14、夢見る魔女、皐月エリザベス
「…人間じゃない?」
言葉通り意味の分からない発言に天川は顔を顰めた。
「正確には『人間の出来損ない』という感じだな。さっき言ったエリザベスのやべえ魔法の研究の過程で出来た副産物…要は失敗作というわけだ」
顔を顰める天川に対して真顔で淡々と話す四鏡。嘘をついている感じはしない。
「殺処分されるところを俺が拾ってやったわけだが…まあ欠陥は多いが存外役にたっているぜ?それに見てくれは良いしガキを作れる身体じゃないから中だしし放題だからな。がははは!」
そう豪快に笑いながら豪快に最低なことをのたまう四鏡。
「…。その皐月エリザベスって人はどんな魔法を研究しているんです?」
仮に四鏡の言っていることが本当だとして。四鏡華音が魔法によって作られた存在だとしたら?
しかも失敗作という。
天川からすればどう見てもただの女性にしか見えない。
現段階では四鏡側に寝返る気は毛頭ない天川だったが、流石に気になって聞いてしまった。
四鏡はそんな天川ににやりと笑った。
そして口を開く。
「単純だが誰しもが1度は夢に描く魔法だ」
四鏡は一瞬間をおいて続ける。
「死んだ人間を生き返らせる…蘇生魔法の研究さ」
「…!!?」
「がははは!少しは俺に興味を持ったか?天川翔」
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「今日はこれくらいにしておこうか。長旅で疲れているだろうし、休みながらさっきの件…よく考えてくれよ?」
華音が来るまでそこで待ってろと続けてそう言い残し、四鏡はダイニングルームを後にした。
広い部屋に天川だけが残された。
《それで?あの男に鞍替えする予定はあるのですか?》
《…。いつの間に戻ってたのかよ》
さっきまでいなかったアルマが天川の隣に鎮座していた。
《さっき言った通りだ。そんな気はない》
そう即答した天川だったがアルマの目はジト目になる。
《ちなみに言っておきますが私はその選択肢に口を挟む気はありません故、天川のご自由にしてもらって構いませんよ?…先ほどはあの条件に随分動揺していたように見えましたけど?》
アルマの言うあの条件とは華音を好き勝手にできるということであろう。
《…聞いてたのかよ。…はーあ、認めるさ。俺も男だし魅力ではある…あるが別にあのおっさんの言うこと全部を本当だと鵜呑みにするほど俺は素直じゃないんでな》
とやれやれという仕草をする天川。
《それでは仮に本当だとすれば四鏡側につくと?》
アルマの止まらない追及に今度は天川がジト目を返す。
《しつけーな。どっちにしろ断ってるっての。結論を保留にしたのはまだまだ四鏡から情報が回収できると思ったからだ。出来れば華音さんからも話を聞いてみたいしな》
とはいえこの洋館に泊まるかどうかの最終決定は六文銭と話してみてからだが。と天川は締めた。
《ふふふ。あの男は嫌いですので少し安心しました。…あ、どうやら六文銭が来たようですね》
ダイニングルームの大きな扉が開いた。
そこには六文銭と華音が立っていた。
「華音、少しだけ席を外してくれないか?なに、すぐ終わる」
六文銭がそういうと華音は一礼して扉を閉めた。
つかつかと天川に近づき六文銭は軽快に笑った。
「上手く四鏡に取り入ったじゃないか!流石は私の生徒だ」
そう天川の肩をポンポンと叩く六文銭に天川ははあとため息をつく。
「…勘弁してくださいよ全く。こっちは神経すり減らして喋ったんですから」
そう言って天川が事の経緯を話そうとすると六文銭は掌を天川に見せて制止した。
「私の思考を聞きたいのは分かるが『そのまま』のお前で考えて行動しろ。その方が濁らない。…ちなみにお前はここに残るのと私とホテルへ戻る…どちらを選ぶ?」
六文銭の口調が普段より荒くなっている。経緯はともあれ四鏡に興味を持たれたのは間違いないのだ。
そんな天川に気分が高揚しているのだろう。
「…それを決めるために先生と相談したいんですけど?」
そう目を細める天川に六文銭は首を横に振った。
何も答える気はないと言った感じで。
「…残りますよ。どうせ先生も分かってたんじゃないですか?僕がこう答えるのも」
諦めた口調で話す天川だったが、それも否定した。
「お前が考えた末、そう決めたんだろう?考え抜いた末、私と戻るを選択した場合、私も一考したさ」
「じゃあやっぱ戻りま…あが!!?」
六文銭のグーが天川の頭にさく裂した。
「なにか言ったか?…それじゃあ、私はホテルへ帰るから…引き続き上手くやれよ、天川翔」
そういって踵を返す六文銭を頭をさすりながら恨めしそうな目で見る天川だったが。
一つ思い出して口を開く。
「先生。一つだけ質問があります」
六文銭はその言葉を聞いて立ち止まった。
「華音さん…四鏡華音さんが人間じゃないって聞いたんですけど…本当なんですか?」
天川の質問に六文銭は少しの間をおいた。
「四鏡華音が人かどうかは…」
六文銭は背中を向けたまま答えた。
「お前が決めることだ。天川翔」
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「それでは天川様。入浴の準備が整うまでこちらでご寛ぎください」
クラシックだが豪華な客室。
天川は扉が閉まるなりベッドにダイブした。
《あ゛~、しんど~。考えることが多すぎてこんがらがる…はあーあ》
アルマはクラシックな椅子を見つけ、いつものようにお行儀よく座った。
《先ずは一つづつ行きませんか?先ほどの六文銭の答えについてですが》
アルマがそういうと天川は首をアルマに向けた。
《…ああ、多分比喩かなんかだろうけど、知ってたなら普通に答えて欲しかったな。相変わらず思わせぶりなやつだよ》
人かどうかはお前次第と六文銭は言っていた。それはつまり。
《まあ…ただの人ではないってことなんだろうな。…ダメもとで直接本人に聞いてみようかな?別に四鏡に口止めされてるわけじゃなし》
自分でいっておいてなんだが、あなたは人外ですか?と問う…かなりというか凄い失礼な質問だと思う天川だった。それでいて普通だったらかなり頭がおかしい質問。
《…ていうかあれだな。華音さんが人かどうかというより、華音さんから水無月の情報が得られるかの方が重要な気がする。この洋館に二人きりだけっぽいし》
言いながら天川は気づく。こんな馬鹿でかい洋館に使用人が一人?と。
《…ああでも定期的に業者に清掃を頼むとか、たまたま今日だけ華音さん一人の可能性もあるか…現段階じゃ考えるだけ不毛だな》
《それでは別に気になっている事があります。あの男は何故天川の事を勧誘してきたのでしょう?蘇生魔法の研究を手伝えとのことですが、天川の中身は35歳ですが今は13です。とても研究の役に立つとは思えませんが》
アルマの疑問については天川も同様に抱いていたが、その件については天川は一つの答えを持っていた。
《部屋に着くまでに説明したけど中々研究が進まないって言ってただろ?多分新たな発想のきっかけかなんかになるんじゃないか程度のことだと思う。…ところでさ》
蘇生魔法という単語で天川は思い出した。
《アルマは前に死は絶対に逃れられないって言ってたよな?…ってこの質問も二回目か。それを拒絶しようとしている皐月エリザベスって奴を単純にどう思う?》
全ての生命に唯一平等に与えられるもの。
それは絶対なる死。
とアルマは言っていた。
《特に何も。この世界に魔法という概念がある以上、そういった研究をするものが現れるのもおかしくはありませんし。…ただ》
《ただ?》
《もしその研究が成功すれば皐月エリザベスという方は死神を敵に回すことになります。…ふふふ、他者の復活を願う者が自身で自身の死期を早めている…皮肉なものです》
そうクスクス笑うアルマだった。
《いや笑えねーよ。…と、自分で脱線しておいてなんだが戻すか》
天川がそういうとアルマがでしたらと繋ぐ。
《さきほどきっかけになる程度と言いましたが、それにしてはあの男の天川に対する執着心は過ぎたものだと思いますね。それについてはどうお考えですか?》
アルマの疑問に天川はああと頷く。
《…まあ、そこらへんはあんまり考えたくなかったんだが…研究を手伝えっていうのは研究者として手伝えではなくモルモットとして手伝えっていう意味かもしれない》
《モルモット?》
《華音さんが研究の副産物で出来た人間の出来損ないっていってたろ?そこで俺は一つの過程を立てた。皐月エリザベスは蘇生魔法の研究で人体実験をしているとな》
天川の過程にふむふむと頷くアルマ。
《そして理由はわからないが四鏡はどうやらその研究を応援している。皐月エリザベスに生きた実験体として提供するために俺を勧誘してきた。…とすればあの執着具合も納得できないか?》
転生の女神に転生され、異常な魔力量を持ち、六文銭に認められ、水無月と夢で出会う異常な存在。
天川翔。
四鏡は恐らく天川の異常性を話していくうちに見抜いたのだろう。
死者蘇生などという異常な異業を成し遂げたいのだ。
だからこそ異常な存在である天川はいい実験体になる…そう四鏡は考えたのかもしれない。
《…とまあ、これは考えすぎというか裏推理だ。正直自分でも自意識過剰だと思うしな》
と天川は天井を見ながら言った。
《…とはいえなくはない仮説ですね。四鏡華音がもし人体実験の末生まれた存在ならなおさらです。もしそうであればそんな危険な考えをもった男の館に天川一人残していく六文銭もどうかと思いますが》
《それに関しては流石に大丈夫な保証があいつの中にあるんだろ流石に………あるよな?》
自分で言っておいて不安になってきた天川はアルマに思わず聞いてしまった。
《私に同意を求められても困ります。でも普通に考えればここで天川になにかあってしまったら六文銭は天川の親に顔向けできませんしね。天川の知らないところでなにかしらの保険は打ってあると考えるのが自然です》
アルマの返答にそうだよなーと思う反面…本当にそうか?と疑心暗鬼になってきた天川だった。
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そして数十分後。
天川はアルマと念話をつづけていたが。
「天川様。入浴の準備が整いました。もしよろしければご案内させていただきます」
扉越しに華音の声が聞こえてきた。
天川は立ち上がり扉を開ける。
「わざわざありがとうございます。今着替えとか持ってきますんでちょっとだけ待ってもらえますか?…って」
ここで天川はあちゃと気づいた。華音さんが風呂の準備をしてくれていたのに自分は何もせずアルマとの念話に夢中になって何もせずにいた。
「すいません。本当は準備していなくちゃいけなかったのに…」
そう頭を下げる天川だったが。
「どうかお気にせずに。それとアメニティ類は全て用意してありますので遠慮なくご使用ください」
華音は無表情でそう答えた。
天川は慌てて就寝用のジャージと下着を持ってきた手提げ袋に入れて戻る。
「それじゃあ、お願いします。華音さん」
「はい。それではこちらへ」
そう前をカツカツと歩き出す華音。
天川は部屋にアルマを残し、華音についていった。




