地獄の獄卒!鬼怒川烈子という女3
「……魔子ちゃん、急に静かになっちゃったね」
「そうね、あの、その……」
大人の世界の妄想で魔子は上の空
コップを壁から離し、真壁と魔子が顔を見合わせた、まさにその瞬間だった。
「お2人とも? 盗み聞きは良くありませんよ?」
突如として、ホテルの厚い壁が内側から爆破されたかのように粉砕された。
崩れ落ちるコンクリートの向こうから現れたのは──バスローブを羽織ってはいるものの、あまりの豪快な動きのせいで【大事な所がすべて丸見え(無修正)】になっている鬼怒川烈子課長、そして同じくバスローブがはだけまくっている此花栞さんだった。
「ひぎゃあああああ!? 壁破って入ってきたァァァッッッ!!」
烈子課長の筋骨隆々の両腕が、真壁の頭を左右からガシィィィッ! とホールドし、メキメキとスイカのように握りつぶしにかかる。
「ぎゃあああああああ!! 頭が! 頭の骨が鳴ってるゥゥゥウウ!!」
「きゃああああああっっっ!!! 見ちゃダメぇぇぇえええッッッ!!!」
その時、バスローブ全開の課長と栞さんを見てしまった真壁の貞操を守るため、魔子がパニックになりながら指を突き出した。
──その結果、魔子の人差し指と中指が、真壁の両目に寸分の狂いもなくクリーンヒットした。
ズブシュゥッッッ!!!
「ぎゃあああああ!!! 目がああああああ!!! 脳まで指が届いてるぅぅぅうううッッッ!!!」
「うるさいんじゃデバガメカラーヒヨコがァッ!!」
ゴンッ!!! ゴンッ!!!
目潰しを喰らってのたうち回る真壁と、パニック状態の魔子の脳天に、烈子課長のヒグマ級の特大ゲンコツが容赦なく振り下ろされた。
「ぶふぉっ!?」
「ひぅっ!?」
二人は同時に大量の血を吐き出し、仲良く白目を剥いて床に沈み、そのまま完全なる気絶を迎えるのだった。
◇
「……う、うう……。ここは……?」
気がつくと、真壁と魔子は、いつもの見慣れた市役所地下・幽霊社会復帰課のオフィスで横たわっていた。
二人の頭の上には、まるで昭和のギャグ漫画から飛び出してきたかのような、ぽっこりと大きく腫れ上がった【特大サイズのタンコブ】が綺麗に並んでそびえ立っている。
「真壁君……頭痛が……痛い……」
「僕なんて目から血も出てるよ魔子ちゃん……」
オフィスを見渡すが、鬼怒川課長の姿はない。
ただ一人、デスクに座った栞さんだけが、昨夜のデトックスの恩恵により、【言葉を失うほどツヤッツヤになった奇跡のお肌】で、何食わぬ顔でキーボードを叩いて事務仕事をこなしていた。
パチ、パチ、パチ、とタイピングの音が部屋に響く。
栞さんは画面から目を離さないまま、冷徹な声で二人に話しかけた。
「まぁ、尾行されていることは最初から分かっていましたが。あえて泳がしておきました」
「あ、あぁ……えっと、栞さん……」
真壁がタンコブを抑えながらガタガタと震え出す。前課長の「野生化バナナ生活」の秘密を知ってしまった以上、生きて帰れるとは思えない。
栞さんはそこで初めてゆっくりと首を回し、真壁と魔子を凍りつくような「笑顔のない無表情の圧」で見つめた。
「これを機に、もっと、もっと課長のお手伝いを頑張るようにお願いしますね?」
「ひ、ひぃっ……!」
「お願いしますね?」
「「はい…………」」
有無を言わせない特高警察のような栞さんの脅迫に、真壁と魔子は涙目で同時に深く首を縦に振るしかなかった。
こうして、烈子課長の「散財&彼氏の入院費」のために、より一層激しくこき使われることが確定した真壁たちであった。




