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⑧出会い


 不満のない学園生活。不満のない交友関係。そんな中で私は恋愛に飢えていた。実際多くの男を見るがその気にならないのだ。一人で廊下を歩きながらただただ悩む。出会いがない。雷に打たれたような事がない。


「もしや……不純異性交友が嫌なのでは? 無性生殖は出来るのかしら? もしかして……出来そう? いけそうだわ」


 古い記憶を辿るとそういう仕方ない場合は出来る事がわかる。全く私と同じ個体になってしまうので如何な物かと考えるが最終手段だ。逆に男のためにそうした事をやった事もある記憶がある。


「結局、子孫の多様性は失われるけど次世代に紡ぐ事は出来そうね……」


 歩きながら思考することは非常にいい考えが思い付く。運動はいい思考を生む事は研究者が証明している。そんなことを考えながら屋上のカフェテリアへ向かい、頼まれていたおやつを買う。学園内ではお茶菓子など、そつのない物が売っており、家族に隠れて食べるなら買い込みが便利である。


「じゃんけんで負けて買いに来ましたが……人が多いですね」


 カフェテリアは領土のように先輩方が占領し、私たちは別の場所でお茶会を開くようにしている。便利な所は人気であり、人気がない所は私のような喧騒を嫌う人が占領している。まぁ、自由にしたい場合は人目のない所がいいのである。きっと二人は生中継の決闘を見ているだろう。今日はSクラスの大会参加するためにある新人選考戦なのだ。気合いも入る選考会だ。


「すいません、クッキー袋3つ」


 私は素直に自分の懐からお金を出して商品を買う。飲み物は水筒に入れた物を持ち運んでいる。学園の穏やかな世界を感じながら帰りの道で騒ぎに出くわす。曲がり角の先にある根で様子見すると……騒ぎの原因がわかった。


「あれは? ガンガンチュア家の……」


 騒ぎの主はこの前の令嬢を従えていた青年。彼の黒い髪は目立ち、こっちに走ってくるのが見えた。後ろから多くの令嬢が追いかける中で……私は関わらないようにしようかと考え。廊下の死角を探し、空き部屋に入る。


 空き部屋はもちろん鍵がかかっているが私は手の根で器用にピッキングを行い、開けて入る。そのまま過ぎ去るのを待っていたら。


「「!?」」


 逃げていた人が入ってくる。私は急いで扉を閉めて、魔法で彼の幻影を生み出し、鍵をかける。面倒事を一瞬で関わらないようにするための判断だ。外からは追いかける令嬢の声がし……幻影に釣られていくのがわかった。幻影を見破るほどの魔法使いはいないかと思うと……幻影だと分かって探査の魔法を唱えている子もいた。手練れである。


 もちろん、私は対抗呪文で応戦する。ガルガンチュア家の青年が「魔法使えるんだ」と漏らして私の事を感心し、そのまま汗を拭っていた。そしてそれに私は文句を言う。


「あっぶな!! なんでこっちに逃げて来るんですか!! 私、面倒事は嫌ですよ!!」


「すまない!! ただ、ちょうど鍵が開いていてチャンスと思ったんだ……君が居るとは思いもしなかった」


「私が解錠し、逃げたんです。はぁ……」


 凄く面倒な事がありそう。早く出ようかな。そう思ったが……外の方でこの空き部屋に鍵を開けようとしているのがわかる。しつこい。


「ゼロ様、そこで隠れてください」


 私は彼を隠し、魔法で気配を消して窓を開ける。そのまま窓の外に魔力の足跡をつけて偽装もした。すると解錠する音が聞こえ、窓の外をみていた私と目が合う。


「えっと……もしかして窓から逃げた人を追ってる?」


「ここ、4階ですよね。魔力の痕跡……飛び降りたんですね」


 魔法使いの杖にローブを着込んだ本格派な令嬢だった。鋭い瞳に私は頷く。


「えっと、一瞬の出来事で何かなんだか……」


「痕跡が残ってる。ダウジング……学園外へか」


 私の魔力根が学園の外へと導き。魔法使いは窓から飛び降りて探す。非常に筋のいい魔法使いだ。


「ゼロ様は必ず……」


「……」


 その一生懸命さに私は少し羨ましく思う。彼女はきっと婚約者の一人なのだろう。姿が見えなくなった時、私は隠れている彼を呼び掛けた。


「ゼロ様、行きました」


「ありがとう……助かった……さすがに四六時中はやめて欲しい」


「お伺いしても? 婚約者たちでしょう?」


 たぶん、素直に修羅場が多いのだろう。予想が出来る。たまに逃げているのは見ていた。


「婚約者……と言えばいいのか。妾と言えばいいのか……」


「まるで競争だったので……何か事情があるのでしょう」


「実は婚約者予定と言えばいいのかな。婚約者になりたい者たちと言えばわかるかな?」


「えっ……婚約者じゃないのですか?」


「そうだね……」


 これは玉の輿案件だ。競争する意味もわかる。そう競争だ。


「夜会では侍らしてましたが……婚約者じゃないとは……」


「夜会は人の目もあり、逃げ場もない……無下な対応は家に関わる。妾の子でもある私はすぐに悪評が立つ」


「学園ではいいのですか?」


「学園は王立……味方は多いよ」


「そうですね。ガルガンチュア家ですものね」


「……そういえば……君の名前は?」


「ああ、その……すいません」


 あまり、名前を覚えて貰いたくはないが関わってしまった故に言わないと不自然だ。


「トル・フランベルジュです。ゼロ様、夜会でのご無礼、お許しを」


「……君、露骨に避けてる?」


「申し訳ございません。はい」


 彼は鋭いと思える。表面上ではない雰囲気で感じとっている。


「君、耳が出てるよ?」


「耳ですか?」


 私は耳を触る。何かの暗喩なのかと考えて首を傾げる。


「ごめん、ごめん……君から何かを隠してる魔力が見えたから。てっきり……亜人かと思ったんだ。亜人の令嬢は自分の正体を隠す子が多いからね」


「カマをかけた感じですね。残念ながら耳はここです」


 私は彼の評価を変える。危ない直感持ちだ。獣人の亜人ならバレていただろう。


「いや、少し興味が出た。手際の良さからフランベルジュ家は魔法使いを輩出している家だろう?」


「そうです。それにしても、追いかけ回される王子様なんて物語みたいなお話ですね」


「……本当にね」


「では、私は友達の買い物だったので失礼します。鍵は勝手に閉まるようですのでほとぼりが冷めたらお出になってください。一応、悪いことですから」


「ありがとう、助かった」


「助けるつもりではなかったんですが……おきになさらず」


「いや、結果は助けられた。この恩は忘れないよ」


「忘れてください。近いと隠し事がバレてしまいます」


「ふむ、でも……これから君の家の事を探るよ?」


 露骨な興味が生まれてしまったようだ。私は頭を抱える。お母様に報告しないといけないようだ。


「止める事は出来ませんよね。わかりました……受け止めます。関わった事を……残念に思います」


「…………」


「どうしましたか?」


「あっいや。その露骨に嫌な思いとか見せられて……凹んでる。そういう怒られる事とか学園内ではないからね」


「ちやほや……されますものね」


 正直、表情が曇っているから慣れていないのだろう。でも、時間が時間だ。友達が待ってる。


「では、失礼します。お大事に」


「はぁ……」


 私は奇妙な本の中のような出会い方にドキドキした。正直、嬉しい気持ちがあったが……残念ながら相手が王家なので「そう上手くいかないな」とも思う。


「でも、廊下歩くのはいいかもしれませんね。今度から取り入れてみましょう」


 私は成功体験を手に入れた。





 家で私は家族会議を行う。そして今日あった面倒な縁を話した。父上、母上、兄上に妹だ。妹に関しては赤子だ。緊急の会議である。


「以上です。私は王家の方に恩を売ってしまいました。申し訳ありません」


 話を終え、処罰か何かを考える。しかし、思いの外……肯定な意見が出た。


「まぁ、お父さん的には人助けであること。王家とのパイプが出来る事は嬉しい事だけど……お母さんの意見が知りたい」


「私も人助けはドリアードとして大切なので問題ないです。ただ……王家は一家全滅があり得るので……怖いですね」


 お母さんの意見に兄上が反応する。非常に整った顔の兄上は笑みを浮かべて思案し、同じように己の意見を言う。


「お母さんの言うことはわかる。そこの誰かが家に火をつける場合もあるし、拐う事件も起きよう。また……家を調べられる事は目につくので気を付けて生活しよう。弱味を見つけられたら……終わりだ」


「はぁ、ドリアードってなんで生きずらいのでしょうね」


 私は愚痴る。すると兄上が笑い出して彼なりの考えを述べた。


「それがデメリットさ。メリットはもちろん、記憶力、記憶保持力、記憶の引き継ぎ、魔法触媒なしでの魔法詠唱、能力。既に人間よりもズルい部分があり。それが迫害される理由でもある。有能だからこそ目立ち、有能だからこそ敵になりやすく。有能だからこそ魔女狩りの獲物にしやすい。これが我々だ」


「なんとも魔法使い的な発想で……父上はどう思いで?」


「同意見、魔法の杖としても一級品。ただ……家族が杖になるのは嫌だね。愛して生ませた子だから」


 お母さんがそれに反応してしまい。頭に花を咲かせる。それに反応して私も花が咲く。畜生……誘発された。


「母さん……子供作らないんじゃなかったか?」


「体が反応するんです。はぁ、いけませんわね。すぐに出来ちゃいますね」


「しょうがないなぁ母さんは……」


「……」


 照れるお母さんたちに兄上と私は嫌悪感を示す。親のそういう行為は恥ずかしいのもあるが……何故か生々しく嫌悪感を抱くのだ。兄上はたまらず部屋を出た。私も花をむしるが、むしった所でまた咲いてしまい。もう、飾りで通すことにした。嬉しいのは青い薔薇なので綺麗である。


「青い薔薇ですか……」


 花占い。奇跡、人間と混じって品種改良された私たちの綺麗な花だ。ちょっと明日が楽しみでもある。髪飾りには綺麗な花だから。





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