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よっぱらう

 店に着くと、カイルさんとルルさんは個室で待っていた。


「やっほー! お疲れぇ。あーやっぱりエルさんは来なかったかー。残念」

「お疲れさまでした。兄さまは大人数の食事が苦手なんです。お待たせしちゃいましたか?」

「私達もさっき来たところよ。リーンちゃんもいないのね」

「エルさんと食べるそうです。『せっかくのお誘いなのに、すみません』って言ってましたよ」

「残念だけどしかたないねっ! また今度一緒できたらいいなー。はいこれっ」


 カイルさんがメニューを手渡してくれた。

 お腹がぺこぺこなので、どれも食べたくなって決められない。


「おすすめってありますか? どれもおいしそうなので、決められないです」

「んー、それじゃさ、俺達のおすすめをいろいろ頼んで、皆で分けるのでいいかなー?」

「そうですね。それがいいです」

「俺もそれが良いです」


 カイルさんとルルさんが、やいやい言いながら選び、注文を済ませてくれた。わくわくしながら料理を待つ。


 しばらくすると料理が次々と出てきた。


「わぁ……!」


 どれもおいしそうでお腹が小さく鳴ったが、皆には聞こえていないようで安心した。


「それじゃ、カンパーイ」


 カイルさんとルルさんはお酒を飲む。

 私は果実水を飲み、私と同じくお酒が苦手なアルトさんは果物のジュースを飲んでいる。

 アルトさんは甘いものが好きみたいだ。


「ねぇ、黒龍ってまた生まれてくるかもしれないって聞いた?」

「上空の瘴気溜まりが消滅するまでに数匹生まれることがあるそうですね。ギルド長にしばらく上空を調べるように頼まれました」


 アルトさんはしばらくの間、上空での捜索に専念することになったらしい。


「ギルド長は一応対策はとってるって言ってたわよ。なんにせよもう来ないで欲しいわ」

「そうですね。今日はさすがに魔力が足りなくなるかと思いました」

「俺もー!……あー気が重くなるし、今日はもうこの話はやめよー! 飲も飲もー」


 楽しく過ごそうと、黒龍の話は打ち切った。

 カイルさんは、今仲良くしている女性の話を始めた。途中でルルさんと喧嘩を始めたがいつものことで、すぐに楽しい雰囲気に戻る。


 しばらく食事とお話を楽しんでいたけど、ルルさんとアルトさんの距離感がだんだんと近くなっている。


「ねぇーアルトぉ、あなたも一緒に飲みましょうよぉ」


 ルルさんは少し酔っているみたいだ。アルトさんを抱きよせながら、お酒の入ったグラスを口元に近づける。


「ちょっと、ベタベタするのやめてもらえます?」


 アルトさんは嫌そうに目を細め、ルルさんを引き剥がした。


「もぉーつれないんだから。一緒にお風呂に入った仲じゃなーい」

「はいはい。そうですね。お水飲みましょうか」


 淡々とそう言って、アルトさんはルルさんの顎に手を添え、お水を飲ませた。


「あはは。うぜー。アルト、ソイツの相手よろしくー」


 カイルさんはけらけらと笑いながら見ていた。


 

 ……今、一緒にお風呂って言ったよね。

 アルトさんは否定しなかった。子供の頃の話だよね、きっと。昔からの知り合いみたいだし。

 そう聞けばいいだけなのに、恐くて聞けない。どういう関係なのか知りたい。でも知りたくない。


 ルルさんはアルトさんの腕に絡み付いたけど、アルトさんはもうそれを拒まない。

 とろんとした目のルルさんを、呆れたように見ている。

『仕方ない人ですね』って穏やかに言った。



 嫌だな。見たくない。

 目をそらし、目の前のお酒のビンをじっと見つめた。

 そういえば、お酒を飲んだら嫌なこと忘れられるって言っていたなぁ。本当だろうか。

 カイルさんの言葉を思い出し、私はお酒のビンに手を伸ばす。


「アリアちゃーん、それお酒だよー。って、えっ!? ちょっ……」


 ビンのまま一気に飲み干した。すごく苦くて辛い。カイルさんは美味しそうに飲んでいたけど、美味しくないなぁ。



「アリアちゃん? どうしたの?」


 頭がぼーっとしてきて、アルトさんの声が遠くの方で聞こえる。

 何だかクラクラとしてきたけど、嫌な気持ちは無くならない。


「……カイルさんのうそつきぃ。全然ふわふわして気持ちよくならないよぉ」

「えぇ!? アリアちゃん? 何で泣いてるのー? どうしちゃったのさー」


 悲しくなってきて、涙が溢れてきた。

 

「アルトさーん……」

「アリアちゃん大丈夫? 何かあったの?」


 悲しいけど、優しい温もりを近くに感じる。私はその温もりに抱きついた。


「あったかい……」


 幸せな気持ちになってぽかぽかしてきた。嫌な気持ちが薄らいでいく。ふわふわするってこういうことかぁ……確かにこれは幸せだ。



「アルトさん……だいすき」


 



  * * * * * * *




 

「……アリアちゃん?」


 どうやら寝ちゃったようだ。

 今、小さな声で『大好き』と聞こえたような気がしたが、願望から来る幻聴だろう。


「あらあら、羨ましいわね」

「アルトーずるいぞー! そこ代われよちくしょー」

「いやですよ」


 カイルさんがわめいているけど、知ったものか。

 すーすーと寝息をたてる頬を撫でた。愛しくて仕方がない。


「うわー、アルトのこんな姿を見る日がくるとはな」

「ほんとねぇ、ふふっ」

 


 どうとでも言ってくれて構わない。誰にも渡してたまるか。




 

 夕方、食事の誘いをしにエルさんの店に行った。

 寝ていると言うので、一度帰って出直そうとしたが、居間に通された。

 アリアちゃんが起きてくるまで待たせてもらうことになった。


 今日は疲れただろうな。ポーションがあるとはいえ、黒龍に傷つけられている姿を見るのはつらく、待機しているだけなんて耐えられそうになかった。

 何度飛び立とうと思ったことか。

 

 居間でしばらく待ち、やって来たアリアちゃんを見て動揺してしまった。

 そうだよな。寝てたんだから、部屋着だよな。


 うっかりしていた俺も悪いけど、そうと分かっていて俺を居間で待たせるってどうなんだろ……



 アリアちゃんはショートパンツに半袖シャツ姿だ。

 体にぴったりとしたそのシャツは、体のラインを強調していた。


 だめだ、これはだめだって。直視できない。


 何とか平静を装って話をした。

 せっかく信頼して頼ってもらえているのに、こんな邪な気持ちを知られるわけにはいかない。



 女性にこんな気持ちを抱く日がくるなんて思ってもみなかった。


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