地獄の呪いの王子10
「それになぁ! ワシには力強い味方がおるんじゃ! 真壁! コイツの本体はどこだ!?」
烈子課長の大音量の怒号が祭壇の間に響き渡る。その視線の先で、這いつくばっていた真壁が必死に目を凝らした。
「あ、あ、は、はい! その両面宿儺の背後に、物凄くどす黒くて生臭い『塊』が見えます!!」
その言葉に、両面宿儺の顔から一瞬で色が消え失せた。
「な、なにを……? あんな、トガリネズミよりも脆そうな、おしっこを漏らすことしかできない男が……ほ、本体を見ているだと……!?」
「さぁて? お仕置きの時間だなァ、クソガキ?真壁! 位置を報告し続けろ! 魔子! 真壁を守れ!」
「ひゃ、ひゃいっっ!!」
魔子は赤面しながらも、繋いだ手に力を込め、呪術ナイフを構えた。
「伊地知! いざとなったらそのふわふわニューモなヒヨコ二羽を頼むぞ! ついでにワシの援護もしろ!」
「……やれやれ、一番難しい役回りが来ましたね」
骨折した体を結界の光で支えながら、伊地知警部が苦笑する。
「ったりめぇだ、タコ! 何年ワシの尻拭いをやってるんだよ?」
「もう、18年近くになりますね」
「な? 頼むわ」
「応ッ!!」
ガルルルルアアアッッッ!!!
両面宿儺が怒り狂って吠え、ドス黒い呪いの腕が何本も伸びて真壁へと襲いかかる。しかし、それを伊地知警部の展開した五芒星の防壁と、魔子が高速で投擲する呪術ナイフが火花を散らして弾き飛ばす!
さらに、もう一方の巨大な呪いの腕が烈子課長を圧殺せんと振り下ろされたが、すでにそこに課長の姿はなかった。人間離れした爆発的な脚力で床のコンクリートを爆砕し、一瞬で両面宿儺の背後──真壁の指し示した位置へと回り込んでいたのだ。
「課長そこです! そのまま殴って──うわァァあッ!?」
次の瞬間、両面宿儺が放った文字通りの『全方位の薙ぎ払い』が、真壁、魔子、伊地知の3人をまとめて吹き飛ばした。
「チッ、狙いは『目』である真壁か……!」
「ふふふ……ははははは!! 『目』を潰せば何も出来まい、お兄様ァ!!」
両面宿儺が勝ち誇ったように嘲笑う。背後の本体は、すでに別の位置へと高速で移動していた。
「だからテメェみたいなアシュラ男爵な弟なんて知らねぇと言っとるだろ。……今、楽にしてやるからな?」
ドゴォォォォォォンッッッッ!!!!
烈子課長が放った渾身のストレートが、両面宿儺の背後から左後方へと目まぐるしく位置を変えた「呪いの本体」を、寸分の狂いもなく正確無比に打ち抜いた。空間が歪み、ドス黒いヘドロのような血が飛び散る。
「な、な、何故だ……!? 何故見える……!! 指示を出す目は潰したはずなのに、何故、私の本体が分かるッッ!?」
烈子課長はゆっくりと顔を上げると、いつの間にか装着していた、『眼鏡』のフレームを指先で「くいっ」と直した。
「この眼鏡はなぁ……。ワシの大切な同僚(栞)の手作りでな? テメェみたいな醜悪な呪いの位置を、バッチリクリアに見つめられる優れものなんだぜ? ……まぁ、現在進行形でワシの寿命がゴリゴリ削れてる音が聞こえるけどなァッ!!」
「うわァァァァアアッッ!!! 全員殺す! 殺す殺す殺す!! 父さんの仇だ、鬼怒川烈子ォォオオッッ!!!」
教祖の息子の怨念が臨界点を突破し、ビルの天井を突き破るほどのドス黒い呪いの奔流が跳ね上がった。
その凄まじい毒気(瘴気)に当てられ、魔子はお守りを握りしめながらその場に膝をつく。伊地知警部もゴホッと大量の血を吐いて倒れ伏した。
(ぼ、僕がなんとかしないと……! でも、魔子ちゃんも伊地知さんも倒れちゃって、もう……ッ!)
逃げ場はない。真壁は恐怖でガタガタと震えながらも、気力を振り絞り、倒れた2人の前に自らの貧弱な体を投げ出した。
(仕方ない……っ!!)
真壁は、押し寄せる特級カルトの呪いの奔流を、その身一つで受け止めて耐え始めた。
「な、何故だ……!? 何故お前のような脆い人間が、私の呪いを浴びて倒れんッ!?」
両面宿儺が驚愕に目を見開く。
真壁は、股間をびしょ濡れにし、鼻血をダラダラと流しながらも、不敵にニヤリと笑ってみせた。
「か……課長の毎日の理不尽な扱きに比べたら……カルトの呪いなんて、まだ50%ってところかな……!!」
「な……!? ななな、何だとおおおおおあアアッッッ!!!」
真壁のまさかの煽りに両面宿儺の怒りが有頂天に達し、ビル全体の呪いがさらに禍々しく活性化していく。
──一方、その頃。ビルの外では。




