地獄の値上げしたら絶対値下げしない幽霊1
市役所の地下オフィス。
ガシャンッ!! と重々しい音を立てて、烈子課長がデスクにストロングレモンサワーの空き缶を叩きつけた。その般若の顔は、いつにも増して凶悪に歪んでいる。
「……オラ真壁。立て!」
「ひぃっ!? な、何ですか急に!」
「アルコールとタバコがまた値上げしとるんはどういうことじゃワレェ!! 財務省か? 財務省の差し金か!? ──そういえば米の値段は下がったんか!? ナフサは足りて急落しとるってニュースで見たぞ! なのに一度値上げしたプラスチック製品はいつ値下げするんじゃアホンダラァァアッッッ!!」
「そんなん僕のせいじゃないでしょぉぉぉおおおッッッ!!!」
理不尽極まりない怒りの矛先を全力で向けられ、真壁は涙と鼻水を撒き散らして叫んだ。
その横で、此花栞さんは一切タイピングの手を止めることなく淡々と事務作業を続けている。このスルー技術もまたプロの業だった。
「やかましいわ! これは絶対に『幽霊』の仕業じゃ!! 一度値上げした物の値段を絶対に下げん、それどころかドサクサに紛れて便乗値上げを繰り返すクソ迷惑な悪霊の仕業に決まっとるわいッ!!」
「いやいやいや! 課長、落ち着いてください! そんなの幽霊じゃなくて、国会とか、経済産業省とか、そういう僕ら地方公務員じゃ到底手が出せない上層部に原因があるんじゃないですか!?」
真壁が必死に常識的な正論をぶちまけた──その瞬間。
バキィィィッッッ!!!
「ぶべはっ!?」
烈子課長の、一切の容赦のない鋭いカーフキックが真壁の足を捉えた。あまりの激痛に、真壁は白目を剥いて床に崩れ落ちる。
「ワシが幽霊の手口と言うたら幽霊なんじゃい! 言い訳しとる暇があったら、その『値上げ幽霊』を見つけるまで絶対に帰ってくるなァァアッ!!」
どがッ!! と、そのままオフィスの外へと蹴り出された真壁。
数分後、彼は市役所の裏口にいた。
「うぅ……ひぐっ……痛い……足が千切れる……」
真壁はボロボロと涙を流しながら、サドルの無い自転車にまたがり、街へと向かう。
理不尽な暴力、無理難題な命令、そしてサドルのない自転車──。
これぞ幽霊社会復帰課の「様式美」であった。




