第十話
「え……?」
橋本が遠山の家に行くと連絡があってから、しばらくして、時刻は二時四十五分頃。そろそろ家を出ようと準備した時だ。
橋本から電話が来た。出てみると、橋本の声は小さく弱々しかった。何かがあったのだろう確実に。私は嫌な予感がして、そして橋本は言った、
『登は死んだ。階段から落ちて。……くそっ!もう少し早くたどり着いていればっ!』
私は橋本が自分を責めすぎないように説得し、落ち着くように促した。
……遠山の事で家の中も安全ではない事が分かった。
『すまない、ビー玉も探したが無かった。残りは岡村さんか東さんだ、どちらかの所に現れる可能性は高い。というより、確実だ。』
「……まだ私の所には無いよ。」
『東さんにも連絡してみる。』
私が連絡する、と言おうとしたらその前に切れた。……。
携帯をベッドの枕元において、私もベッドに横になる。解決法を見つけた矢先の出来事。ゴールが見えた瞬間に転んだ……いや、落とし穴があった感じだ。例えが微妙過ぎるが。
今回は油断し過ぎたと思う。
「終わると思ったのに……。」
残りは私と唯の二人だけ。残るは今日と明日の二日間。ビー玉はまだ現れない。
***
ビー玉は結局私の所にも唯の所にも現れず、六日目になってしまった。
そして、私は一睡も出来ずに朝を迎えた。眠いけど眠くない、矛盾してると思うけど。
「タイムリミットは今日の夜零時まで。」
両手で自分の頬を叩いて気を引き締める。そして、朝早くから申し訳ないと思いつつ私は寝ずに考えたことを二人に伝えるため、電話する。
「……そう、もうこうなったら家の外でも中でも危険度は変わらないと思うの。だから、オカ研の部室にまた集まって居れば、ビー玉が現れても直ぐに対処出来る、かも。」
そういった考えを二人に伝えた私は二人の賛同を受けて実行する。
ビー玉はまだ、現れない。
***
「ありがとう、唯。行こっか。」
唯の家まで迎えに行き二人で部室へ向かう。唯も大分やつれていた。
途中で偶然橋本にも会ったので三人で向かった。橋本も顔色が悪い。
道中会話はほとんどなく、部室に着いてからもなかった。
そして、何事もないままお昼が過ぎていき私はトイレに行くため少し席を外した。
「……なんで現れないの、このままじゃ直ぐに夜になっちゃう。」
流しで手を洗いながら呟く。このままタイムリミットになるまで現れなかったら私は、唯はどうなるのだろう?やはり死ぬのか。
「っ、駄目駄目、私は死にたくないの。だから最後まで諦めるわけにはいかない。」
三分ほどで、私はトイレから戻ったと思うが、部室へ戻ると唯が泣いていて橋本が怖い顔をしていた。
「っ?まさかっ!」
「……うん、東さんのポケットの中に。」
私は橋本の方へ向いて確認する。そして、予想が当たっていると私は直ぐに唯の元へ駆け寄る。
「唯っ!唯っ!落ち着いて、ビー玉を見せて!」
「うぅ、ぐすっ……ミィちゃ、ん。」
幼児をあやすように背中を軽く叩きながら唯にビー玉を見せてくれるように言った。唯は泣き過ぎでひゃっくりをしながらそっとポケットから手を出す。開いた掌には確かに赤いビー玉があった。
「後はこれを……」
「例のリボンが結んであるという木の所の宝箱の中に入れればいいのかい?」
「ひいばぁが言うにはそれで治まったとしか。」
私は唯からビー玉を預かる。
「私が行く。ひいばぁから大体の木の位置は聞いたから。」
「岡村さんじゃ危ないよ。僕が行く。」
「ひっく……ミィちゃん……。」
二人から心配されるが、唯はもう倒れそうなほど精神的に弱っているし、七人以外の人間である橋本だとビー玉が消える可能性がある。私が一番の適材だろう。
そう、二人に伝える。
「成る程……いやでも、僕も最後まで着いてくよ。何かあったときに巻き込まれる心配の少ない人材は必要だろう?」
橋本の言葉は一理ある。一人だと心細かったし……。だが一番の心配要素は唯だ。流石に唯は素早く動けそうにない。なので、
「じゃあ、唯を家に送ったら走って丘公園の林まで行って返してくるって事でどう。時間をかけると唯の方も心配になるし。唯は、どう?家で解決するまで待ってなきゃだけど……」
「ぐすっ、だ、大丈夫だよ。今日は、お母さん、もお父さんも家に居、るし、一緒に居間に居れば、きっと……。」
唯はそう言って頷いた。橋本の方に顔を向けると橋本も何も言わずに頷く。
「……じゃあ、行くよ。」
***
事故に遭わないよう注意を払いつつ無事に唯の家へたどり着く。唯に気をつけてねと言ってから私と橋本は丘公園まで走る。
ビー玉はしっかりと私の手の中にある。
ここから丘公園まで徒歩四分位だろうか。走るから一、二分で着くと思う。
走り始めてから二分頃たった時だ。丘公園の標識も見えて公園まで後少しといったとこで、突如橋本の携帯電話が鳴り響く。私達は一旦止まって道の端に行く。橋本に電話に出てと息を少し切らしながら促すと、橋本は息を整えながら電話にでる。
「ふぅ……、もしもし、母さん?どうしたの?……落ち着いてよ母さん。……うん、それで……えっ?!父さんが!分かった。」
それじゃあ、と言って電話を切る橋本。電話の相手は橋本の母親だったようだ。そして、
「……父さんが事故に遭ったって。」
「っ!?まさかっ。」
私は直ぐに掌のビー玉を確認する。ビー玉は私の掌にまだあった。
「大丈夫だよ。赤目のビー玉じゃいよ、父さんが事故に遭ったのは別だよ。仕事場で新人を庇ったらしい。」
よかった。赤目のビー玉に遂に巻き込まれたのかと思ってしまった。が、橋本の顔色は良くない。心配なのだろう父親が。私だったらすぐさま駆けつけたい。だから、
「橋本、私のことはいいから病院に行って来て。お父さんが心配でしょ?」
「っ!!確かにそうだけど!でも母さんも着いてるし……岡村さんも死んでしまうかも知れないんだよ!?」
「大丈夫だよ!ほら、公園まで後少しだし、やばかったら助けを誰か呼ぶし!……だから行って。」
「……すまない岡村さん。どうか無事で。」
やはり父親が心配だったのだろう。それでも同級生とはいえ他人の私の方をとろうとしてくれたのは嬉しかった。だから、私は橋本に父親の方へ行くようにいった。
橋本は来た道をやはり走って戻っていく。
「一人……。でももう少しで……っ!?」
公園を見据えて再び走ろうと足を踏み出したとき、掌に違和感を感じた。いや違和感が無くなったとでも言うべきか。
「うそっ!?消えたっ!!」
掌でしっかり持っていたはずのビー玉が無くなっていた。手品でもここまで華麗に無くならない。少し気を反らした瞬間に消えていた。
「嘘でしょっ!?……唯は?」
バッと後ろを振り返ると、夥しい量の黒い煙が唯の家の方から見てた。
火事っ!!?
「え、唯……の家の方?まさか……」
私は直ぐに唯へと電話を掛ける。……が、出ない。どうしようと焦ると幼馴染みの言葉が浮かぶ。
゛何かあったら頼れよ?゛
都合が良すぎだと思ったが、ここは頼ることにする。雅人の携帯に電話を掛ける。
「ん。美咲か、どうした?」
雅人は直ぐに出てくれた。
「雅人っ!唯の家へっ、唯のところに行って!早く!!」
人に頼む態度ではなかっが雅人は私の焦りに気付いたのか、分かったと一言言ってから電話を切った。……切る前に気を付けろよと言ってくれた。
これで、唯の方は多分大丈夫なはず……。
落ち着いて来た時、何処からか真理の事故の時に聴こえた少女の声がした。
『返せ』
何処かと見渡すと正面のやや離れた所に少女が佇んでいた。
……っ!?なんでここにいるの!!?私はビー玉持って無いのに!
私は少女を見据えて勇気を出して問い掛けてみる。
「貴女が透子さんね……?岡村セツの友人の。」
しかし、少女は聞こえていないようで『返せ』と繰り返すのみ。
私は少し自棄になって、
「私は今はビー玉は持ってないっ!」
すると少女はこちらを見た。左目はしっかりと私を見ていた気がした。
『嘘。あるじゃない。返せ。』
初めて聞いた『返せ』以外のちゃんとした言葉に私は一瞬固まった。が、直ぐに意味を理解し恐る恐るズボンのポケットを探った。
「あっ……嘘……何で?さっき無くなったのに……」
――赤いビー玉が出てきた。
と、いうことは?唯はもしかして……。雅人は間に合わなかったの!?
ジリジリと少女から距離を取る。
その時私の携帯電話が鳴る。
雅人からだった。
「雅人っ!?無事なのっ!?唯はっ!」
『美咲落ち着けっ、いいかよく聞けよ……?』
一呼吸置く雅人。その一瞬が長く感じる。そして、
『東は無事だ。勿論家族もな。』
あ…………。
「よかった……。」
安堵で崩れ落ちそうになるのを何とか堪える。
唯は無事だった、ビー玉も私の所に……ならば、私がやることは一つ。
「雅人、ありがとうっ」
目の前に居る少女に背を向け、丘公園の林に向けて走り出す。
『っ!美咲お前今っ、何処に!?』
「丘公園の林に……『返せ。』っ!?」
雅人に電話をしていたら少女の声がした。すると、電話が切れてしまった。電波は無い。
「っ!連絡は取れないか……」
小さく舌打ちしたが、でもやることは変わらないし時間も無くなってきた、日は気づくと沈んでいた。
少女も後ろから着いてきた。
速度は同じ、けど私が遅くなったら追い付かれる。……追い付かれたら、そこで、
――終わりだ。




