10、「…あは♪やっぱお兄ちゃんてロ〇コンなんだ♪」
いよいよ。
六文銭と天川が四鏡島に出発する日の朝になった。
天川宅自室。
ぱんぱんになったドラムバッグを肩に下げる天川。
《よし。忘れもんは…ないかな?》
天川はブレザーに着替え、アルマはツインテールにキャミワンピ、麦わら帽子という出で立ちだ。」
《…滅茶苦茶夏っぽい服装だな》
《せっかくなんです。リゾート地の海を満喫しなくてはですね♪》
そう機嫌よく笑うアルマだった。
(まあ…お前が楽しければそれでいいさ)
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「翔ちゃん!!課外授業!頑張ってきてね!」
朝食の後。玄関前で天川の母、天川夏奈にそう力強く見送られる天川だった。
勿論天川が四鏡島に行く事実は夏奈に伝えてはいない。
そんなことをすれば止められるに違いないからだ。
若干の後ろめたさを感じつつも、天川は夏奈に笑顔を返す。
「うん、行ってくるよ母さん」
夏奈はそんな天川を見て満足そうに親指を立てた。
その直後、一台の車が天川宅前の道路に止まった。
…今度はBRZだった。
「やあ、おはよう。天川翔に夏奈さん。大事な息子さんは私が責任をもって預かりますので、ご安心してください」
車から降りた女性は六文銭だった。
白衣を着た180前後の長身。豊満な肉体に妖艶な顔。金髪ロングが腰まで届いている。
「お願いします。…ところで本当に課外授業の費用は何も払わなくていいんですか?」
六文銭に顔を下げながらそう問う夏奈。
これは当然の疑問でこれから泊りがけの課外授業をしに行くのだ。であれば最低限宿代くらいは天川側が払うのが当然と言える。
「前話した通り、息子さんは超特待生という扱いです。授業の際にかかる費用は基本全てこちら側で負担させて頂きますのでどうぞお気になさらず」
六文銭の返答にも夏奈は微妙な表情がぬぐえなかった。
人間ただと言われると逆に警戒してしまうものだ。
「そんなに不安な顔をしないでください。野球やサッカーと同じようなものですから。特待生であれば学費等の免除などは当然ですよ?」
六文銭の説得に夏奈もようやく飲み込めたのか、もういちど深く六文銭に頭を下げ、息子をよろしくお願いしますと言った。
「それじゃあ、いこうか?天川」
「はい」
天川は無表情で頷いた。
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某空港。
「プライベートジェット…まじで金持ちなんですね先生」
送迎者にて六文銭と天川が小さい飛行機の前に案内された。
天川もある程度は予想していたが、国内線でわざわざプライベートジェットを使うほどとは。
「この場合、金のあるなしは関係ないけどね。現在四鏡島は関係者以外一般のフライトは厳しい制限が設けられているのさ。まあそれにのってもいいんだが手続きが面倒なのでね。これなら直接四鏡空港に行ける」
ああそういや戒厳令が敷かれていたんだっけと天川は思い出した。
六文銭は若干狭い入り口を窮屈そうに潜った。天川もそれに続く。
船内は想像とは違って大分狭かったものの窮屈とまでは行かなかった。
パイロットが最後に乗り込み飛行機が離陸した。
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《………♪》
アルマも船内にいたが窓からの風景に夢中になっていたので敢えて声をかけない天川だった。
「さて。四鏡島に着いてからなのだが…まずは四鏡島の長に会いに行く必要がある」
天川の反対座席で足を組んでいる六文銭はそう口を開いた。
「長って…田舎の村でもあるまいし」
「いや四鏡島は元は田舎の島さ。しかしそのままでは島の運営が成り立たないためその長がリゾート開発に力を入れ始めたのさ」
六文銭は席に備え付けてあったミネラルウォーターのボトルをあけ口にする。
「その長の名は四鏡勘九郎。彼の天才とも呼べる手腕で多くの大企業やベンチャー企業をとりこみ四鏡島はわずか十数年で大人気のリゾート地へと変貌した」
六文銭は続ける。
「今は隠居しているがそれでもなお、四鏡島では絶大な影響力を持っている。つまり四鏡島を調査するうえで彼に先ず挨拶をしに行かねばならないというわけさ」
それを聞き天川は納得したように頷いた。
「それなら長と呼ばれるのも納得ですね。挨拶に行くのはまあ、礼儀というのもあるんでしょうけど例の神隠し事件の情報も同時に聞けるかもしれないからですか?」
「ふ、相変わらず感がいいな。まえに警察は探すべきところは探したと私は言ったろう?四鏡は大分前に仕事で私もあったことがあるんだが大の警察嫌いでね。彼が特別な情報を持っていて、敢えてそれを警察に伝えていない可能性もあると考えたのさ」
そう笑う六文銭だったが天川はある矛盾に気付く。
「それっておかしくないですか?だって四鏡さんて四鏡島の発展のために注力してきた人なんでしょう?それが今は失踪事件のせいでリゾート事業が停止状態になっているじゃないですか。普通だったら事件解決のために警察への協力を拒まないはずです。むしろ率先すべきだ。…まあ、仮に犯人がいたとして脅されているとかなら話は別なんでしょうけど」
天川は自分で言っていて気づく。そうか、四鏡が仮に犯人をしっていて消されたくなかったら黙っていろと言われてる線もあるかと。
だが六文銭は首を横に振る。
「そんな安い脅しに屈するような玉じゃないよ、四鏡はね。むしろ彼が本当に事件解決を望んでいるのであれば。警察なんかに頼らず既に自分で動いているはずなんだ。私の知っている『四鏡勘九郎』はそういう男だ」
六文銭の返答になるほどと頷く天川だった。
改めて考え直せばそれはその通りで、聞いた話を総合すれば四鏡勘九郎は行動力の化身のような男だ。
そしてその行動力に見合った頭脳もある。
ならば一向に解決しない神隠しを指をくわえて見ているだけなのは確かにおかしい。
「じゃあ、仮に四鏡さんが事件に関わっていたとしてですよ?それを正直に先生に話す見込みはあるんです?もし意図的に隠しているのならとても話すとは思えませんが…」
仮に六文銭と四鏡が旧知だったとして。下手をすれば犯罪の片棒を担ぐ…しかも大事件だ。それに似たようなことをしているのに話すわけがないだろうと天川は考える。
「ぞれについては実際彼と会って話してみてからだな。それに重要なのは彼がどんな形で事件に関わっているかだ。場合によっては積極的に私たちに協力を求めてくるかもしれないからね」
仮に四鏡も事件解決を望む側だったとして。それならば魔法に精通している六文銭の協力は確かに望ましいものだ。
だが。
「…なんかもう四鏡さんが100%関与しているっていう考えなんですね。それに僕のはなした水無月霧雨だって夢の話ですよ?なんでそこまで確信めいた感じになれるんですか?」
天川の疑問はもっともで、四鏡の件はまだしも水無月霧雨は本当にただの夢の話でなにも根拠がない。一つだけあるとすれば、あの夢を見た後酷く疲れるというだけだ。それだって別の要因があるだけかもしれないのに。
「根拠はある。だが今はそれを話すべきではない。『余計な思念』が混ざるからな」
そうにやける六文銭に天川は深くため息をついた。
「…一応聞いておきますけど、教えてくれないんですよね」
「わかっているじゃないか」
六文銭はあははと軽快に笑った。
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(…ここは。あの砂浜か)
天川が気づくとあの夢と同じ砂浜にいた。
「…お兄ちゃん」
そこには夢で出会った少女。
水無月霧雨がいた。
黒髪のおさげで青色のワンピース。
10歳前後だろうか。身長は140にも満たない。
「どうした?今日は随分元気がないじゃないか」
いつも無邪気に振る舞っていた少女だったが、今日は大分表情が曇っていた。
「だって、お腹すいちゃったんだもん」
そういって、とてとてといつもの海の家のベンチにドサッと座り込んだ水無月。
「…アイス食うか?何だったらラーメンでも何でも買ってやるよ」
天川もそういいながら水無月の隣に座る。
「いらなーい。お腹空きすぎてアイス食べる気もおきなーい!…ぐでー」
水無月はそう口を尖らせて天川の肩に寄り掛かった。
お腹が空いているから大好きなアイスを食べたくない。
普通な矛盾しているが彼女に場合。
「んだ?最近魔力食ってないのか。その年でダイエットは健康に良くないぞ?子供は少しぽっちゃりしてた方が可愛いもんさ」
そう嘯く天川に水無月は自分だって子供くせにーと虚ろな瞳をしながら返した。
「お兄ちゃんのせいだよ。腹減ったんならしゃーないとか。そう言うこと言うから逆に罪悪感出てきちゃったじゃん」
水無月は前に言っていた。
天川以外の他人の魔力を水無月がお腹いっぱい食べてしまうと死んでしまうと。
それでも水無月は他人の魔力を食べ続けた。
天川はそのことを否定しなかったばかりか、腹減ったんならしゃーないと軽く返したのだ。
「…ていうか加減できないのか?例えば腹八文目とかさ」
天川の問いに霧雨は力ない笑みを浮かべた。
「それが出来たら苦労しないんよ~。一度食べ始めたらもうおしまい。自分を止められないのー。だから食べるか食べないかしかないの!」
最後の、のだけを無理矢理元気をだして強調した水無月だったが、そのごまたヘロヘロになり再び天川の肩に寄り掛かる水無月だった。
「そうだよな。それができたらとっくにそうしてるよなー。よしわかった。俺の魔力を食えよ。俺だったら死なないんだろ?」
水無月はこうも言っていた。お兄ちゃんの魔力量だったらお腹いっぱい食べてもしなないかもと。
「ん~魅力的だけど却下~。今の状態で食べちゃったらお兄ちゃんでも死んじゃうかも?」
そう言って水無月は目を閉じた。
本当にお腹が減って力が出ないのだろう。
人間は食べなくては死んでしまう。
水無月霧雨に魔力を食べられるとその人は死んでしまう。
しかしそれは逆も然りで水無月霧雨が魔力を食べなければ死んでしまうことを意味する。
それでもなぜだか。表情はとても穏やかだ。
まるでそのまま永遠の眠りにつくかのように。
「…死ぬつもりかよ。お兄ちゃん、そういう自己犠牲…嫌いだな」
天川は本音を言った。
もし仮に水無月が何人もの命を奪ってきたとして。
彼女に責任はない。
しかしそれは正論なだけで、殺される側としてはたまったものではないのも事実。
しかしそんなことはどうでもいい。
天川は自身よりも自分を優先してくれた眼前の少女を心底救いたくなったのだ。
「…えー?お兄ちゃんには嫌われたくないなあ。でも食べるわけにもいかないしなあ。…あーあ、白馬の王子様がやってきて助けてくれないかなあ」
「…白馬でも王子でもないけど助けてやる」
「お兄ちゃん?」
ここで少女は再び目を開けた。
「欲張りセットだ。お前も救って俺自身も幸せになってやる!」
天川はそういって水無月の手を強く握った。
「…あは♪やっぱお兄ちゃんてロリコンなんだ♪」
ここで天川はブラックアウトした。
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「天川!天川!起きろ。もうすぐ着く」
六文銭の呼び声で、天川は目覚めた。
飛行機の中だった。
「…すいません。寝ちゃいましたね」
そう頭をかく天川にその割にはと六文銭は笑う。
「大分スッキリしたというか目覚めの割に大分鋭い表情じゃないか。いい夢でも見れたのかい?」
「ええ。僕は大体悪夢を見ることが大半なんですけど、久しぶりに『いい夢』が見れました」
そういいながら天川は窓を覗く。するとそこには青い海が広がり、自然あふれる四鏡島が見えた。
(…水無月霧雨。絶対に助けてやるからな)




