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はい、こちら幽霊社会復帰課  作者: 拝頼人
二章 地獄の実地研修編
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地獄の引きずり魔2

──バリバリバリバリバリバリバリバリッッッ !!!

住宅街の静寂を完全にパッパラパーにする、暴力的な2ストロークの金属音。

CCISの焦げた強烈な白煙の中から現れたのは、ヨレヨレのタンクトップに口にタバコを2本咥えた鬼怒川烈子きぬがわ・れつこ課長with【JTハイライトカラー】に全塗装された怪物マシン『SUZUKI RGV250γ(ガンマ)』だった。


「おぉん? お前、ワシのシモベとそのつがいになに晒しとんじゃ、こらぁ?」


※烈子課長は霊感ゼロなので普通の幽霊は見えないが、実体を持つ怪異や妖怪の類は視認できる。


烈子はγのエンジンを「ベラン! ベラン!」と吹かしながら、焼け焦げたお札の顔を持つひきこさんをギロリと睨みつけた。


「せっかく新しく付けた【スガヤのチャンバー】の調子を見ようと思って夜に出回ったら雨は降るしよぉ、ワシは今めちゃくちゃムシャクシャしとんだよ? ──よし、全員一発ずつ殴らせろやァッ!!」


理不尽極まりないメスゴリラの乱入に、真壁は泥まみれのまま必死に叫んだ。


「な、なんで僕たちまで!? 殴るなら、魔子ちゃんじゃなくて僕を二発殴って──グハァオボォッッ!!!」


ドガァァァン!!!


真壁が言い終わるより早く、烈子課長の重戦車のような【ボディストレートからのアッパーカット】が真壁の顎にクリーンヒットした。真壁の身体は綺麗な放物線を描いて夜空へと高く舞い上がった。


「ケッ! 自分の女くらい自分の力で守らんかい、この雄アンコウがぁッ!」


ペッ!!!

烈子課長が吐き捨てた痰が、空から落ちてきた真壁の顔面にジャストミートした。


「くっさァァァアアアッッッ!!! ほら、ひきこさん! 本当のいじめっ子はこの人(課長)ですよ!!」


真壁の悲痛な叫びに呼応するように、ひきこさんの顔面のお札がガサガサと蠢いた。


「いじめっこ……みーつけた……!」


ターゲットを烈子へと変え、ひきこさんが長い髪を振り乱して襲いかかろうとした、その瞬間。


「あん? 引きずり回されるのはお前だろ。──栞!」


「はい」


闇の中からどこからともなく現れた事務員の栞さんが、人間の動体視力を置き去りにするスピードで突進。ひきこさんの両足に「怪異の力を遮断する特殊呪物ロープ」を巻きつけると、その反対側をγのリヤフェンダーとタンデムステップのフレームにガチガチの固結びで縛り付けた。


登場から結束まで、わずか5秒。ここからは、烈子課長の独壇場だった。


「オラァ! ここからは『お返し』の時間じゃあッ!!」


烈子課長はローギヤへと叩き込み、スロットルを限界まで捻り込んだ。

──バァァァァァァァァアアアンッッッ !!!!!


排気バルブが全開になり、スガヤのレーシングチャンバーが鼓膜を狂わせる爆音を轟かせる。γが爆発的なパワーバンドへと突入し、フロントホイールがフワリと浮き上がった。


「いやああ ああああーーーーーっっっ!?!? 速い! 速すぎるぅぅぅううう!!!」


今度は逆に、ひきこさんの身体がアスファルトの上を猛烈な速度で引きずられ始めた。時速は一瞬で100キロを突破。


烈子課長はJTハイライトカラーの車体を激しくハングオンさせながら、雨上がりの夜の住宅街を攻め立てる。


「オラオラオラァ! ガンマの加速を舐めんなよボケェ! NSRもTZRも目じゃねぇぞ?オイルまみれにしてやるわぁぁあッ!!」


バリバリバリバリと白煙をブチ撒きながら爆走するガンマの後ろで、ひきこさんは路面のキャッツアイや縁石に激突し、「ゴツン! バキッ! ぶふぉっ!?」と物理的にひたすら粉砕されていった。


数分後。完全に白目を剥き、ボロ雑巾のようになったひきこさんの前に、栞さんがゴーストバスターズ風の改造車をバックでピシャリと停めた。


「課長、お見事です。ひきこさんですが……彼女の『あらゆるものを引きずり回す執念』を有効活用できる、素晴らしい就職先が見つかりました」


「し、就職先……?」


真壁がガタガタ震えながら問いかける。


「はい。明日から彼女には、【魚河岸(中央卸売市場)での大物冷凍マグロの人力搬送業務】に従事していただきます。ターレットトラックにも負けないその引きずり能力があれば、何百キロもある高級マグロを一瞬でセリ場から運べるでしょう」


「しゃ、社会復帰っていうか、ただの魚河岸の肉体労働……! 」


真壁が納得しかけたその時、烈子課長がハイライト(煙草)に火をつけながらジロリと睨む。


「真壁ぇ、ワシのスガヤのチャンバー代、コイツの給料から24回払いで天引きだな」


「理不尽すぎるぅぅぅううう!!!」



数日後、早朝の魚河岸──。

そこには、白い割烹着を着て、頭に「日本一」と書いたハチマキを巻き、200キロを超える巨大な冷凍マグロの尻尾を両手でガシッと掴んだひきこさんの姿があった。


「マグロ……みーつけた……。ふふふ……」


──ズリズリズリズリズリズリッッッ!!!!

猛烈な勢いで市場内を爆走し、マグロを引きずり回して運ぶひきこさん。


「おい! 今日もひきこさんの運んできたマグロは身が締まってて最高だな!」と、市場の荒くれ者のおじさんたちにめちゃくちゃ重宝され、すっかり馴染んでいるのだった。


一方、いつもの幽霊社会復帰課の地下オフィス


「……はぁ。あの後、真壁君と良い雰囲気だったのに、課長のせいで台無しよ」


魔子はソファに腰掛け不満げに頬を膨らませていた。隣では、アッパーを喰らった真壁が顎にバカデカい包帯を巻いたまま、お茶をすすっている。


「まあまあ魔子ちゃん、二人とも無事だったんだからさ……」


「そうだけど……。真壁君は、私と二人きりになりたくなかったの?」


魔子が少し顔を赤らめ、上目遣いで真壁を見つめる。二人の距離がじわりと近づき、真壁もドギマギしながら「あ、いや、僕もその……なりたかったかな」と手を伸ばそうとした、その瞬間。


バァン!!! とオフィスのドアが勢いよく開いた。

「お前らァ! 魚河岸から初任給の代わりに『マグロのカブト』が丸ごと2個届いたぞ! 今夜はカブト焼きじゃあッ! 真壁、お前が今から裏の空き地でドラム缶使って焼けィッ!!」


烈子課長が血まみれのマグロの頭を両手に持って乱入してきた。


「今いいところだったのに、空気読んでよこのメスゴリラーーーーーっっっ!!!」


魔子の魂のツッコミがオフィスに木霊し、真壁がマグロの強烈な生臭さに本日の気絶を迎えるのだった。

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