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⑨青い薔薇


「綺麗ね、その髪飾り」


「本当っすねぇ。俺でも見とれちまったよ」


「欲しいなら千切っていいわ……今日はずっと生えてくるの」


 午後の茶会。私の髪飾り風の薔薇をまじまじと見ている。私はと言うと上機嫌だ。花飾りは非常に褒められるのはドリアードとしては最高の褒め言葉である。私の花である故に。


「他の色も出来るのかしら?」


「出来ますよ。でも、今日の薔薇は自信作です。ブッシュ樹系の一輪咲きです。ドリアードなので枝はしっかりしており、重くても垂れることのなく咲き誇れます。ドリアードでも人気な咲き方です。今日、私の他にも咲いている子が居たので……実は髪飾りを装ってる子が居るかもしれませんよ?」


「なるほど。ドリアード探しにはいいのね。立派な髪飾りが目印と」


「なお、見つけやすい方法なので切り落として切り落とした場所を焼くのが普通です。痛いです」


「ああ、本当……人間と違うんだな。俺でも聞いた後なら見分けつくわ」


「じゃぁ、なんで切って来なかったんですの?」


「二人に見せたかった……」


「「……」」


 私は正直に話す。すると二人から抱きつかれて顔を擦られる。


「あなた、かわいいじゃない」


「俺、カッコいいのもいいけど。『お前みたいなかわいいのもいいな』と思うよ」


「照れますから離れてください」


「「やーだ」」


「もう、ふふふ」


 学園は本当に楽しい。ドリアードに生まれて良かったと今日は思えた。そして……今日はこのまま廊下を歩こうと思う。出会いを求めて。





 廊下を歩く、ただひたすらに。二人を置いて私だけが歩く。もくもくと歩きながら……出会いを求めたが。なかなか声をかけてくれる人は居なかった。一人以外で。


「今日も君は一人で廊下を?」


「こんにちは、今日が初めてです。ただ……目的と違った方が釣れましたが」


「こんにちは……妹から直接聞いたよ。腕相撲で3回勝負の1回勝ちでの情報だから少ないけど。『出会いを求めてる』とは聞いている」


 妹に2回負けたんだこの人。温情かな一回はきっと。


「そうですね。廊下で歩いてたら興味が沸くと思って行動してます。今日は逃げなくていいのですか?」


「逃げ切ったから大丈夫です」


「そうなんですか……」


 話が終わる。何を話そうかと考えたが別に廊下を「歩く動作に戻ればいいや」と考えてそのまま歩く。


「いや、少し話をするぐらいはいいんじゃないか?」


「廊下を歩く健康法です。歩きながらでもいいでしょう」


「本当に君は変わってるね……綺麗な女性なのに喋ってて驚くよ」


「褒めてくださりありがとうございます。変わってるのは皆さんもですよ。普通ってなんです? 俺口調の令嬢、脳筋思考のあなたの妹」


「普通は大多数の価値観の中で共有されるもの。普遍的な物で……それを定義するのは難しい」


「そうですね。私が変わってるの基準は遺伝子レベルで違いがあることもそうですが……深い所で違いは絶対に起こり得ます。変わってるのは他の方を知らないからとも言えますよね? 妹との腕相撲も変わってないことになりますね」


「観測してる場所によってまどろっこしいけど。結論、君は変わってる事に問題はないね」


「そうですね。それがゼロ様の意見ですので」


「めんどくさい話で煙に巻こうとしたね……君は」


「もちろん、誰かにみられたら『勘違い』されますから。離れてくださると出会いが増えます」


「ああ、露骨な拒否を……我が家がダメなんだろう。偽名なら君は手を出したかい?」


「そうですね。罠だったとしてもたぶん。素直に騙されますね」


「……君は誰でもいいのかい?」


「何事も話をしてみないとわかりません。表面上で褒めるより具体的がオススメです」


「綺麗だねと言うよりも……『その薔薇の飾り綺麗だ。似合っているし、それを選んだ君のセンスは凄くいい』と言えばいいのかな?」


「……」


 私は口に手をやり、そして薔薇を撫でる。


「……えっと、そうです。凄く嬉しいです。薔薇褒められるのは嬉しいです。流石ですね」


「……」


「なにか?」


「あっいや……そんなに喜んで貰えるとは思わなかったから」


「ふふ、変わってるからですよ。私は……おっと、早く逃げた方がいいですよ? ダウンジングの魔力が迫ってます」


「あっ……彼女か。ありがとう……ではまた」


「えっまた?」


「……」


 私は手を振るが「また来るの?」と口に出してしまい。すっごく寂しい表情をする彼を見た。「感情豊かでわかりやすいな」と思い。そのまま背後から魔法使いの令嬢に声をかけられる。


「あなたは!! ゼロ様みませんでしたか!!」


「そのまま廊下を走って逃げてます。あちらに」


「ありがとう!! 今日は捕らえる!!」


「……」


 少し、彼が可哀想になるが。まぁ関係ないしとそのまま廊下を歩くのだった。






 逃げ切った先で一人、ベンチに座る。多くの令嬢と男性の目に晒されるが気にせずに空を眺めた。


「……」


 薔薇を褒めた時の満面の笑みと、恥ずかしそうな仕草。何よりも素直な感情や、家を尊重しない物言い。そして……落ち着いた大人な雰囲気と子供のような無邪気な雰囲気が混ざりあった不自然な令嬢だ。


 それが、出会ってから気になり。あの気性難である妹の親友だと聞いて世間の狭さを実感し、妹が慕う友達であることにも興味が湧いた。あの妹が俺と会話するぐらいに変えた令嬢だ。


 しかも、妹は腕相撲や難癖をつけて情報を渋るほど。理由は王家にいいイメージがない事から。妹が空気を読んでいる事が伺える。


「ああ、気になるのか」


 立派な家柄に立派な人格者と言われてもまだ若く。性欲豊かな自分は非常に彼女が魅力的に感じる。


 避けられるから、気になる。


「……」


 愛嬌があるから、気になる。


「もう少し、様子を見よう」


 簡単に人を許してはならない。家のために。




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