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第十一話

 

 side東唯


 ミィちゃんと橋本君に家まで送ってもらった。

 これから二人はビー玉を返しに行くのだ。ただ、怯えて泣くことしか出来ない自分が情けなくて……それに対しても悔し涙が出てくる。

 ミィちゃんは、こんな時だから唯のその反応が一番正しいよって言ってくれた。


「……ただいま。」

「お帰り、唯。相変わらずひどい顔のままね。」


 家に入った私を見てお母さんが言った。

 居間に着くとテレビが着いておりお父さんが見ていた。私に気づくと、お帰りと言った。


「はい、唯。」


 お母さんは三人分のカップに珈琲を入れてくれたようで、私はその内の自分のカップを受けとる。

 珈琲は私好みの甘さだった。


「……少しは良い顔になったわね。」


 お母さんはほっとしたように言った。

 私はお母さんとお父さんに赤目のビー玉関係の話をしていない。この優しい両親に心配をかけたくなかった。


「あら、もう少しで夕方ね。買い物袋に行かないと。」

「ん、行ってらっしゃいお母さん。」


 セールに遅れちゃうと行ってお母さんは買い物に行った。

 居間には私とお父さんの二人だけ、しばらくするとお父さんもテレビを消して、


「ちょっと庭に要るからな、そこの窓から直ぐに見えるところにいるから何かあったら言いなさい。」


 お父さんがそう言って、庭に出る。窓から見てみるとお父さんの趣味の木工作業だった。今は椅子を作っているみたい。


 私はソファーに座って、ミィちゃんと橋本君の無事を祈っていた。


 その時だ、


『返せ』


 少女の声がしたのは。


「っ!!!?」


 突然の事で驚き、その正体が分かったとき恐怖で声が出なかった。

 ……あ、嫌だ、お父さん、お父さん!


 私は少女が台所の入り口辺りに要るのを見た。その足元にはビー玉も。


『返して』


 そして、台所から何故か火が勢いよく燃えて……




 ***


 side藤林雅人


『雅人っ!唯の家へっ、唯のところに行って!早く!!』


 幼馴染み(美咲)からの唐突な電話があった。とても焦っていて時は正に一刻を争うがピッタリだと思った。


 ……確かに、頼れよとは言ったけどよ。突然過ぎる。


「分かった。そっちも気を付けろよ。」


 ありがとう、と言って美咲は電話を切る。


 美咲は今大変な事に巻き込まれている。俺の勘がそう感じていた。……ここ最近美咲の周りでなんか嫌な気配が漂っていたし。今回のこの電話だって、声が震えていた。


「っち、急ぐか。」


 ……美咲の頼みだし。

 俺は走って東の家へ向かった。




 東の家についた俺は絶句した。


 燃えていた。


「火事だとっ!?」


 一大事じゃないかよっ!?俺はただ集まっている野次馬の一人にさっさと消防車と救急車を呼べと叫び庭の方へと行く。

 そこには東の父親が居た。必死に叫んでいる。


「東は中なのか!?」

「っ、君は確か美咲ちゃんの……」

「そうだ幼馴染みだよ、それより中にいるのかっ!?」

「ああ、唯が一人で……」


 東の父親の言葉を遮って東が中にとり残されていることを確認する。


 ……まだ、火は燃え始めたばかりか…居間の方はまだ燃えてないようだが……ええい、一か八かだっ!!


 俺は視界の隅に移った蛇口に駆け寄って、蛇口を捻り大量の水を頭から被る。そして、


「っ!?おいっ、君っ」

「黙ってろ!!」


 注意を受けるが、消防車はまだ来ない。東の父親(こいつ)はこんなことは出来ないだろう。何となく顔で判断した。やるなら既にやるだろう。何せ娘の命がかかっているのだ。


 俺は開いてる窓から勢いよく家の中へと飛び込んだ。


 煙を吸わないように手で口元を押さえて体制を低くし東を探す。……居た。幸い窓からそれほど離れていないようだったが、ソファーの近くに倒れている。


 不味い。早く連れ出さないと。

 煙を大量に吸ってしまっていたら呼吸困難になってしまう。急いで東に近より、その体を抱き上げる。

 そして、入った窓から、


「おいっ、こいつを受けとれっ!」


 東の父親を呼び受け取らせる。俺も急いで窓の縁に手をかけて、外へと出る。


 間一髪。俺が出てしばらくしてから居間も物凄い勢いで燃え始めた。……後少し遅けりゃ死んでたな。


 久々に肝が冷えた。

 

 そして、消防車と救急車が、到着し消防車は消火活動を、救急車は東を乗せて行った。

 俺は救急隊員の一人に東の、容態を聞く。


 後少し煙を吸っていたら危なかった。と、隊員は言っていた。


 東は無事だった。

 安堵したのも束の間、直ぐに美咲を思い出す。東がこんなことになるのを知っていた様だった。美咲は大丈夫なのか?……嫌な予感が止まらない。最悪、美咲が死んでしまう所まで想像できてしまった。


「くそっ!!」


 そんな自分に苛立ったが直ぐに気を取り直し美咲に電話を掛ける。


『雅人っ!?無事なのっ!?唯はっ!』

「美咲落ち着けっ、いいかよく聞けよ……?」


 美咲に電話を掛けると直ぐに出た。こっちまで苦しくなるくらいの不安な声色をしていた。まずは落ち着けてから、東が無事だと教えて安心させたい。


「東は無事だ。勿論家族もな。」

『よかった……。』


 無事だと教えると美咲は先程とうってかわって安心した声になった。よし、後は美咲の居場所を……


『雅人、ありがとうっ』


 聞こうとしたら、どうやら走り出したようだ。風を切る音と美咲の息遣いが大きくなった。おいっ、待てよっ!?何処にっ、


「っ!美咲お前今っ、何処に!?」

『丘公園の林に……『返せ。』っ!?』

「美咲っ!!?おいっ!」


 美咲に居場所を聞いて居ると、美咲の電話から別の声(・・・)がした。おぞましいその声が聞こえた途端電話が切れた。


 何故か俺の脳内には渡辺の事故の時に一瞬見えた白い何か(・・・・)を思い出した。


 確信に変わった……美咲は確実に何かに巻き込まれている。


「くそっ!」


 そして、俺の勘は美咲が危ないと告げている。


「死なせるかよっ!!」


 俺は丘公園の林に向かって走り出した。




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