今はまだ (最終話)
カラフルなタイルの並ぶ噴水広場でお昼休憩をすることになった。
たくさんの屋台が出ていたが、二人とも串焼きを焼いている匂いにつられてしまって、そこに一直線だった。
注文を済ませ、焼き上がるのを待つ。
「この香ばしい匂いをかいじゃったらもうダメだよね」
「そうですね。これは不可抗力です。いつも何を食べようか迷うので迷わずに済んでよかったです」
そう言うとアルトさんは横を向いてふっと笑った。
一緒に何かを食べる時はいつも待たせてしまっているからだろうな。申し訳ない。
「そうだね。俺はここには何回も来たことあるんだけど、結局この串焼きになっちゃうんだ」
「そんなに美味しいんですね。それは楽しみです」
そうこうしているうちに串焼きが焼き上がり受け取った。なかなかずっしりとしていてボリュームがある串焼きにかぶりつく。
「っっ!」
香ばしいタレがたっぷり絡んだお肉を頬張る。柔らかいお肉の旨味が口いっばいに広がって、思わず顔が弛んだ。
「よかった。気に入ってもらえて」
私は何も言っていないけれど、美味しいと思っているのは見たらわかるのだろう。
アルトさんも美味しそうにもぐもぐと頬張っている。
結局、串焼きだけを二本食べてお腹いっぱいになった。名残惜しいが他の屋台はまた今度の機会だ。
「この町の南側に大きな花畑があるんだ。ちょうど今が見頃だと思うから行ってみない?」
「はいっ、ぜひ行きたいです」
アルトさんに飛んで連れ行ってもらう。
しばらくすると、下に黄色とピンクの景色が広がった。
「わぁー! すごい!」
想像以上の広さの花畑がどこまでも続いていた。
しばらく空の上からの景色を楽しむ。見渡す限りの黄色とピンクの絨毯が本当にきれいで、ほうっと見とれていた。
こんな景色は、空を飛べるアルトさんと一緒でないと見れない。満足するまで見てから地上へと降り立った。
近くで見ると小さな星形の花だったようだ。ちょうど満開のようで、風に揺れる姿がかわいらしい。
花畑には人が通れる幅の道がいくつかあり、大勢の人々が花を楽しんでいた。
「ここは町の観光名所で、今の時期はこうやって人が沢山来るんだ」
「本当にきれいですね。こんなに広い花畑に来たのは初めてです。連れてきてくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
「ふふっ、なんだか今日は私ばかり楽しませてもらっていますね」
アルトさんの誕生日のお祝いのはずなのにな。なんだかおかしくなってきた。
「そんなことないよ。俺の方が楽しんでるから。俺さ、いつも人目を避けて過ごしてきたから、こうやって人の目を気にせずに誰かと出掛けるのは子供の頃以来なんだ。だから今日は付き合ってもらえてすごく楽しいんだ」
「私もです。いつもフードを被って過ごしていて、友達と言える人はリーンちゃんしかいったので。とっても楽しいです」
「……あのさ、もし迷惑じゃなかったら、またこうして付き合ってもらえると嬉しい」
アルトさんは伏し目がちに照れ臭そうな顔で言うものだから、胸がきゅーっと締め付けられてしまった。
そんな表情は反則だ。
「もちろんです。すごく嬉しいです」
精一杯の笑顔で答えたけど、顔が熱い。
きっと今、私の顔は真っ赤に染まっているだろう。恥ずかしいけどしょうがない。
こんな幸せな日をいつまで続けられるのだろう。
いつかは北聖領に帰ることになる。
だけどその前に、この淡い気持ちを伝えられるだろうか。
今はまだ、この幸せの中でいたいけれど。
* * * * * * *
チュンチュン、チチチチ……
目覚ましの音で目が覚める。
新しい朝だ。さぁ、今日も沢山稼ごう。
いつも以上にやる気に満ち溢れていて、どんな依頼でもこなせそうだ。
顔を洗って歯をみがき、着替える。
朝食を済ませると、髪の色を変えるゴムとローブを身に付ける。
準備が終わると、アルトさんに貰ったネックレスをしばらく眺めていた。
「えへへ……」
顔がにやけてしまうのは仕方がない。
壊してはいけないので、そっと箱にしまって部屋に置いていく。
「アリアちゃん、行こっか」
「うん。それでは兄さま行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
『キュー』
今日も今日とてギルドへ沢山依頼を受けに行く。北で待っている兄さま達のため、資金調達の日々は続く。
ギルドに到着し、依頼ボードの前へ行く。今日はどれだけこなせるかな。
「アリアちゃん、私は先にポーションの在庫を聞いてくるね」
「うん。よろしくね」
一人で依頼表をチェックしていたら、後ろから声をかけられた。
「おはよう」
灰色のローブの下から発せられるのは、穏やかで優しい声。大好きな人の声だ。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。貰ったプレゼントは壊しちゃいけないから、普段過ごすときに使わせてもらうね」
「はい。大事にしてもらえて嬉しいです。わたしもとても大事なので家に置いてきました」
「そっか」
気を抜くと顔がにやけてしまう。でも今はローブのフードを深く被っているから見えないので大丈夫だ。
* * *
カイルさんとルルさんと共に、二人の様子を少し離れたところで眺める。
二人ともローブを深く被っているけど、甘い雰囲気が隠しきれていない。
見ている方が恥ずかしいよ。
「ねぇ、あの二人なんかいい感じだよねー?」
「そうね、昨日一緒に出掛けたのよね。何か進展あったのかしら?」
「くっそ! 認定試験でアルトに負けて悔しい思いしたのに、その上いちゃつきまで見せつけられたらたまんないってぇ」
「ほんとそうね。茶化しに行く?」
「行く行くー!」
カイルさんとルルさんが興奮している。気持ちは分かるけれど、邪魔はしないでほしい。
「まあまあ、そっとしておきましょう。私はまだ、しばらくはニヤニヤと見守りたいんですよ」
今日も今日とて、じれじれな二人を見守って楽しみたいんだ。




