13、可愛いは正義なのだ。命を賭けるに値する。
クラシックで広いダイニングルーム。
そこに四鏡と天川が二人きり。本来であればアルマもいたが。
《天川。私も離席します。この男は単純に嫌いですので》
そう残して。
気持ちはわかるが単純に天川も苦手なタイプだったので一緒にいて欲しかったが。
嫌いならしゃーない。
それに。
六文銭は本当かどうかわからないがアルマを認識しているよううな発言をいくつか示唆している。
その上で四鏡との一対一での会話を容認したのだ。
そう言う意味では本当に一対一での会話に何か意図があるのかもしれないと思ったので天川は敢えてアルマを止めなかった。
「で?水無月霧雨をどこで知った?」
夢の中で出会いました。
素直に答えればそれだけである。
だが普通に考えれば馬鹿にしてんのか?と返されるだろう。
しかし。
「夢の中で出会いました」
正直に言ってみた。もっともらしい嘘を吐くという手もあったが、天川はそういやもっともらしい嘘すら思い浮かばなかった。
だって本当にそれしかないのだから。
「…ほう、夢で…ね。なるほどな。では次の質問だ。六文銭からはどういった経緯で弟子としてみとめられたんだ?」
四鏡は意外にも納得した表情を見せた。華音がいないので自分で葉巻に火をつける。
「…あの、僕はそうやって馬鹿みたいにあなたの質問に答えるだけなんですか?食事を頂いたお礼は言いますけど、これ以上一方的な質問が続くなら僕も離席します」
天川の悪い癖が発動した。本来であればここは素直に従っておくべきだが、つい攻撃的になってしまう。しかし素直に答え続けて四鏡が情報をくれるとも限らないわけで。
だが四鏡はそんな天川に不機嫌でもなくにやりとした笑みを返した。
「見た目に寄らず随分と挑発的なんだな。…しかし様子からして根拠のないでもなくなにか自信があるものを持っている感じだ…舞雪が気に入るわけだな。よしわかった!」
そこで四鏡は手をパチンと叩いた。
「なら質問を変えようか。小僧、お前的には夢で出会ったという水無月霧雨に対してなにか目的があってこんな僻地まで来たんだろ?それを答えてもらおうか。それいかんによって俺が答えられるかどうか変わるからな」
天川は迷う。自分は魔力を食べることによって結果人を殺めてしまう水無月霧雨を助けに来たのだ。
天川は自身のせいで魔力を食べなくなった水無月を心底助けたかったから。
それを素直に話すべきか。
下手をすれば魔法公安課を敵に回すことになる。
「その前に質問があります。夢で出会ったと僕は言いましたよね?なんで素直にそんなバカみたいな発言を信じるんです?でたらめ言ってるかもしれませんよ?」
天川の問いに四鏡はその質問に答えるにもと返した。
「改めて問うぞ?お前は何が目的で水無月霧雨に探しに来た?」
天川は考える。
正直に答えるべきか否か。
たしか四鏡は大の警察嫌いと言っていた。
ならば。
「…助けにきました。夢の中で助けてやるってあいつと約束したんですよ。…ただそれだけです」
正直に答える。これが天川の答えだった。
天川の答えに四鏡は目を見開いた後、がーはっはっは!と豪快に笑った。
「なるほどな。もし霧雨が失踪事件の犯人だと考えているから捕まえて事件解決しにきましたって言おうものなら、舞雪もろともぶっ殺してやろうと思っていたが…気に入ったぜ」
あっさりと物騒なこいう四鏡だったその脇で、天川は冷や汗をかいていた。
(…間違っていなかったか)
胸を撫で下ろした。
そしてこれで四鏡島の神隠しに水無月霧雨と四鏡勘九郎が大きく関わっていることが判明した。
「さっきの質問だが。水無月霧雨は俺が囲っている」
「…そうだったんですか……って!?水無月のいる場所知ってるんですか!?」
急に核心に迫った返答に天川流石に驚愕してしまった。
「がはは!そう慌てんなよ。霧雨は安全な場所にかくまってるさ。とはいっても守る必要性もあまり感じないけどな。下手なやつが襲い掛かっても返り討ちにされるからな」
他人の魔力を食べる少女。
水無月霧雨。
食べられたほとんどの人間は絶命する。
「…しかし打って変わって随分重要な事喋ってくれるんですね。ちなみになんですけど神隠しの犯人ってやっぱり水無月なんですか?」
四鏡は首を横に振った。
「重要なことをこんな話したんだから今度はこっちの番だ。なぜおまえは霧雨を助けにきた?」
天川はここまで来たんだからと普通に答える。
「あいつ他人の魔力を食うんです。でもそれ止めちゃって…今腹が減って死にそうらしいんです。そして食べなくなった原因が僕にあるからです…僕には水無月を助ける義務がある」
天川は敢えて伏せた。自身の魔力量なら水無月に食べられても死なないことは。
なぜなら、天川自身の力の漏洩に繋がってしまうから。
「…やはり一致したか。たしかにあいつは今魔力に飢えている。だがどうやって助けるんだ?お前自身の魔力を捧げる気か?だとすればお前は死んでしまうし、仮にそうしたとて一時しのぎにしかならない」
打って変わって真剣な表情をする四鏡。
「それについてはお答えできません」
そうきっぱりと答えた天川に四鏡は頷いた。
「なら最後の質問だ。仮に水無月霧雨が神隠しの犯人だとして、そしてお前も分かっているだろうが仕方がないとはいえ現実に20人近く殺めているのも事実だ。それでもお前は霧雨を助けるのか?魔法公安課も敵に回すかもしれないのに?」
もし水無月霧雨の件が警察に露見すればそれをかりにかくまった天川はただでは済まないだろう。殺される場合もある。
「…率直に言えば僕にとってそれだけの価値が水無月にはあるんです。それだけです」
20人以上殺して自身も殺される可能性がある水無月霧雨を救う理由、価値。
「最後と言ったがそれも聞いていいか?」
「可愛いから」
天川の即答に四鏡はそれは同意だなといってがっははは!と笑った。
「とりあえず安心しろよ。お前は死にそうと言ってはいたが、現時点で霧雨は今すぐどうこうなるわけでもない。改めて自己紹介でもしようか。俺は四鏡勘九郎。属性は水だ」
そう言いながら紫煙を吐く四鏡。
天川は自分の属性を言うべきか一瞬ためらったがそういや学校で公になっているし、隠すことではないと思って素直に答えることにする。
「天川翔っていいます。属性は無ですね」
天川の答えにへえ…と目を細める四鏡。
「舞雪が認めた奴だからてっきり時属性かと思ったが…まさか無とはな。ますますお前のことが気になってきたよ。…くくく」
天川は意外だった。てっきり無属性ときいてがっかりされるものだと思っていたから。
「おい小僧…いや、翔。たしかに俺は霧雨がいる場所を知っている。だがお前にそれを教えるかどうかはまた別の話だ。俺は別にあれを慈善事業でかくまっているわけじゃないからな。…だがある条件を飲んでくれれば今すぐ合わせてやってもいい」
そういって頬杖をつく四鏡。
どうせ碌でもない条件だと思ったが天川だったがとりあえず
「条件とは?」
と聞いてみた。
「舞雪の弟子をやめて俺の所に来いよ」
言いながら口元を歪めた四鏡だった。
「…言っている意味がよく分からないんですけど?」
碌でもない条件だと思っていたが、いやある意味碌でもない条件だったが流石に予想外だったので怪訝な表情に変わる天川だった。
「そのまんまの意味だ。ちなみにお前、皐月エリザベスっていう命属性の魔女を知っているか?」
天川は唐突に出た皐月エリザベスという名前に…?と顔を顰めたがああ…と思い出した。
「…なんか先生…六文銭先生が口にしてたのを聞いた程度ですけど」
世界を滅ぼしかねない云々は敢えて黙っていた天川。
この男がどれだけの情報を持っているかわからない以上、むやみに話すのは危険だ。
「くっくっく。舞雪の奴が言ってなかったか?『世界を滅ぼしかねない』とかなんとか?」
そうニヤニヤしながら天川の反応を伺う四鏡に、天川は若干イラっとした。
「…もったい付けないで先を言ってもらえます?」
天川の反応に四鏡はがはは!そう怒んなよと笑った。
「そいつはよ。やべえ魔法の研究していて、だが中々進まなくてな。勿論もしその魔法に成功したらとんでもない事になるからまあ、研究が進まないのも仕方ないんだが」
そこで一旦四鏡は区切った。
そして葉巻を一気に吸い、そして多量に吐く。
「俺経由でお前をエリザベスの下につかせる。そしてあいつの研究を助けてやってくれよ」
四鏡の暴論に天川は大きくため息をついた。
「…その皐月って人がなんの研究をしているか知りませんがね。どっちにしろお断りします」
と天川は答えた。
「霧雨を助けに来たんじゃないのか?お前は」
と、再度天川にとう四鏡だったが断られるのは予想通りだったらしく余裕の表情だ。
「水無月がこの島の何処かに実在する知れただけで十分ですよ。…確かに僕だけで水無月を探すのは無理かもしれませんが僕には先生が味方にいます」
六文銭は水無月が魔力を食うことに凄い興味を持っていた。
ならばもし水無月を見つけたとしても警察に突き出すような真似はしないだろう。
「くくく…随分と舞雪を信頼してるんだな。あれはあれで怖い女だぞ?」
確かにそれにはある意味同意だったがそれでも天川は首を横に振る。
「だとしてもです。現時点で信じれるのはあなたよりも先生ってだけの話です。深くは考えていませんよ」
天川の返答によし分かったと四鏡はパチンと手を叩いた。
「流石にお前的には霧雨の場所を教えるだけじゃこの取引は納得しないわな。気を悪くするなよ?取引ってのは最初にできるだけ低い条件を出すものだからな」
じゃあ追加でと四鏡は続けた。
「もし俺の下にきたら」
「俺のメイド、四鏡華音を玩具にしていいぞ?」
「…!?」
斜め上どころか場外ホームラン級の予想外な追加条件に天川はフリーズしてしまった。
「どうした?もう『そういう』のに興味がある歳だろ?なんだってしていいぞ?口でしてもらってもいいし、胸で抜いてもらっても構わん。前後ろ好きな穴を使ってもいい、中に出すのも勝手さ。…どうだ?」
途端嫌らしい笑みに変わった四鏡。
天川は少し頬を赤めながらようやく口を開く。
「…馬鹿にしないでください。いくらあなたのメイドとはいえ、華音さんにそんなことさせるわけにいかない」
しかし言葉とは裏腹に心臓の鼓動は大きくなる。
身長は160前後。天川よりも一回り小さい。ピンク色のメイド服を着ている。
髪はブロンドというよりも銀髪。ロングヘヤーの先端を白いリボンで結んでいる。
無表情だが可愛らしい顔で系統はアルマに似ていた。
四鏡華音。
そんな人を好きに出来る…。
思わずそれを妄想してしまうのは仕方ない。
天川も男なのだから。
「…の割に顔が赤くなっているぞ?まあ、今すぐ決めろとは言わないさ」
そう言って徐に四鏡は立ち上がりこのクラシックな洋館にそぐわないスマホを取り出した。
「…ああ、舞雪か。そうだ四鏡だ。なんだか翔の奴がうちの華音を痛く気に入ったみたいでな。寝食を共にしたいそうだ」
四鏡の言動に天川が喚きながら四鏡に近づくが、あっという間に片手で天川の口元を鷲掴みにしてその筋力で天川の動きと言葉を完全に封殺した。
≪本当に天川がそんなことを言ったんですか…?≫
スマホ越しに六文銭の声が漏れる。
天川はもがき続けるがん~と呻くことしかできない。
「ああ。だから今夜はここに泊めさせるからな。お前だけホテルへ戻れ。予約してあるんだろ?」
≪相変わらず強引ですね。構いませんが『保険』はかけさせてもらいますよ?≫
「心配すなって。翔の安全はこの四鏡勘九郎の名に懸けて保証するし、野郎に手えだす趣味はねえから。それと『お前らの周りをウロチョロしてる連中』も好きにしたらいい」
≪…。わかりました≫
「おう!じゃあな」
そう通話を切った後、ようやく天川は四鏡から解放された。
「ぶっはあ!!?何のつもりですか!?僕もホテルに帰りますよ!!?」
そう激高した天川だったが、まあまあ。と天川を宥める。
「そういやお前、華音にそんなことさせるわけにはいかないって気を使っていたよな?」
「…それがどうしたっていうんですか?」
「安心しろ」
そう言って四鏡は醜い笑顔になった。
「華音は人間じゃない」




