それゆけ!奥野坂上大学オカルト研究会2
ギィィ……とサークルの扉が開かれる。
「ん、ミッチーが降りてないと、重いなお前? ンギィィィ!」
神降ろしを解いた烈子先輩に、両手で無理矢理部室の中へ引き摺り込まれる。
「待って待ってタイムタイム! 伸びちゃう! シャツ伸びちゃうから! 首絞まってるって首ぃぃぃ!」
バチンッ! と頭を殴られた。
「せからしか! 親から貰った2本の丈夫な脚で立って歩けボケナス!」
「アンタのせいで立てないんだよぉおぉおおお!」
バチンッ! と容赦なくもう一発頭を叩かれる。
俺は痛む腹をさすりながら、血反吐を吐きそうになりつつ何とか立ち上がった。
サークル室内は異様な光景──いや、意外というべきか。
オカ研なんて根暗なオタクの集まりかと思いきや、室内は妙に小綺麗だった。
部屋の奥には、大学生にしてはあまりに色気のあり過ぎる、和服姿の美女が腰掛けていた。
「あらぁ? 烈ちゃん、その子が噂のぉ?」
「おうよ! 性子! 今日からワシの舎弟にしたんじゃ! イキの良いピチピチの霊感持ちじゃい! 食うなよ? たぶん童貞だ!」
「な!?」
言い返そうとしたが、ぐうの音も出ないほど事実だったので言葉を飲み込む。
「食べないわよぉ〜今は……ね? 私は聖性子文学部の4回性……いや、四回生よぉ。よろしくね、新人君?」
「あ、よ、よろしくお願いします……」
「そして、この無口な美人眼鏡っ娘が此花栞じゃい!」
烈子先輩の紹介に、傍らの眼鏡の女子学生が淡々と口を開く。
「部長、お言葉ですが無口なのではなくて、無駄な会話が非効率だと思っているだけです。部長とお話しするのは……その……大好きですよ? ……あ、経済学部2年の此花栞です。よろしくお願いします」
「あ、はい、よろしくお願いします……」
「ほら! 先輩方が名乗ったんじゃい! お前も挨拶せんか、ボケェ!」
バチンッ!!!
「あがッ!?」
前触れもなく放たれた烈子先輩の鋭いカーフキックが、俺の右ふくらはぎを激しく撃ち抜く。
「い、伊地知幽也です! 鬼怒川先輩の舎弟にされました、よろしくお願いします……!」
バチンッ!!!
「あひぃぃぃ?!」
おかわりのえぐいローキックが俺の太ももを容赦なく破壊する。
「き、鬼怒川先輩の舎弟に『ならせていただきました』伊地知です!!!」
言葉遣いを訂正させられ、バチボコに叩きのめされる俺の姿を見て、3人の先輩たちはケラケラと愉快そうに笑っていた。
一体俺の大学生活は、どうなっちゃうんだ……!?
「さて、新たな部員も入って廃部の危機を免れたことに乾杯じゃい!」
「烈ちゃんダメよぉ、飼い犬君がボロボロじゃない? かわいそうよぉ、今治してあげるからぁ」
聖先輩はそう言うと、ズタボロな俺の前にしなやかに膝をついた。
そして和服の袖をふわりと揺らし、何やら神聖そうな文言を優しく唱え始める。……すると、驚くべきことにみるみるうちに身体の痛みが引き、折れていたはずの肋骨の違和感すら消えていった。
「な、なんだこれ……!?」
「これが私の癒しの力よぉ。でもマジでヤバい力だから研究機関に狙われてるのぉ……内緒よぉ?」
「は、はぁ……?」
(さらっともの凄くヤバいこと言ってないか、この人……!?)
「あっ……!? オッホーーッ! 疼いてきたぁぁぁあ! お股が熱いわぁぁぁん!」
「な!? なななな、なんですかこれぇぇ!?」
困惑する俺をよそに、烈子先輩が呆れたように鼻を鳴らした。
「あぁ、性子は癒しの力を使うとお股が疼いてどうにもならなくなる難儀な体質なんじゃ。手ぇ出すなよ?」
「だ、だ、出しませんよ!!怖いが勝つ!」
「栞ちゃーん、お股が熱いのぉぉ! 慰めてええええ!」
「拒否します。部長に関する事以外はノーマルですので」
「ひどいわぁぁぁ! ……あ、ちょっと伊地知君じゃ物足りなさそうだからラグビー部の部室で慰めてもらうわね〜! 歓迎会始めててぇ〜!」
バタバタバタッ! と和服の裾を翻し、嵐のように去っていく聖先輩。
「ふぅ……あの淫売も、あれで優秀な霊能力者だからな。許してやれ」
「ゆ、許すも何も、感謝しかありませんよ! あんな重傷を一瞬で……!」
(……いや、本当は一瞬だけちょっと期待しちゃったけど、後が恐ろしいからこれで良かった……!)
「まぁ、とりあえず乾杯じゃい!」
「か、乾杯……」
烈子先輩は煙草に火をつけ、煙をくゆらせながら淡々とこの部活の成り立ちと目的を説明してくれた。
「ワシはこの力でもって、たくさんの人を救ってやるんじゃ! だから無垢なる民を脅かす怪異やら幽霊やら妖怪やらを、効率よくぶっ飛ばすためにこのサークルを立ち上げたんじゃが……どうにもこの学校は陽キャが多くて部員がさっぱり集まらん! だからこうやってスカウトして回っとるんよ! ガハハ!」
「へ、へぇ……」
(スカウトというか、ただの暴行監禁では……?)と言いかけた口をぐっと閉ざす。
すると隣で、栞先輩が静かにメガネの奥の目を光らせた。
「伊地知さんのことも調べさせてもらいました。……住所、家族構成、趣味嗜好……」
「ひっ……!? ス、ストーカー……!?」
「妹さんも中学校に入ったばかりで……可愛い盛りでしょうね?」
「ひぃっ……!?」
(この人……! この人こそ絶対に逆らっちゃダメな奴だーーーッ!!)




