地獄の本土防衛戦2
「とは言ったものの、そいつらの根城はどこだ?」
烈子課長は公用車の助手席でレモンサワーを煽りながら、横目で尋ねた。
「歓楽街の高級な外人向けクラブに入り浸ってるみたいだコン!」
烈子の首元に高級ファーの如くがっちり巻き付いたチワワサイズの白狐様が、耳元でペラペラと囁く。
「お前、自分の足で歩けよ?」
「変化は時間制限があるコン! 疲れるコン!」
「コンコンうるせぇよ畜生が! ワシにノミをうつすなよ?」
「烈子こそ鼻が効かなくなるくらい臭いコン! お互い様だコン!」
「こんのぉ……!!」
一触即発のメスゴリラと土地神の小学生レベルの小競り合いに、後部座席の真壁が恐る恐る口を挟んだ。
「ま、まぁまぁ課長、それはその通りとして──」
ガァンッ!!!
「あだァッ!?」
烈子課長の後方確認なしの裏拳が、真壁の額にクリーンヒットした。車内で火花が散る。
「クソが! ワシは最高に乙女なフローラルな香りじゃろがい? なぁ、栞」
ハンドルを握る栞さんは、夜の歓楽街へと車を滑らかに走らせながら、バックミラー越しに1ミリも目を動かさずに即答した。
「大変芳しい香りです、課長」
「ほら? な?」
「もう大丈夫です……(額から血を流しながら白目)」
「ふんっ」
烈子課長はレモンサワーの缶をさらにグッと煽ると、般若の笑みを浮かべて前方を睨み据えた。
「さぁて今日の天気予報は血の雨と暴風じゃい」
夜の歓楽街。きらびやかなネオンの奥にある、外国人御用達の超高級会員制クラブ『バビロン』。
その中では、大音量の音楽にまぎれて、人間に混じった金髪碧眼の西洋悪魔どもが酒を煽りながら、口々に日本の霊的防衛線の弱さをバカにしていた。
「ハッハッハ! 日本のニンゲンはマインドが脆弱デ、精神攻撃のコスパが最高ネ!」
「現地のキツネの神とやらも、我らの魔力に怯えて逃げ出したデェ〜ス!」
ゲラゲラと悪魔たちが傲慢に笑い転げていた、その瞬間。
バァァァァァンッッッ!!!!!
クラブの重厚な防音扉が勢いよく左右に開かれた。
VIP席の悪魔たちが一斉に視線を向けると、そこには、久しぶりに全員揃いの【オレンジのつなぎ】をピシッと着用した幽霊社会復帰課の面々、そして、すでに威厳ある美男子の姿へと変化を遂げた三尾の白狐様が堂々と立ち並んでいた。
オレンジの集団の先頭で、口にタバコを2本咥えた烈子課長が、クラブ中に響き渡るドスの効いた声で吼えた。
「おどれらぁッ!! 幽霊社会復帰課の鬼怒川烈子様の登場じゃい! 死にたい奴からかかってこいやぁぁあッ!!!」
その烈子課長の両手には、今回のカチコミのために成仏課の聖課長からわざわざ借り受けてきた、不気味な黒いオーラを放つ【禍々しい形の十字架】が二つ、二刀流の如く握りしめられていた。
「ナ、ナニモノだコイツら! コロセッ!」
悪魔のボスが激昂し、部下の悪魔たちが一斉に烈子課長目掛けて襲いかかる。
しかし、そこからは鬼怒川課長の完全なる独壇場、大暴れのワンマンショーが幕を開けた。
「オラァ! 不法滞在のクソ悪魔どもがァッ! 聖のクソアマから借りた十字架の硬さを骨の髄まで味わいやがれぇぇえッ!!」
ドガッ! バキィィィンッッッ!!!
烈子課長が禍々しい十字架を容赦なくフルスイングするたび、悪魔たちの強固な角がへし折れ、顔面が陥没し、スピリチュアルな肉体が物理的に粉砕されていく。悪魔の放つ呪いや精神攻撃など、霊感ゼロのメスゴリラ公務員の前には、ただの生温かい微風にすらならなかった。
「痛い! 物理なのに魂まで痛いのおォォォ!!」
「マリア様ァァァアア!!!」
一方、その大惨劇の後方。
「いやはや、烈子の暴力は相変わらず神の領域を超えているねぇ」
美男子の白狐様は、烈子の無双っぷりを感心したように眺めながら、自らの不可視の神気で障壁を張り、その背後に栞さんと真壁を避難させていた。
「真壁さん、ここなら安全です。課長が全員を消し炭にするか、あるいは前歯を全部叩き折るまで大人しくしていましょう」
「は、はい……! 栞さん、ありがとうございます……!」
栞さんの冷静な言葉に、真壁がホッと胸を撫で下ろした、その瞬間だった。
コポォンッ!!!(悪魔の折れた角が飛んできて真壁の額に直撃)
「ぶふぉっ!?」
バギィッ!!!(吹っ飛んできた悪魔の腕が真壁の腹にクリーンヒット)
「グハァッ!?」
「あ、あらら?私の神気障壁をすり抜けて、悪魔のちぎれた羽や割れた高級ボトルの破片だけがピンポイントで真壁君に命中していくよ? なんだいこの凄まじい不幸の引力は……」
「真壁さん、立てますか。やはりあなたの不幸体質は、神の加護すら歪めるレベルのようですね。素晴らしいです」
「素晴らしくないですふんぎゃあああああ(飛んできたVIP席のガラステーブルが顔面に命中)」
安全圏にいるはずなのに、乱戦のあらゆる「流れ弾」が磁石のように真壁にだけ吸い寄せられ、みるみるうちに真壁は血だらけのボロ雑巾になっていく。
「オラァッ! これでラストじゃい!!」
ドゴォォォォン!!!
烈子課長が禍々しい十字架で悪魔を床に叩きつけ、クラブ『バビロン』の床が派手に陥没したところで、ようやく歓楽街の悪魔一斉摘発が完了した。




