を切り返して身構えた。





「…ふっふっふっ!今度は俺が華音さんの背中を流してあげよう」



「…」



そういやらしい笑みを浮かべて天川が振り向こうとすると。



「!!!!???あぴゃっああああああ!!!?つめてえええ!?」




華音はいつのまにか用意していた冷水のたまった桶を天川の頭上からひっくり返した。



「結構です」



そう吐き捨てて華音は脱衣所に戻ってしまった。



「…たく、なーにが出来損ないだよ。俺なんかより全然上等だ………くそが」









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