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地獄の値上げしたら絶対下げしない幽霊3

翌朝、市役所1階の総合ロビーは、完全に「赤い波」に占拠されていた。


「物価高に負けるなァァア! 賃上げを勝ち取るぞォォオオ!! シュプレヒコールッッ!!」


ロビーのど真ん中で、工事用ヘルメットを深くかぶり、どこから持ってきたのか「ゲバ棒」を肩に担いで激昂する鬼怒川烈子課長。その後ろには、辺野古から緊急召集された20名の『団結の活動家幽霊』たちが、真っ赤な横断幕を掲げて気勢を上げていた。


「「「異議なし!! 闘争!統括!自己批判!勝利ぃぃぃいおおおっっっ!!!」」」


そんな過激派の狂乱の中、真壁はバンダナで顔を半分隠し、ロビーの隅っこで小さく、申し訳程度に拳を上げて日和っていた。すると、隣にいた活動家幽霊が真壁の肩を優しく叩いた。


「ちょっと君、もっと声を上げなきゃダメだよ! そんな態度じゃ、後でリーダーに【総括(肉体的粛清)】されちゃうよ? ほら、自己批判する前に声出して頑張ろ?」


「ひ、ひぃっ……! 闘争、勝利……!(涙目で小声)」


現世の人間が幽霊に内ゲバの恐怖で脅されるという、史上稀に見る地獄絵図であった。なお、さらにそのロビーの隅っこでは、栞さんが折りたたみデスクを持ち込んで「パチパチパチ……」と淡々と通常の事務仕事を続けていた。マイペースがすぎる。


「鬼怒川君! 頼むから話し合おう!!」


ついに耐えかねた市長が、両手で白旗を掲げながら烈子課長とのトップ交渉の席についた。だが──。


「ワシの年俸を『800億円』にしろ。さもなくば、今日から市役所の全全全機能を永久ストライキじゃい!!」


「て、天文学的すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


烈子課長が提示した「自分の給料だけ天文学的に引き上げる」という私欲まみれのクソ交渉により、話し合いは3秒で決裂。

事態をこれ以上大きくしたくない(警察やマスコミに知られたくない)市長が、最後の手段として秘密裏に連絡を取ったのは、市役所屋上を根城とする、あの部署だった。


◇

市役所・屋上。

「毒を持って毒を制する、だよ! 聖(ひじり)君!! 警察に知られる前に、あの地下の悪鬼羅刹の親戚(鬼怒川)を力ずくで黙らせてくれたまえ!!」

頭を抱えて懇願する市長の前で、幽霊成仏課の聖課長は、ふんわりとした笑顔で髪をかき上げた。


「あらぁ? 聞き捨てならないセリフですがぁ……まぁ、烈ちゃんとは最近ご無沙汰(ケンカしてない)だからぁ、喜んで引き受けますぅ〜」


「ちょっとお母さん! 私は嫌だからね!?」

後ろで中二病ナイフを磨いていた魔子が、顔を真っ赤にして猛抗議した。


「真壁君と殴り合うなんて絶対に嫌! 私は出動しないから!!」


「あらあらぁ、遅れてきた反抗期かしらぁ?」


聖課長はクスッと妖艶に笑うと、娘の耳元で悪魔の囁きを吹きかけた。


「でもねぇ、視点を変えてみなさい? 私や成仏課の他の荒くれ者たちにボコボコにされる前に、魔子ちゃんが自分の手で真壁君を『保護(お持ち帰り)』しちゃえば、万事解決じゃないのぉ〜?」


「──はっ!! 天啓……ッッ!!!」


魔子の脳内に、真壁を合法的に監禁……いや、優しく保護する素晴らしいビジュアルが舞い降りた。魔子の瞳から一瞬にして理性とハイライトが消え去る。


「お母さん! 私、やるよ!! あのプロ市民幽霊たちを全員ボコボコにする!! 現実のプロ市民は色々と面倒だから殴れないけど、幽霊なら現世の法律に関係なくやりたい放題だもんね!!」


「ふふ、我が娘ながらチョロいわぁ〜。それと、職場では『課長』と呼びなさいねぇ?」


「はぁい、課長!!」


現世のインフレから始まった理不尽な労働闘争は、ついに市役所を真っ二つに割る【幽霊社会復帰課 vs 幽霊成仏課】の全面戦争へと突入するのだった──!!

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