7、天川翔の望むモノとは。
《…なるほど。死を意識することでリミッターを外すというわけですか》
天川宅。自室。
アルマはがいつも通りの椅子にいつも通りお行儀よく座っている。
今宵は金髪ロングポニーテイルにぱっつぱつのチビtシャツにホットパンツという出で立ち。
《ああ。六文銭曰くそれでかなりの手順を省けたらしい。…まあ実際すぐに魔力を解放できるようになった訳だが…》
ジャージ姿でベッドに寝転がる天川だったが、少し憂鬱そうな表情を見せる。
《の割に。浮かない顔ですね。あのジムにいた時は辛そうにしてても不敵な笑みを見せていたではありませんか?》
アルマの問いに天川はため息をつく。
《…あの時はな。まあランナーズハイみたいな感じで気分が高揚していたんだろう。落ち着いたらどっと疲れが出てきたし、それに明日からのことを考えるとまじでめんどいなーと思ってさ》
天川が唯一の時の試験合格者だということが学校中に知れ渡った現状。
方々から質問攻めされそうでそれが嫌だったのだ。
実際にもうスマホに多量のメールが送られている。それを全部返信するのも大変だった。
《まあ、贅沢な悩みと言えばそれまでだけどな。結果六文銭に認められて、時属性変化の成長も著しく早まったし》
ここでアルマははあーとわざとらしい大きなため息をついた。
《天川が認められていくのは私にとっても喜ばしい事ですが、しかしそれに反比例して私から能力を貰う時期も遠のいてくんですよね…。そう言えば現状なにか欲しい能力とかあるのです?これは興味本位の質問なので深く考えないでください》
アルマは本来転生の女神として死者を異世界転生させてチート能力を授けるのが本来の役目だった。
しかし天川はそれを保留にしてしまっているので、アルマは天川のそばにいてその決断を待っている。
《…。実は結構決まってるんよね。欲しいの。ただ、それに決める勇気がもてなくてさ》
天川の意外な返答にアルマは眼を輝かせた。
《是非聞かせてください!?別に今決めろとは言いませんから!天川は現状どんな能力が欲しいんですか?》
そうがっつく女神に天川は顔を背けた。
《…返答はまだ待ってくれないか?結構まじで真剣に考えてるんだ》
アルマとは対照的に真剣な表情で天井を見ながらそう答えた天川に、アルマは不思議そうな顔を返した。
《…?変な人ですね。ただの質問なのですから気楽に応えればいいのに…まあ、乗り掛かった舟です。こうなったら気が済むまで考え抜いて決めてください。私はいつまでも待っていますから》
後悔のないようにとアルマは最後にそう付け足して、若干呆れたような笑みを浮かべた。
《ありがとな、アルマ》
言葉とは裏腹に天川の真剣な表情が崩れることはなかった。
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「また会ったね!お兄ちゃん♪」
気が付くと。
またあの浜辺にいた。
「…水無月霧雨、か」
黒髪のおさげで青色のワンピース。
10歳前後だろうか。身長は140にも満たない。
とてとてと天川に近づき手を握って天川を引っ張る。
「お兄ちゃん、またあそこでアイス買ってよー!」
水無月が向かう方向には前回見た夢と同じ、古ぼけた海の家が建っていた、
「焦らなくても買ってやるから」
そうやれやれと言った感じで抵抗せず引っ張られる天川だった。
海の家の前にあるベンチ。
天川と水無月が並んで座る。
「やっぱりガリガリ君は梨味が最高だよね。なんでレギュラー化しないのかな?」
そういいながらアイスを齧る水無月。
「それをいうならコーラも常備してほしいけどな。やっぱりソーダが一番売れるんかね》
天川の適当な返答に水無月はわっかるー♪と笑う。
本当に無邪気な少女だ。
「…ところでさ。前回最後に俺だったら魔力を一杯食べても死ななそうとか言ってたよな?例えば俺以外の人間の魔力を霧雨が腹一杯食べた場合…どうなるんだ?」
自分でも荒唐無稽な質問していると思ったが、これは夢だし自分の興味のある質問をそのまま正直にしてみる。
「死んじゃう」
それはあまりに自然に出てきた答えだった。
少女は笑みを崩さずそのままアイスを齧り続ける。
「この砂浜お兄ちゃんと霧以外誰もいないでしょ?霧が食べ過ぎちゃってみんなお外に出なくなっちゃったんだ」
天川は改めて周囲を見渡す。
確かに自分と水無月以外人はいない。
敢えて言うなら駄菓子屋におばあちゃんはいるがそれは例外だろう。
「…ご両親ももしかしてお前が食べたのか?」
天川は真顔で水無月にそう問う。水無月は両親がいないといっていた。
ならば…。
「あは!嘘に決まってるじゃん!魔力を食べるなんて嘘だよ。お兄ちゃんをからかって遊んでるだけー♪」
そうケラケラ笑う水無月に対し真顔を止めない天川。
「そうか。魔力を食べるなんて面白いからちょっとがっかりしたな」
天川の返答にぽかんと口を開ける水無月。
「…お兄ちゃんまじ?今の話が本当だったら霧って連続殺人鬼なんだけど」
水無月が歳不相応な呆れ顔を見せる。だが天川はどこ吹く風だ。
「腹減ったんだったらしゃーないだろ。俺だって腹減ったら牛やら豚やら鳥やらの肉食うしな」
天川は思い出す。水無月は自分がすごい食いしん坊だと言っていた。
それは魔力が減ると他人の魔力を欲してしまう体質と言える。
ならば仕方ない。
「…どうして本当だと思ったの?こんなバカみたいな話」
そう首を傾げる少女に天川は根拠はあったさと答える。
「霧雨がどう思っているかは分からないが、俺はここが夢の世界だと認識している。そしてこの夢を見ると例外なく起きたあともの凄く体がだるくなる。だからお前が夢越しに俺の魔力を食っているんじゃないかと考えたんだ。…まあどういう手段を使ったまでは知らんけど」
自分で言っておいて滅茶苦茶な暴論だと思ったがまあ、夢だし。
だが少女は笑うでもなく憂鬱な表情を天川に返した。
「それが仮に本当だったとしてさ。お兄ちゃんは霧に会うの嫌じゃないの?」
水無月が魔力を食うといったことに対して天川は一切の嫌悪感を示すのでもなくただ面白いと評した。
しかも自分の魔力を食べている水無月に対して。
しかもそのせいで両親どころか大勢を死に至らしめている水無月に対して。
腹減ったんならしゃーない。
あまりにシンプルな感想だった。
「別に。だるいって言っても動けないほどではないからな。とは言っても食うならできるだけ加減してくれよ?」
そう笑う天川。
天川は思う。
今までの話が全て本当だったとして。
水無月霧雨は決して悪い奴じゃない。
お兄ちゃんだったらいっぱい食べても死ななそうと言っていた。
つまりは水無月自身魔力を食べたいだけで殺したくはなかったのだ。
しかし腹は減る。
ならば食べるしかない。
「…お兄ちゃんさ。なんで霧にそんな優しくしてくれるの?」
そう疑問を向ける水無月に天川ははんと鼻で笑った。
「可愛いっていうのはそれだけで優しくされる理由になるのさ」
そう嘯く天川に水無月はまたもぽかんとなり、その後ジト目を天川に向けた。
「…お兄ちゃんてもしかしてロリコン?キモいんですけど?」
「うるせえよ!俺がキモいのなんて俺が一番わかってるっての!」
ここで水無月は寂しそうな笑みで空を見上げた。
「あーあ。お兄ちゃんにもっと早く会っていればなあ」
ここで天川は暗転した。
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「…」
《今日は目覚めが良さそうですね天川》
天川宅自室。アルマが脇でそう安心したような笑みを見せた。
《…ああ、まあ前よりは全然ましだな、とはいえちょっとだるいけど》
前回のような飛び起きる感じでもないし、多少はだるいものの本当にましだった。
《…さて学校行きたくないけど準備するかね》
言いつつも、天川の足取りは重い。
多分…ていうかまた確実に注目を浴びるだろう。
憂鬱な天川だった。
「…ま!考えてもしゃーない!死ぬわけじゃなし」
そう顔をぱんぱんとたたいて着替えを始める天川だった。
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「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい!」
テンション低めの天川に対し、天川の母、天川夏奈は軽快な笑顔を見せていた。
それもそのはずで元々引きこもりだった我が息子が学校へ行き始め。
友達が出来て。
ガールフレンドも二人いるのだ。
その上時属性の顧問である六文銭に生徒として唯一認められたのだ。
母としてテンションが上がるのは無理もない。
天川は母に分からないように小さいため息をつきながら玄関を開けた。
「おはよう、天川翔。迎えに来たよ」
六文銭舞雪が立っていた。
腰まで届く金髪ロングに白衣。妖艶的な美女。革製のカバンを手にぶら下げていた。
後ろには紫のランエボが停車されていた。
「…おはようございます。…先生って国産スポーツカーマニアなんですか?」
なんでここにいるんですかというよりも、車の方に興味がある天川は思わず聞いてしまう。
…かっこいい。
「別に。好きなだけさ」
そんなことより。と六文銭は奥にいる口に手を当てて驚いている天川夏奈に視線を向ける。
「天川の…お姉さんですか?お初にお目にかかります。私は天川の顧問を務めさせていただきます。六文銭舞雪と言います。以後、お見知りおきを」
六文銭は言いながら一礼し、名刺を夏奈に渡した。
「お、お姉さんだなんて!?違いますよ!翔の母の夏奈と言います。こちらこそよろしくお願いします」
そう夏奈も礼を返した。
明らかに浮かれた顔を見せる夏奈を見て、天川は深くため息をついた。
(…前も似たようなやり取りを見たな)
「これは失敬。随分若く見えましたもので。いきなりで申し訳ないのですが、天川は今日から私が送り迎えをしますのでご承知願います。あ、学校の許可は勿論得ていますので」
六文銭はカバンから一枚の書類を取り出し、夏奈に手渡す。
その種類には校長の物である認印?が押されていた。
「…補講授業があるというのは蓮沼先生から聞いているからいいんですけど。大丈夫なんですか?家の子だけ特別扱いみたいなことをして」
蓮沼先生は天川の本来の顧問。
夏奈は一変して怪訝な表情をする。
それもその通りではある。ともすれば他生徒からヘイトを買ってまたいじめられるかもしれない…そんな懸念が夏奈の中にはあった。
「事実『特別』ですからね。行ってしまえば天川翔は私に認められて『超特待生』に変わっただとでも思ってください。それだけにそれ相応の扱いをしなければならないのですよ」
六文銭の返答にも不安そうな顔を天川に向ける夏奈。
「母さん。大丈夫だよ。僕はこの先生の下で頑張ってみたい」
天川はそういってまっすぐに夏奈に目を合わせた。
一瞬止まり、その後はっとなり、力強い笑顔に変わって夏奈は両手の拳を前に出した。
「頑張ってね!翔ちゃん!…色々と至らない息子ですがどうぞよろしくお願いします」
そう六文銭に深く頭を下げた夏奈だった。
「いえいえ。息子さんは非常に優秀ですよ?…怖いくらいに」
そう言って六文銭も夏奈に一礼して天川に車に乗るように促した。
「さあ、行こうか?天川翔」
二人を見送った夏奈はルンルンとした足取りでキッチンに戻った。
朝食の食器を洗いながら思う。
(『頑張ってみたい』…か。翔ちゃん日に日にどんどん頼もしくなっちゃってさ!こうなってくると…仇花ちゃんに稲葉ちゃん…だっけ?ちょっと嫉妬しちゃうなあ…)
言葉とは裏腹に夏奈のルンルン気分は止まらない。
(私の方が惚れちゃうかも…なーんてね。お父さん早くかえってこないかな)
(早く直接会って話したいなあ)




