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6、いつになったら魔法が出てくるのだろう?

「さて。『準備』が整ったのでいよいよ本番だ」


とあるスポーツジム内。貸し切り。

広いフィットネスルームに六文銭と天川が差し向かい。

別室にはアルマがルームランナーで遊んでいた。

六文銭は天川に死の記憶を呼び起こすことで、天川の魔力のリミッターを外し強制的に全身から魔力をだせるようにした。

本来であれば長い修練が必要なのだが、死を経験していた天川の特殊な事情によりその工程を一気にカットできたのだ。


「まあ百聞は一見に如かず。取り合えず見ていろ…!」


「!?」


六文銭の身体から天川同様にオーラのようなものが発生した。

六文銭の魔力である。

ただ。

天川の魔力と圧倒的違いが2つあった。

魔力の色と。

範囲の広さである。

天川の魔力にたいして六文銭は薄黒い。

そして天川の魔力が周囲1m程度に対して六文銭の魔力はほぼ部屋全体を覆っていた。


「もっとも。お前とは違ってリミッターを外すのではなく正規の手段で魔力を発しているがね。…まそんなことはどうでもいいとして…天川、取り合えず私の魔力の外まで出るんだ」


「?」


意図が理解できなかった天川だったが言われた通り六文銭の魔力の外に移動した。


「よし。それじゃあそこから…丁度いい、そこのペットボトルを思いっきり私に向かって投げてみろ」


天川の脇にある棚に未開封の500mペットボトルが置かれていた。

誰かの忘れ物だろうか?

いや、そんなことよりも。


「…いいんですか?意味が分からないんですけど」


「いいからさっさとしろ」


仮にも女性なのにそれに向かって物をなげつけることに少し抵抗が残る天川だったが、六文銭には何らかの意図があり且つ万が一六文銭に当たってもペットボトルだから怪我はしないだろうと。


天川は。思いっきり投げた。


「!!?」


天川は目の前の状況に思わず口を開けてぽかんとしてしまった。

ペットボトルは六文銭の魔力の範囲内に入った瞬間。


空中で停止してしまったのだ。


…否。


正確には停止していない。


ゆっくりゆっくりと六文銭の方向に行っている。


「これは…一体どういう」


やっとの思いで声を出すことが出来た天川だった。


「『時属性変化』だ」


答えた後、六文銭は発していた魔力を止めた。

途端ペットボトルは天川の投げた本来のスピードに戻りかなりの勢いで六文銭に向かっていく。

するとぱしっと余裕且つ片手でペットボトルを掴んだ。

その後女性らしからぬ豪快な感じでペットボトルの水を飲み始める六文銭。


「どういうことか理解できたか?」


一気に飲み干しそれを乱暴にゴミ箱に投げる六文銭ちゃんとインした


「…もしかして時属性変化って体内時計が正確になるだけでなく、極めると魔力範囲内の時間の流れも制御できるようになるんですか?」


天川の回答に六文銭はその通りと満足そうに頷いた。


「今私がしたこと。属性変化により時の流れを100分の1まで遅くした。結果、ボトルは極限まで遅くなり解除した刹那、元の速さに戻ったわけだ」


天川は思い出す。最初の魔法の授業で蓮沼先生は火属性の変化により、火傷しそうなほどの熱を発していた。

天川は今まで属性変化を魔法に至るまでのただのプロセスぐらいにしか考えていなかった。

しかしこの場合…。


「…すごいやばい力ですねそれ」


そう目を細める天川。


「ふふふ、その通りだ。実に『やばい』。これがあればあらゆる脅威から身を守れるはずだ。そしてまた『逆も然り』」


例えるなら。この力さえあれば急に襲われても時間を遅くして対処できる。狙撃等の意識外からの超長距離射撃を防ぐのは厳しいだろうが、ここは日本だ、その可能性は極めて低い。しかも事前に情報を得てしまいさえすればそれすらも対策できる。

そして。

逆も然り。

攻めるほうでは…。


「これをいまからお前に会得してもらうことになるのだが…」


「先生、その前に一個だけ質問してもいいですか」


天川の言に六文銭は一瞬眉をひそめたが、まあいいかと頷く。


「魔法って許可された場所や認可された人しか使っちゃいけないんですよね?」


天川の質問に、ああそういう事ね笑う六文銭。


「『魔法』は、な。属性変化自体は禁止されていないから問題ない。そもそも魔法監視装置は『トリガー』で検知しているから属性変化は検知できない…ふん、解せないという面持ちだな。時間が惜しいがせっかくだから説明してやろう」


六文銭は天川にそれじゃあ野放しってことですか?と聞きたかったのだろう?と問い、天川はうなずいた。


「放置しているのは属性変化で悪さを企む奴なんてほとんどいないから。そしてその理由は『割に合わないから』だ。仮に属性変化…火属性だとして。発火温度に達するまでの属性変化が出来るものがいたとする。…それで?例えばそれで人を殺めるとして。だったらナイフだり包丁なり使ったほうが早いだろう?」


「…そりゃあそうですね」


その場合メリットがあるとすれば凶器なしで殺せることぐらいかと天川は納得した。


「それに発火温度に達するまでの属性変化が出来るものなど世界で数えるほどしかいない。しかもそう言った者たちは『監視者』側、あるいは魔法競技者として手厚い待遇を受けているのでそもそも悪事を企む理由がない。…これで納得したか?」


よくよく考えてみれば。

割に合わないからというのがとてもしっくりきた。

おもえば天川自身は例外としてほとんどの生徒は属性変化だけですぐにへばっていた。それだけ集中力と体力を消費する属性変化を悪事に利用するというのは凄くコスパが悪く感じる。

しかしこの場合…。


「…ありがとうございました。続きをしましょう」


「どう見ても納得しているようには見えないが…まよしとしよう」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「とは言っても基本的にやることは変わらない。あの死のイメージを思い出しながら、時の試験でやった時属性変化をすればいい。リミッターが外れるからあの時より変化しやすくなるはずだ」


六文銭はそう言って備え付けのソファーに座った。


「…」


天川は思い出す。

時属性色を。色々なものが混じりあった末の黒。

そして10秒の時間計測。

最後に。

自分が死んだあの時のことを。


「!?」


天川の全身から魔力があふれ出し、それは直径10メートルまで広がった。

そして。

最初は薄緑色だった天川の魔力が、六文銭と同じ薄黒い色へと変化した。


「…よし。そのままの状態であの時のストップウォッチのデジタルを思い出せ。そのデジタルの進みが遅くなる感じを強くイメージしろ!今のお前ならできる!!」


天川自身は自覚がなかったが予想以上に上手くいっているのか六文銭は立ち上がって興奮しながらそう叫んだ。


天川は思い出す。


夢に出るまで繰り返した時間計測。そしてストップウォッチのデジタル表示を。


その進みを…遅くする!!


六文銭はポケットからペンを取り出し、天川に向かって思いっきり投げた。


「…ほう。まさか一発目でできるとはな」


六文銭と同様に…とはいかないものの、明らかに天川の魔力範囲内にペンが到達した瞬間ペンは失速した。しかしペンは地面には落ちずゆっくりと天川に向かってくる。


「…ふう、、、いで!!?」


属性変化に成功した途端気を抜いたせいか、天川の魔力開放が止まりペンは天川に直撃した。


「油断禁物…しかし上出来だ。これで再確認できた。いかにお前が時の試験に真剣に取り組んできたかをな。いくらリミッター解除出来たとてそれが無かったらここまで上手くはいかない」


そう手を鳴らす六文銭。


「…もしかしてここまで考えて時の試験をやらせていたんですか?…いやーでもなんだか…とにかくしんどい」


そういってその場に座り込む天川だった。


「当然だ…と言いたいが事がここまでスムーズにいくとはとても思えなかったね。それと疲れるのも当然だよ?君だからその程度で済んでるだけで、他の奴が同じことをすれば数日寝込むほどの魔力を消耗している」


六文銭は少し落ち着いたようで口調がスタンダードに戻った。

そして。今日初めて女性らしい魅力的な笑顔を向けた。


「今日はもう家に帰ってゆっくり休むといい。家まで送ろう」


そういって六文銭は天川に手を差し出した。


「…。一応普通の笑顔もできるんですね。そっちのほうがモテると思いますよ…が!?」


差し出したてがグーに変わり、天川の頭に直撃した。


「調子になるな。私に軽口を言おうなんざ1兆年遅い」




ーーーーーーーーーーーーーーーー



帰りの車中。

アルマはまたも車のウイングにつかまって遊んでいた。

…。

もう何も言うまい。


「ところで先生。無属性は存在しないって言ってましたよね?それじゃあ僕も何らかの属性をもっているんですか?」


助手席に乗る天川は六文銭にそう問う。


「正確には『実はその属性の才能を持っているのに目覚めていないのが無属性』だね。選別の水晶で選ばれた者たちはナチュラルにその属性に偏った魔力を持っているというわけだ」


六文銭は無表情で天川に返答する。

自分で聞いておいてなんだが、こんな重要なことをペラペラしゃべっていいのかとも思う。

それを聞いたら六文銭は無表情のまま答えた。


「このことを他人にペラペラしゃべるほど君は頭が悪いのかい?」


然り。

天川は失礼しましたと六文銭に謝る。六文銭は多分天川の事をある程度信用しているからこそ話したのだろうし、こんなことを他人に吹聴したらえらい騒ぎになることは必至だ。

そんなことくらい自分で察するべきだった。


「…いや。こういう確認は決して悪くないことさ。つづきだが、そういった目覚めていない者たちを目覚めさせる方法はあるにはある。だが前に話した通り、それをされると大変都合の悪い連中がでてくる」


「先生曰く『監視管理する側』の人たちですね」


その通りと六文銭は答えた。


「一応私も『そちら側』の立ち位置なのだが…まあ、無属性と言われた者たちには少なからず同情はしているよ。だからこそ『時の試験』で君以外も試したのさ」


この返答には少し疑問が残る天川だった。

たしかに努力する余地はあった試験かもしれない。ただそれは余地があっただけで、天川以外の生徒が解けるような内容ではないと未だに思っていた。


「あれぐらい突破できるような頭と心がないと属性を目覚めさせても無駄だからさ。さっき目覚めさせる方法があるにはあるといっただろう?しかしそれには膨大な時間がかかる。それを全員にする時間も金もない。属性の水晶は危険な才能をはじく以外に『無駄な才能』を諦めてもらうという側面もあるんだ」


無駄な才能。

その言葉に妙に納得してしまった天川だった。たしかに効率がいい。後天的に時間をかけて才能を目覚めさせるより最初からその属性を持つ生徒を厳選して教育したほうが絶対良い。

時間も金もよっぽどその方がコスパがいい。

…しかし。


「…理解はしましたけど僕的には納得したくないですねそれ」


天川は今でも思い出す。

友人たちが続々とレア属性と呼ばれた中で。

自分だけが無慈悲に無属性と言われたことを。

天川の心の底にあるマグマがゆだつ。


「勿論君はそうだろうね。…実はさ」


ここで六文銭の口元が歪んだ。



「私も『君側』なんだ」



「…先生?」


「ついたな。明日以降もビシバシ行くから覚悟しておけよ?天川翔」


そう残して。六文銭の車は見えなくなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ、才蔵か?私だ」


「…六文銭か。何の用だ」


「予定よりも大分早くに天川の教育が終わりそうだから、一足早く『四鏡島(しきょうとう』にいって調査を始めてくれ。警察には私から言っておく」


「…。佐助にもいっておくか?お前の予想が確かなら、私の護衛力だけでは多少の不安が残る」


「うーん…まあ、私は十分だと思うけどなあ。まあいいや。才蔵がそう思うならそうしてくれ」


「…わかった」


























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