9、今はただひたすらに牙を磨け。生き残るために。
「何故にバッティングセンター?」
天川は思わずそう口に出してしまう。
店内は従業員含め誰もいない。例に漏れず六文銭が貸し切りにしているのだろう。
「属性変化によって君は魔力内の時間を制御できるようになった訳だが…実践ではまだまだ使い物にならない。素早く且つ強力な属性変化が出来るようにならなくては意味がない…敵は待ってはくれないからな」
そこでだと続ける六文銭。
「10台あるピッチングマシンを全て同じ場所に向けた。…天川何をしている?早くそこに立て」
六文銭は10台の照準先が集中した場所に指をさす。後ずさる天川に対して真顔だった。
「…冗談ですよね?」
ドン引きな顔する天川に六文銭はにっこりとした笑みを返した。
「安心しろ。球は軟球にしてある。本当は硬球にした方が緊張感が増すからよいのだが、最悪頭にぶつけたら死ぬからな。大分優しいだろう?」
ちっとも優しくねえと思う天川だったが六文銭は構わず続ける。
「球の出るタイミングとスピードは完全ランダム設定にしてある。つまり君は球が発射されたら属性変化によって球を遅くして防御するというわけだ。初めから属性変化して対応するのは意味がないから禁止とする。わかったなら早くそこに立て」
再度催促する六文銭に仕方なしとピッチングマシンの照準先に立った天川だった。
「どういう意図かは理解しましたけど、反射で避けちゃいそうなんですが…」
天川の疑問に対して六文銭はパチンと指を鳴らす。
「これで問題ない、動いてみろ」
「…!?足が動かない!?」
「魔法で君の足だけ時の流れを遅くした。さあ、これで思う存分属性変化に集中できるな。それじゃあ始めようか…天川翔」
六文銭はそう口元を歪ませた。
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一時間後。
「いで!!?」
天川は苦戦していた。
10台のピッチングマシンからランダムで発射される球に対して即座に属性変化で対応する難しさ。
発射されるたび死のイメージをし、魔力開放させ属性変化をする。
一朝一夕ではできない。
《…天川、無理をしないで少し休みたいと言ってみてはいかがです?》
何十球というボールをぶつけられ、狼狽する天川を端で見ていたアルマがたまらずそう声をかけてしまう。だが天川はにいとした笑顔を返した。
《ありがとな。…だがこれでいい。正直辛いけどさ…前に進んでる感じがとてもいい…!》
実際。徐々にではあるが属性変化が早くなっていることを天川自身自覚してきたのだ。
そしてそれは自分が確実に強くなってきているという事だ。
それに。
属性選別で無属性と言われたときの絶望。
あれと比べたらこんな痛み、なんでもない。
(…凡人の俺が自力でせっかく掴んだチャンスなんだ。意地でも喰らいついてやる…!)
天川の瞳が暗く濁る。
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「今日はこれぐらいにしておこうか」
バッティングセンター内。
周囲は大量のボールが転がり、天川はその中で大の字になって倒れていた。
「…いやーきついっす。それに全身がまじで痛い」
あれから数時間。全てではないがボールをぶつけられ続けた天川の全身は痣だらけになっていた。
その上魔力を使いすぎて二重の意味で全身疲労がおきていた。
「だが得るものもあっただろう?…流石にその状態で家に帰すわけにはいかないね」
親御さんに殺されちゃうからねと冗談ぽく笑いながらつづけつつ六文銭は指を鳴らした。
「…今度は何をしたんです?」
怪訝そうな顔を向ける天川に六文銭はふふふと笑顔を返した。
「ただの自己治癒力を高める魔法さ。ちなみに命属性。家に着くころに君の痣は全て消えているよ」
「…先生って命属性の魔法も使えるんですね」
天川の問いに六文銭はうむと頷いた。
「命属性魔法は便利なものが兎角多い。今君に施した治癒強化や再生とか。覚えられるものなら覚えておきたいものばかりさ…まあ専門じゃないからそこまで強力な魔法は使えないけどね」
天川は驚く。六文銭曰くこの痣が家に帰るまでのわずかな時間で直してしまう魔法が強力ではないことに。
しかも大した集中するそぶりも見せず、何事もなかったよう簡単にやってのけた。
…『世界を滅ぼしかねない』か。
「…先生は」
「どうした?」
「…やっぱなんでもないです」
「そうか。ならそろそろ帰ろうか」
言いかけて止めた天川を特に追及するでもなく、六文銭は踵を返した。
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天川宅自室。
《…すげえな。本当に痣が全部消えてる》
上着を脱ぎ鏡で確認すると六文銭が言った通り痣が全て消えていた。
《ところで天川。四鏡島には本当にいくのですか?天川も懸念していましたけれど、自身が神隠しにあうかもしれないのに》
アルマがいつもの椅子にいつも通りお行儀よく座っている。ジャージ姿。
《もうここまで来たらいかないほうが危険まである…な。六文銭舞雪…想像以上にやばい存在だった。あいつから手を引くタイミングはもうとっくに過ぎていたよ。色々と俺は知り過ぎてしまった》
属性選別の裏の目的。
無属性など存在しなく誰もが何らかの魔法の才能を持っていること。
そしてそれを隠ぺいする者たち…監視管理する側の存在。
《六文銭が言ってただろ?自分も監視管理する側のほうだと。ならば見放されないようついていくしかない。見限られない間は俺を護ってくれるだろうしな》
と、ここまでいって。
天川は大きく深呼吸をした。
《とまあ、それは建前で》
拳を強く握った。
《六文銭についていけば俺はまだまだ成長できる。それに夢で見たあの少女…水無月霧雨。もし実在するのなら会ってみたいしな、現実で》
天川はつまるところと続けた。
《面白いから、だな。四鏡島に行けば面白いことが起きそうだから。…うん、これに尽きる。そして六文銭から逃げることは面白くない》
言いながら天川はドサッとベッドに倒れこんだ。
《その結果、身を滅ぼすことになってもですか?一応言っておきますけど、天川が死にそうになっても私は助けることはできませんよ?まあ、わたしから能力を貰ってそれで打開するという選択肢はありますが》
楽観的な天川に対してそう訝し気な表情をみせるアルマ。
《なんだ?心配してくれてんのか》
《別に。ただ仮にそうなったとして身を護るもしくはそれに準じた能力を貰うのはあなたの本位ではないのでしょう?あなたの欲しがっている能力がどのようなものか想像もつきませんが…それでも後悔しませんか》
欲しいものは決まっていると天川が言っていたのをアルマは覚えていた。しかし突然の死を回避する能力を貰ってしまえばもうそのものは手に入らない。
貰えるものは一つだけなのだ。
《…ああ、そうだな。ちゃんと返事をすると、四鏡島へはなげやりとかそういうのじゃなくちゃんと自分の考えと意思でいく。そして後悔は……多分仮にお前の言う通りになったら………死ぬほど後悔するんだろうな》
そう答えて天川は笑った。
《馬鹿は死ななきゃ治らねえとはよく言ったもんだけど、死んでも治らねえときたもんだ。だから欲張りセットを狙ってやる。四鏡島にいって楽しんで、無事に帰って、欲しい物全部まるごとかっさらってやる》
そして天川はアルマに顔を向けた。
《…馬鹿だよな俺って》
アルマは目を見開きそしてその後穏やかな笑顔になった。
《大分馬鹿ですよ?》
《おい》
でもとアルマは続けた。
《欲張りセットという考え…結構好きですね私も》
《…》
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そして一か月が経ち。
「うむ。もう完全に対応できるようになったな」
バッティングセンター内。
天川はランダムで発射されるボールを時属性変化によって完全に止めることが出来るようになっていた。
天川の周囲には空中で静止しているボールがいくつも浮いていた。
「…いうてしんどいですけどね。でもま大分慣れましたよ」
死のイメージからの魔力開放、そしてそれからの時属性変化。
そのプロセスに行きつくまでの時間が限りなく短縮されたのだ。
「それじゃあ今日はここまでにしようか」
言いながら六文銭は指を鳴らした。
すると天川の足の拘束が解かれ、自由になった。
天川はその場を移動し、魔力を解除するとボールが本来の動きに戻り壁に当たり落ちた。
「いやーやっぱ疲れますね。早く家に帰って寝たい………!?」
「…ほう。ギリギリだがちゃんと反射レベルになっているな。うむ、この訓練はこれで合格としよう」
六文銭は隠していたボールを天川の不意を突き投げつけのだ。
しかし天川も咄嗟に反応し属性変化でボールを止めた。
天川の目と鼻の先でボールが静止している。
「勘弁して下さいよ…。こちとら疲れてんのに」
天川ははあーと大きく息を吐いた。
「そういうのに対処できるようになるための訓練だからね。四鏡島にいったら絶対に気を抜くな。頭の片隅にいつでも危険があると置いておけ」
「…肝に銘じておきます」
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帰りでの車内。
「さて。これで君が君自身を護る手段を得たわけだが…どうする?四鏡島に行くまでの準備を私がする間、普通に学校に通ってもいいし、今の訓練を続けて属性変化の精度をさらに上げてもいい。それは君に任せる。骨休めも必要だしね」
運転席に座っている六文銭が天川にそう聞く。
「…今の訓練を続けていいなら続けますよ。属性変化にかかる時間は0.01秒でも短縮できた方がいい」
助手席に座る天川はそう返した。
真面目な表情でそう返した天川だったが、六文銭はくつくつと笑った。
「ふふふ、今でも十分だど思うけどね。…君は真面目だなあ。…確かにああはいったけど君に教えたあれは最終手段だから。基本的には私が君を守るからそこは安心していい」
命に関わることだから当然だろと内心天川はそう思ったが、確かに六文銭の言うことも一理あった。
時魔法の第一人者。
世界を滅ぼしかねない力を持つ魔女。
そんな奴が味方にいるのだから、そこまで心配することでもないのかもしれない。
「…ぶっちゃけ建前ってのもあります。正直今学校行そんなきたくないんですよね。みんなから質問攻めされそうで」
天川がそうため息をつくと六文銭はあーそういう事ねと頷いた。
「だが時の流れとはいい意味でも悪い意味でも諸行無常なものでね。あれから一か月近く立つだろう?みんなもうその話題には飽きてきているはずさ。…しかしま、君が望むならそれでいいよ。確かに君の言う通り、属性変化の精度と速度はいくら上げてもいい」
確かにと天川は思った…がしかし、正直それでも面倒だったしそれに属性変化をさらに鍛えることで、危機回避能力が少しでも上がるのだとしら天川の選択肢は一つだけだった。
「…訓練を続けます」
天川がそう答えると六文銭はうむと頷いた。
「わかった。いつも通り送迎はするが、私は準備があるから訓練は一人でやってくれ。…ふふふ、年甲斐もなく楽しみだよ、四鏡島神隠しツアーがね」
そう冗談ぽく笑う六文銭に対して天川はやれやれと言った感じで手を広げた。
「…とんだリゾート観光ですよ本当に」




