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(番外編1)チートだけど引きこもっていたい。だけど

 物心ついた頃から、この世界とは違う、どこか遠いところを懐かしむような感覚があった。


 違う世界の記憶。そこで生きていたけど、自分がどんな人間でどんな人生を送ったかは覚えていない。

 別に覚えていなくてもかまわない。

 今、自分はここにいて、大切な人達がここにいて。それで十分なんだ。

 

 人が苦手なことにはちょっと困ってるけど。

 たぶん前の人生でなにかあったんだろうな。魂にこびりついた性格は変えられないんだろう。


 でも良いんだ。こんなオレを馬鹿にせずに尊重してくれる人達がいるから。


 俺の両親は、魔王から国を守った英雄だ。勇者と聖女だなんて、物語の主人公みたい。その息子として産まれたことを誇りに思っている。


 父さんはちょっと変わってるけど、桁外れた魔力量を持っていて格好いい。戦い方を教わってみたこともあるけど、感覚的すぎて全くわからなかった。

 いつも無口で無表情だけど、オレをかわいがってくれた。


 母さんはいつも穏やかで、むしろ穏やかすぎてちょっと怖いけど、優しくて好きだ。

 オレがどんなに引きこもっていても、ふふふと笑って見守ってくれた。


 兄のライアンはすごく真面目でしっかり者で、奔放な父さんに代わって、若くして領主を引き継いだすごい人だ。

 いろんな人達とも上手く付き合っていて本当に尊敬する。


 オレが人と上手く付き合えないことを責めることなく、自分にできることを頑張ればいいよ、自分の得意な分野で人の役に立てばそれでいいよと言ってくれた。

 

 妹のアリアは、人嫌いなオレのことをいつも尊敬して慕ってくれる。とにかくすごく可愛くて仕方がない。

 素直で優しくてがんばり屋で自慢の妹だ。

 とてつもない美しさを持っているという自覚が全くなく、何度言っても信じてくれなくて、かなり危ういところがあるけど。


 変な男が近づかないようにローブを被るようにお願いしたら、素直に聞いてくれた。

 本人は目立つ髪色を隠せるし、嫌がらせをされることもなくなるから良いやと思っているみたいだけど。

 いつになったら本当のことに気づくかなぁと思って見守っていた。


 リーンは幼い頃から一緒に育ってきた。

 昔は泣き虫でいつも塞ぎがちで、そんなリーンを見ていられなくて、力の制御ができるように付き添って見てあげた。


 だんだんと制御ができるようになり、自分の力に自信を持っていくと、笑顔が増えていった。

 オレのことをすごく慕ってくれて、いつも助けてくれる。

 妹みたいだけど妹じゃない。大切な存在だ。


 オレは本当に素敵な人達に囲まれていて幸せ者だと思う。



 この世界では、一人一属性の魔法しか使えないのが普通で、多くても三属性だそうだ。

 オレは、空間魔法、聖魔法、闇魔法、土魔法、火魔法、水魔法 の六属性が使える。


 転生チートってやつだろうか。


 だからといって冒険に出るわけでもなく、活躍するわけでもなく、ひっそりと過ごした。

 部屋に籠って一人で魔道具やポーションを作るのが性に合う。


 だけど、せっかくのチートな力だから、いつかは大切な人達を助けることに使えたらいいなと思った。

 だから毎日夜のダンジョンへ一人向かい、鍛えて力を研いていった。


 もし誰かに助けを求められたら、いつでも力になれるように。





  * * * * * * *





 よし、行こう。


 アリアに貰った虹龍の鱗を握りしめ、決意を固めた。


 一瞬だけ見て、すぐに帰ってくるつもりだ。どちらにせよ飛べないし。

 転移陣を起動させる。いざ、虹龍のもとへ。




  * *



 

 転移した先にはなぜか足場があった。目の前には青空が広がっている。


「あれ? 落ちない?」


 何でだろ。それにしても風が心地よい。

 ふと足下を見ると虹色に輝いている。


「ここは……」



『おや、珍しいお客さんだね』


 何重にも重なったような、不思議な声が頭の中に響いてきた。


「えっと、あっハイ、そうです……あの、虹龍様ですか?」

『ああ、そう呼ばれているよ。人間のお客さんなんて数百年ぶりだよ』

「……あのですね、上に乗っちゃってすみません。どうしてもアナタに会ってみたくて、来ちゃいました」

『そうかい。それは嬉しいねぇ』

 

 虹龍様は、急に現れたオレを頭の上に乗せたまま優しく語りかけてくれる。



 良かった。

 ずっと憧れていた存在は、優しい存在だった。


 出会えた記念にと、鱗を二枚くれた。


『それを君の大切な存在に渡すといい。きっと幸せが訪れるよ』



 

  * * * * * * *




「たっだいまー」

「おかえりなさい。エルさん、どこに行ってたんですか?」

「えっとねぇ、虹龍様に会ってきたよー」

「は?……え? 本当に?」

「うん」


 リーンはしぱらくぽかーんとしていた。そして、困ったような表情になった。


「エルさん無謀すぎますよ……でも無事で良かったです」


 そっか、危険がないとは言い切れないもんね。なんせ幻の存在だし。心配かけちゃったな。


「エルさん、話聞かせてください」


 リーンはすぐに笑顔になった。良かった。オレは君の笑った顔が一番好きだから。


「えっとねぇ、お土産くれたよー。ほら」

「わぁすごい! 良かったですね。エルさんの大切な物が増えましたね!」


 この子はいつもオレの幸せを思ってくれている。

 人付き合いが苦手なオレを馬鹿にせず、尊重してくれる。いつも助けてくれる。


「うん、これでリーンとアリアに何か作ってあげるね」


「え? そんな……いいんですか?」

「うん」


「……えへへ、嬉しい」


 そう言って、照れたようにへにゃりと笑った。



 もちろん良いに決まってるよ。だって、君はオレの大切な人だから。

 

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