それゆけ!奥野坂上大学オカルト研究会6
洗面所は……うわぁ、ベタベタに髪の毛が詰まってるよ……。
洗濯機は古い二層式だ。昔、おばあちゃん家にあったなぁ。洗面台の下の収納にも何も無し。
さっきから鏡に髪の長い女性の幽霊がずっと映っていて、「ノロイ」とか「シ」とか呟いているけれど……見間違いだし、空耳だよねー。
「うーん……特に何も無いなぁ。やっぱりお風呂場を覗かないとダメかな?」
チラッと廊下を覗くと──烈子先輩がまるで猛獣のような眼光でこちらを睨みつけていた。
(ひっ……!)
「さ、さてー! お風呂場のドアを開けよっと!」
ギィィ……と浴室のドアを開ける。
「ゔぉえッ!? おろろろろろろっ……え、ペッペッ! うわぁ、溜めたままの水が腐ってヘドロになってるよ……。でも他は特に何も無いな。鏡に映る女性は……うん、どんどん顔が崩れて更に何か言ってるけど、怖いから放っておこ」
さて、何も無かったと報告を──と廊下を覗くと、烈子先輩が相変わらず獣の眼光でこちらを睨んでいた。
(んーと……こういうのって、風呂桶のヘドロ水を抜くと何かアイテムが見つかるんだよね? 鍵とか……。うわぁ触りたくない、えっとゴム手袋とか無いかな? あ! 台所の性子先輩のところなら──)
チラッと廊下を覗くと──今度は烈子先輩と性子先輩の二人掛かりで、真顔でこちらを睨みつけていた。
(増えてるぅぅぅッ!?)
「えっと……よぉーし! 風呂の水を抜くぞー!」
俺が声を張ると、二人同時に「ふん」と首を引っ込めて持ち場へと戻っていった。
(あんたらの方がよっぽど怪異だよ!!)
心の中で激しく叫びつつ、俺は洗面台にあった薄汚れた歯ブラシを拾い上げ、風呂桶のチェーンに引っ掛けて強引に栓を引き抜いた。
「おえっ! ゲホッ……くっさい、おえっ!」
ゴボゴボと嫌な音を立てて汚水が流れていく。
そしてやはり、当然の如くタグのおかげで流れずに済んだ『小さな鍵』を発見した。
歯ブラシ2本を箸のように使って摘み上げ、そのまま台所へ向かうと、先輩方も何やら戦利品を見つけたのか、古びたテーブルに腰掛けて俺を待っていた。
「お? やるじゃねえか伊地知!」
「烈ちゃんの飼い犬にしてはお利口ねぇ〜」
「はぁ……ありがとうございます。……って、うわっ! なんですかそれ?」
「お? お目が高いのぅ! これは居間の三面鏡の引き出しから見つけた『血文字の手紙』だ」
「私の方は特に何も無かったわぁ」
性子先輩が残念そうに息を吐く。
「僕の方は、鍵ですね」
「なるほど……玄関の鍵にしては小さいな。引き出しとかの鍵だな」
「たぶん2階の秘密の部屋ねぇ。うふふ、秘密って素敵♡」
「まったく、性子はいつでもピンクの脳みそでこまるわい!」
「あらぁ、烈ちゃんだって負けてないじゃない?」
「お前と違ってワシは貞操を守らんと神が降りんくなるんじゃ! テキトーこくな!」
「はいはい、わかってますよぉ〜だ、神聖な巫女様ですもんねぇ」
あっちは使ってるくせに
ボソっと小声で性子先輩が何やら呟いたが烈子先輩の額の青筋が増えたので急いで割って入る
「あ、あのう……それより、その手紙は……?」
「おう? これか! これはアレだな、『禁后』じゃな! ほれ! 紫逅って書いてある! 部屋ん中ひっくり返し過ぎてわからんくなったけど、髪の毛とか歯とかあったのかもな! ガハハ!」
「もう、烈ちゃんは荒すぎるのよぉ。でもそれは正解ねぇ〜。たぶん二階にも同じ鏡台があるはずよぉ」
「ぱ、ぱ、ぱんどら……!?」
「お前知らんのか? かぁ〜っ、情け無い! それでも奥野坂上大学オカ研の部員か!」
「さっき入部させられたところです!!」
「せからしか!」
バチィッ!!
「あいてぇっ!?」
烈子先輩が握りしめていた何かが、俺の顔面に投げつけられた。ポロリと床に落ちたそれを見て、俺は悲鳴を上げる。
「これ……人の歯だぁぁぁ! やだーーーッ! キモい! 破傷風になるーーーッ!!」
「あーやっぱりねぇ。母親が楽園に行くための儀式よぉ、これぇ。自分の娘を犠牲にしてね」
「そ、それって……」
「そうよぉ。多分、二階には……」
「お、おえっ……!」
想像もしたくない胸糞悪い事実を突きつけられ、俺は本日何度目かも分からない嘔吐感を催してしまう。
「ビビってんじゃねえぞ! 『禁后』と分かれば怖いもんはねぇ! 二階の鏡台の三段目を開けなきゃ良いだけだ! 行くぞ!」
「でもぉ、あの二階から見てた怪異はどうするのかしらぁ?」
「あん? そんなの居たな? 忘れとったわ!」
「もう、本当脳みそチンパンなんだからぁ〜」
「お? やんのか、おぁ!?」
「あらぁ? 私はいつでもどこでも即オッケーよぉ?」
(あわわわわ……! こんな最恐スポットの真っ只中で超獣大決戦が始まっちゃう……!?)
「おやめください! お二人とも!」
「止めるな栞!」
「そうよそうよ!」
やんややんやと騒ぎ立てる両先輩。
トランシーバー越しに栞先輩の声が響く。
『──夜明けが近いです。そろそろタイムリミットかと思います』
「……それもそうだな。よし! 全員で腹筋固めて行くとするか!」




