地獄の呪いの王子4
「待って!! 真壁君がそこに行くなら、私も行くわ!!」
地下オフィスの重い扉を蹴破るようにして飛び込んできたのは、幽霊成仏課長・聖性子の娘、聖魔子だった。
その体には、十字架、数珠、お札、呪術的な文字が書かれた怪しい布など、世界中のあらゆる呪術的お守りが隙間なく巻きつけられ、腰や太ももにはおびただしい数の呪術ナイフが装備されていた。まさに【フルアーマー魔子(決戦仕様)】である。
「お母さん(課長)にはダメって言われたけど……! 私、そんなに戦力にはなれないかもだけど、そこに転がってるパンツ乾いていない真壁君よりは確実に戦えます!!」
「ほう、聖の娘っこ、大した度胸じゃい。──けどな?」
烈子課長はフッと不敵な笑みを浮かべると、魔子の目の前に音もなく肉薄した。
「神クラスの怪異を舐めるなよ。お前みたいな生半可な霊力じゃな、近づくだけでお嫁に行けん身体にされるぞ?」
そう言いながら、烈子課長は魔子の胸元を、指先で「ツン」と軽く突いた。本当に、ただ触れただけのような軽い力だった。しかし──。
「──ッッ!? あ、あが、あァァァァァアアアッッッ!!!」
次の瞬間、魔子はまるで数万ボルトの高圧電流を流されたかのように白目を剥き、激しく悶絶しながらその場に崩れ落ちて芋虫のようにもがき苦しみ始めた。体中のお守りからパチパチと不穏な火花が散っている。
「え!? えぇぇーっっ!? どういうこと!?」
腰を抜かしたまま股間を濡らしている真壁は、あまりの異常事態に叫んだ。
「いくら課長が怪力メスゴリラとはいえ、今のはほんの軽い力でツンってしただけなのに!? 魔子ちゃんの秘孔を!?一子相伝の?!」
「真壁さんは何も知らないでしょうが」
横から、此花栞さんが冷徹な声で解説を差し込んできた。
「鬼怒川課長の体内には、ある『神』が宿っているんです。だからこそ──」
「へ!? 神!? なんで課長の体に神様が──」
「栞、やめろ。そんな発情ウッドチャックに大層な設定を話してやっても、何にもならんわい」
烈子課長が制止するが、珍しく栞さんが強い口調で食い下がった。
「やめません! 鬼怒川課長!」
「栞!! 頼むからやめてくれ!!」
「ダメです。真壁さんだって、これから命懸けの現場で一緒に仕事をしていく『同僚』なんですよ!?」
「違うんじゃ栞!! それを知られたらなぁ……! これから先、真壁を物理的に弄る(ボコる)時のワシの楽しさが、めちゃくちゃ減るからじゃ!!」
ピタッ、と栞さんの口が止まった。彼女は一度メガネをくいっと直すと、深く納得したように頷いた。
「なるほど……。真壁さんを痛めつけている時に、『でも課長には、あんなに辛い過去(設定)があるから……仕方ないか……』と、真顔さんが納得してしまうのは確かに大きな損失ですね。わかりました、話すのをやめます」
「えええええええーーーっっっ!?!? ここまで言っておいて!? その理由でストップ!? 酷すぎないですか僕への扱い!!」
「うるせぇぞ? マスカキマーモットがァ!!」
ゴンッッッ!!!
「あべしっ!?」
烈子課長の容赦のない、優しさ1ミリもないガチのゲンコツが真壁の脳天に垂直落下した。真壁は一瞬でツルンと意識を飛ばして白目を剥き、その場に棒切れのように卒倒した。
「ふぅ。さぁて、行くか」
烈子課長は、脳天をカチ割られて気絶した真壁と、先ほどの「ツン」の衝撃で未だに床でもがき苦しみ続けている魔子ちゃんの2人を、両脇にすくい上げた。
その姿は、完全に【市場へドナドナされる出荷間際の子豚】を2匹抱えた極悪なブローカーそのものだった。
地下オフィスの外では、すでに栞さんが先回りして、あの『ゴーストバスターズ風のイカれた公用車』のエンジンを「ブォォォン!!」と爆音でふかして待機していた。助手席には、手付金の帯付きの札束3つがしっかりと鎮座している。
気絶した子豚(真壁)、バグった子豚(魔子)、そして札束を後部座席に乱暴に放り込み、烈子課長は助手席へと乗り込んだ。
「栞、道は分かっとるな? カルトの総本山へ向けて、アクセル全開でぶっ飛ばせィ!!」
「了解しました。これより年金防衛カチコミ狂い咲きサンダーロード、出発します」
キュルルルルッ!! と凄まじいタイヤの摩擦音を響かせ、市役所の地下駐車場から、最凶のメスゴリラを乗せた戦闘車両が夜の街へと飛び出していく。
行き先は、邪法外道の巣窟、国民救済を祈る会──。
◇
夜の幹線道路を、ゴーストバスターズ風のド派手な公用車が爆音を立てて激走する。バックミラーを確認しながら、助手席の烈子課長がタバコの煙を吐き出した。
「栞、伊地知の野郎はついてきとるか?」
「はい。後方にピッタリとつけているシルバーのキザシ──あれが伊地知さんの車両ですね」
「ケッ! 目立つから自家用車で来いって言ったのによぉ、公安丸出しのキザシなんかで来やがって、ガハハ!」
「課長の趣味が全開になっているこの公用車よりは、まだ一般車に紛れ込めているかと思いますが」
栞さんは表情一つ変えず、完璧なハンドルさばきで車を車線変更させた。
「何にせよ、アイツらにカルトの周りを物理的に封鎖してもらわんとな。それと、今回は相手が相手じゃ、現場に霊的な結界も張ってもらわんと民間人に被害が出る。……栞、まずは神社に向かってくれ!」
「了解しました。」
静まり返った神社へと鳥居の前に車が急停車した瞬間、烈子課長は窓を開けて夜空に向かって怒鳴り声を上げた。
「おい! 白狐ォ!! おるんだろ、出てこいッ!」
『──コンコーン♪』
軽快な鳴き声と共に、ダッシュボードの上に煙と共にひょっこり現れたのは、この地方一帯を統べる偉大なる土地神──三尾の白狐様であった。
「お? 今日はチワワキツネサイズか? いつもの無駄に目の保養になるイケメン変化で、ワシに求婚しにこんのか?」
『こっちの姿の方が、烈子にたくさん可愛がってもらえるから、味をしめたコン!』
チワワサイズの白い狐様は、小さな前足をちょこんと揃えてあざとく首を傾げた。
「おぉ、愛いやつ、愛いやつじゃのぉ。よしよしよし!」
烈子課長は太い指で、土地神様の顎の下や耳の裏を「わしゃわしゃ」と豪快に掻き回した。国一つ滅ぼせるレベルの神獣が、完全にただの甘えん坊のペットと化して嬉しそうに目を細めている。
『ふにゃ〜……コン……♪ それで? 今日は私に何の用、烈子?』
「おう。これからな、カルトのクソ共が無理矢理作り出しおった【自由工作の神様(両面宿儺)】を特大の物理で殴りに行くからよぉ? お前もついてきて結界張るの手伝え!」
それを聞いた白狐様は、パッと目を輝かせて、お尻の後ろにある3つのフサフサな尾を激しく左右に揺らした。
『手伝ったら! 今度こそ俺と結婚してくれるコン!?』
烈子課長は迷うことなく、土地神様の目の前に真っ直ぐに中指を突き立てた。
「お生憎様じゃ。ワシには獣とおファックする趣味は無いわい」
『コーン……(ガチしょんぼり)』
白狐様は耳をペタンと寝かせ、この世の終わりのように落胆した。
「まぁ、そう落ち込むな。手伝ってくれたら、この前の『貸し』をチャラにしてやるわ」
『コン……? 膝の上で、もっとたくさんわしゃわしゃしてもらうのもセットだコン!』
「お前の頑張り次第じゃな!」
『頑張るコン! 邪教徒なんか全員噛み殺してやるコン!』
烈子特大LOVEな土地神様は、一瞬でやる気を取り戻してフンスと鼻を鳴らした。
後部座席では、未だに気絶して股間が濡れたままの真壁と、お守りをパチパチさせながら「あがが……」ともがき続けるフルアーマー魔子が、子豚のように転がっている。
「準備は整ったな。栞、カルトの総本山へ突撃じゃァァアアッッッ!!!」




