地獄の本土防衛戦1
午後15時。
市役所の地下にある『幽霊社会復帰課』のオフィスへ、本日も安定の重役出勤を果たした鬼怒川烈子課長は、暇に任せて前日の夜に捕まえた「転売ヤーの幽霊」の額に、楽しそうにタバコの根性焼きを押し付けていた。
「ギャァァァアアア!! 呪ってやる! 限定フィギュアを高値で転売しただけなのに何でこんな目にぃぃぃ!!」
「うるっさいわボケェ。次からは定価以下で社会復帰(労働)しやがれ。おい真壁、こいつの派遣先は24時間営業の牛丼ワンオペな」
相変わらずのブラックすぎるオフィスへ、突如として神聖な白い光と共に、一人の来客が姿を現した。
白い狐の面をつけた、息を呑むような超絶美男子──この市一帯の土地を統べる神であり、1クール目のラストで烈子課長と死闘を繰り広げた『三尾の白狐』様その人であった。
「なんじゃい、顔面だけ良い変態狐が? またワシに求婚しようってのか? パスパス! 獣とやる趣味はねぇよ」
烈子課長はハイライト(煙草)を灰皿でもみ消しながら、冷たく手を振る。
しかし次の瞬間、美男子の白狐様は──ガバッ!!! と床に両手を突き、烈子課長に向かって全力の土下座を決めた。
「ええええええっっっ!?!? と、土地神様!?」
あまりの光景に、真壁霊が飛び上がる。
「あわわわ、頭を上げてくださいよ! 課長も酷い事言ってないで、話だけでも聞いてあげたらどうですか?」
「……真壁君は優しいなぁ、よしよし」
土下座の姿勢のまま、白狐様は長い尾で真壁の頭を優しく撫で回した。神々しい光が真壁を包み込む。
「あ、あの、恥ずかしいのと畏れ多さでマジで気絶しそうなんで、撫でるの勘弁してください……!!」
「粗茶です」
その横で、事務員の栞さんが、いつの間にか完璧な温度で淹れた日本茶をお盆に乗せてスッと差し出した。
白狐様がお茶を一すすりし、重い口を開く。
「実はだな……烈子。最近、西洋の悪魔どもが『日本は治安が良くて住みやすい』などと言って勝手に日本に不法滞在し、好き勝手にしていて大変困っているのだ」
「んなもん、国内の妖怪どもで一致団結して追い出さんかいボケ。ナワバリだろ」
烈子課長は鼻クソをほじる勢いで一蹴する。
「そうは言ってもだよ烈子!? 日本の妖怪の戦力を考えてごらん? 小豆洗いに、砂かけババアに、子泣き爺に、すねこすり……戦い向きじゃない、奥ゆかしい奴らが多いんだよ!?」
「知らんがな? いるだろもっと! お前わざと弱そうなのばっかり言ってるだろ? あぁん?」
烈子課長が般若の顔で凄む。横から真壁が恐る恐る口を挟んだ。
「日本にもガシャドクロとか牛鬼とか、ガチで強い大妖怪がいますよね……?」
「そうなのだ真壁君! どっちも強大な大妖怪なのだ! ──だが、そいつらはどっちも数ヶ月前に君(烈子)に物理で殴り倒されて、未だに社会復帰中で前線に復帰出来て無いんだよ!!! 責任取ってよぉー、烈子ぉ〜〜!!」
(あんたのせいじゃねえかァァァッッッ!!!)
真壁が心の中で突っ込む。
烈子課長が戦力を事前にボコボコにしていたせいで、日本の霊的防衛力は完全に崩壊していた。
「あーもう! 面倒くさい!」と駄々を捏ねた瞬間、ポンッと煙が上がり、白狐様の変化が解けた。
現れたのは──両手にすっぽり収まる、【チワワサイズの真っ白な子狐】。
子狐になった神様は、烈子課長の膝の上に飛び乗ると、短い手足をバタバタさせて「烈子のバカー! 責任取れー!」とジタバタし始めた。
「「「か、かわいい…………(キュン)」」」
オフィスにいた真壁、鬼怒川課長、そして普段は鉄の女である栞さんまでもが、その圧倒的モフモフの愛くるしさに胸を射抜かれ、目がハートマークになった。
「チッ……あー、わかったわかった! このモフモフに免じて今回は引き受けたるわい。その代わり、一個貸しだかんな? 神様よぉ」
「コンコーン!(ありがとー!)」
烈子課長に顎の下を撫でられ、嬉しそうに鳴くチワワ狐様。
その微笑ましい光景の横で、真壁は冷や汗を滝のように流しながらガタガタと震えていた。
(うわぁ……この人、ついに現世の土地神様に『一個貸し』を作っちゃったよ……。怪異とか悪魔より、やっぱりこのメスゴリラ上司が一番怖い……!!)
「よし栞! 真壁! 不法滞在の不良悪魔どもを社会復帰(強制送還)しに行くぞ! 武器を持てィッ!!」
こうして、幽霊社会復帰課の「国際不法滞在悪魔・一網打尽作戦」の火蓋が切って落とされるのだった。




