勘違い
カラン カラン
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、お嬢さん。僕はジルベスって言うんだ。最近B級冒険者に昇格したんだ」
なんだかチャラそうな人が来た。
「それはおめでとうございます。なにかご入り用ですか?」
「今日は君に話があって来たんだ。よかったら今度僕と一緒に食事でもどうかな?」
「お誘いは結構です。ご用はそれだけでしょうか?」
「え? うん、君に用があって来ただけなんだけど、僕はね──」
「お客様ではないのでしたら、お引き取りいただけますか?」
「いや、あのさ……」
「お帰りください」
「……」
男は黙って帰って行った。しつこい人でなくてよかった。
今日は私がお店での接客の当番だ。
まだ男の人が迫ってくるのには慣れそうにないし、怖い思いをすることがあるけど、リーンちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないので何とか頑張っている。
最初はローブのフードを深く被って接客をしていたけれど、あまり意味はないし、商品を求めて来てくれたお客様に失礼なので、被るのはやめた。
今は、髪色を黒に変える髪ゴムだけを装着している。
営業妨害だったりあまりにしつこい人が来た時は、容赦なく氷漬けにしたり、水魔法で店の外まで押し流したりして何とかやっている。
それでも興奮した様子で何度も来る人もいるけれど。
世の中には痛め付けられて喜ぶ人がいるのだということを知った。そんなこと身をもって知りたくなかった。
最近、アルトさんの顔を見るとどうしてもルルさんとの関係が気になってしまって、一人で悶々としてしまっている。
資金を稼ぐことに集中しなくてはいけないのに、違うことに気をとられてしまう自分が嫌になる。
お客さんが途切れて一息つく。
しばらく一人で依頼を受けようかな……などと考えていたら、アルトさんが店に来た。
「ちょっとルルさんのことで話したいことあるんだけど、今いいかな?」
どうしよう。嫌だな、聞きたくない。
でも、いつまでもこうしてウジウジしている訳にもいかない。ちゃんと聞いて、すっぱりと諦めないと。
「お客さんが来るまでなら、大丈夫ですよ」
平常心を装い、潔く話を聞くことにした。
「ルルさんなんだけど、本名がギルベルト・フェルダーっていって、騎士団長ダリウスさんの弟なんだ」
「え? ギルベルト? え? 弟??」
何を言っているのか理解できない。ギルベルトって、女性の名前にしては何というか……
弟ってなんだっけ。思考がおいつかない。
えっと、弟ってことは、つまり──
「ルルさんって、男の人なんですか?」
あんなに美人なのに、そんなことってある?
でもそう言われると、ルルさんは背が高くて胸はなく、声が低い。綺麗な男の人と言われれば、そう見えなくもない。
「うん、男だよ。名前がかわいくないから嫌だって言って、ルルって呼んでるんだけどね」
「そうでしたか……」
男。そっか、男の人だったんだ。
「あの、アルトさんとお付き合いをしているとか、そんな関係じゃないんですね?」
そう聞くと、アルトさんが大きくため息をついた。そして困ったように笑った。
「そっか。やっぱり勘違いしてたんだ。なんか最近、距離感があったのってそのせいかな?」
態度に出ないよう気を付けていたのに、そう感じさせてしまっていたらしい。
「すみません。感じ悪かったですか? あまり親しくしすぎると、ルルさんに悪いかなと思いましてって……」
「いや、何となく気を使ってるなって思ってただけで、不快に思ったことはないから。それじゃさ、これからはまた今まで通りに接してもらえるかな?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
カラン カラン
お客さんが来た。
「それじゃ、またね」
アルトさんはそう言って、帰って行った。
そっか、ただの勘違いだったんだ。
私はまだ、この淡い恋心を抱いたままでも良いんだ。
* * * * * * *
黒龍討伐から二週間が経った。
空を偵察していたアルトさんから、残念な知らせが届いた。
「広範囲の瘴気溜まりを発見しました。瘴気が濃すぎてとてもじゃないが近づけなかった。中心に黒龍一体の姿が確認できました。まだ幼体でしたが、俺が見ている間にもどんどんと大きくなっていたので、成体になるのも時間の問題だと思います。今からギルド長に報告に行くところなので、皆で行きましょう。
カイルさん、ルルさん、アルトさんと共にギルド長の部屋へと訪ねた。
「そうか。では今日中に襲来するかもしれないんだな」
ラドクリフさんは悲痛な面持ちで言った。
黒龍は、仲間の思念を辿ると言われている。まだ討伐から二週間しか経っていないので、この地にはまだ思念が残っているはずだ。
新たに生まれた黒龍も、成体になったらここにやって来る。
「ギルド長、前に言ってた対策ってどうなってるんですかー?」
カイルさんがラドクリフさんに尋ねた。
「ああ、昨日、近くまで来ていると連絡があったからもうすぐ到着すると思うのだが……間に合わなかった場合、前回のメンバーで迎え撃つしかないな」
「到着って、誰のですか?」
コンコンッ
私が尋ねたすぐ後に、ノックの音が響いた。
「ギルド長、お客様です」
受付の人が二人組のお客さんを連れてきた。
一人は白いローブ姿で顔が見えないが、もう一人の黒髪の男性は私のよく見知った人物だった。
私は久しぶりに会えた喜びに打ち震え、すぐに駆け寄り抱きついた。
「父さまっ!」




