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君に出会って

 俺が物心ついた頃から、六歳上の兄レオナルドは父の跡を継ぐんだと言い、父からいろいろなことを教わっていた。

 真面目で勤勉な自慢の兄だ。


 俺はといえば、頭より体を動かすことが好きで、自由奔放に過ごしてきた。騎士団の訓練にもよく参加させてもらっていた。


 母譲りの銀色の髪と顔立ちを褒められることが多く、町に行けば沢山の女の子に囲まれていた。


 幼い頃は素直に嬉しく思っていたが、どこに行っても囲まれることにいつしかうんざりとするようになっていた。

 一人になりたいと言っても冷たくあしらっても、諦めることなくまとわりついてくる女性達が恐怖の存在に変わっていく。

 歳を重ねるごとにそういった女性は増えていき、言い争いをする姿もよく目にするようになった。


 町に行くことを極力減らし、騎士団で過ごすことが多くなった。15歳になりギルドに登録すれば、一人で自由に山へ行ける。それを心待ちにする。


 ギルド登録してからは、常に灰色のローブを身に付け、フードを深く被り生活するようになる。顔を隠しながらギルドでの依頼をこなす日々は性に合っていた。


 冒険者になって数年経ったある日、一人の少年と知り合った。


 小柄だがすごい実力を持っている、優れた水魔法の使い手だ。

 毒に侵されていたエリアンナさんを助け、山で俺が動けなくなっていたところも助けてくれた。

 話を聞くと、東聖領に到着し、ギルド登録をしたばかりだという。


 俺より二つ年下なのに、カイルさんの何倍もしっかりとしていて、真面目な少年だ。

 出会った日からどんどんと仲良くなっていった。


 物腰はやわらかいが、とても芯の強さを感じた。遠くに住む家族達の為にとにかく沢山稼ぎたいのだと言い、毎日沢山の依頼をこなしているのを目にし、手助けしたいと思った。


 せめて移動時間を減らせるよう、一緒に飛んで行こうと誘うととても喜んでくれた。


 彼の周りには心地よい風を感じ、一緒に過ごしていて、すごく心が安らぐ存在になっていく。


 兄の婚約者が火の呪いに侵された時、どうする手だても無く彼を頼った。彼の氷の力ならなんとかなるかも知れないと思った。


 そこで見た彼の素顔に、息が止まりそうになった。


 まさか女の子だったなんて。

 そんなこと思ってもみなかったから、本当に驚いた。


 そしてそれを嬉しく思っている自分にも驚いた。


 お互いの素性が分かってからも、一緒にいて居心地の良い存在なのは変わらなかったが、自分の中でどんどん大きくなっていく感情に気づいた。


 今まで誰にも抱いたことのない感情だ。



 祭りの日、彼女は闘技場のイベントで大勢の人達の前で素顔をさらした。

 身につけていたローブと胸当ても外してしまう。周りにいた男達が顔を赤らめ騒ぎだした。


 見るな。


 全員の息の根を止めたい衝動にかられてしまう。

 だいぶ重症みたいだ。


 


  * * * * * * *




「アリアちゃん? どうしちゃったの?」



 食事に行っていたアリアちゃんが、アルトさんに抱っこされながら帰ってきた。寝ているようだ。


「急にお酒のビンを手にとって、一気飲みしちゃって」

「えぇ、何で? 何かありましたか?」


 アリアちゃんはお酒が好きではないはずだ。


「普通に楽しく会話しながら食事していたんだけどね。カイルさんもいつも通り楽しくお酒飲んでいたし。まぁ、ルルさんは酔って俺にベタベタしてきて、うっとうしかったけど、アリアちゃんには絡んでいないよ」


 あー、うん。それが原因だよね、きっと。


 アリアちゃんがアルトさんのことを特別に思っているように感じるのは、気のせいではないと思うから。

 恋心が芽生えているんじゃないかなと思う。


 そして、アルトさんもアリアちゃんに好意を抱いていると思う。


 ああ、なんだかむず痒くなってきた。


「多分それが原因ですね」

「えっ? それって何?」

「それは自分で考えてくださいね。では、おやすみなさい」


 アルトさんは全く分からないというような顔をして帰って行った。


 明確な言及をする気はない。

 しばらくはまだ、じれじれとしていて欲しい。私は近くで甘酸っぱい空気を堪能するのだ。




  * * * * * * *




 朝、目が覚めると頭が重かった。

 そういえば、お酒を飲んだような気がするけど、そのあとどうしたっけ?


 自分自身に水魔法をかけ、すっきりした頭で再び考えた。

 うーん……

 お酒を飲んだ後のことを全く思い出せなくて、嫌な予感しかしない。



「おはようリーンちゃん。私、昨日のこと覚えてないんだ。私どうやって帰ってきたかな?」


 居間に行き、リーンちゃんに訪ねた。


「おはよー。アリアちゃんお酒飲んじゃったんだってね。その後すぐに寝ちゃったらしいよ。それで、アルトさんが抱っこして連れて帰ってきてくれたよ」

「うわぁ、やっぱり。どうしよう、迷惑かけちゃった……」


 やってしまった。お酒には気を付けないとって、白さまを見て学んだはずなのに。

 アルトさん達に会うのが恥ずかしい。でも、早く謝らなきゃ。

 でもなぁ……



 などと葛藤している間に、アルトさんが店に来た。

 

「おはよう。体調どう?」

「おはようございます。大丈夫です。あの、昨日はアルトさんがここまで運んでくれたと聞きました。ありがとうございました。迷惑をかけてしまい、本当にすみませんでした」


 深々と頭を下げた。


「いいよ、全然気にしないで。迷惑なんかじゃないから」

「……ありがとうございます。あの、私、お酒を飲んだ後、何か失礼なことをしませんでしたか?」


 そう質問をすると、アルトさんは気まずそうに目をそらした。

 どうしよう。どうやら何かしてしまったようだ。


「えっとね、アリアちゃん急に泣き出しちゃって。あの時何か嫌なことあった?」


「……そうでしたか。昨日はすごく楽しかったですよ。カイルさん達を見ていたらお酒を飲んでみたくなっちゃいまして。どうやら私はお酒飲んだら泣いちゃうタイプみたいですね」


 本当の事なんて、言えるわけもない。


「そっか。何もないならいいんだけど」


 アルトさんはそれ以上何も聞かなかった。





  * * * * * * *


 

 


「アリアちゃんがよそよそしい?」


 カイルさんとルルさんと三人で討伐に出掛けた後、二人に相談してみた。


「なんか、この前アリアちゃんが酔っちゃった次の日から、距離感があるというか。俺、なんかしちゃったのかな」

「送ってくときにさ、いやらしいことしたんじゃないのー? 実は起きてたとかさ」

「何もしていませんよ。カイルさんじゃあるましい」

「うっわ! ひっどー」

「何か心当たりないの? アリアちゃん何か言ってなかった?」


 ルルさんに尋ねられ、考えた。うーん、何もしていないはず。あの時は心を無にして耐えたはずだから。


「何もしていないとは思うんですけど……そういえば、俺と二人で討伐に出掛けた時に、『ルルさんに悪いな』って言っていました。どういう意味か分かります? 聞いても答えてくれなくて」


「んー……それって……」


 カイルさんは少し考えた後、何かに気づいたようだ。


「もしかしてなんだけど、お前達が付き合ってるって思ってるとか?」


「「は?」」


 何だそれ、意味がわからない。


「何でそうなるんですか?」

「いや、だってさ、あの時ルルがお前にベタベタしてたじゃん。アルトも途中からは拒むの諦めて腕に抱きついたままにしてたりしてさー。アリアちゃんまだコイツの素性知らないよね?」

「あら、ワタシのせい? ふふ、なんかごめんね」


 ルルさんがウインクをしながら言った。少しも悪いと思ってなさそうだ。

 そっか、そういうことだったのか。



「……ちょっと、話して来ますね」


 俺は、急いでアリアちゃんの元へと向かった。


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