地獄のキャンプ2
よ、よろしくお願いします……っ」
いつものゴーストバスターズ仕様の魔改造公用車の後部座席に、少し顔を赤らめながら、しかしお気に入りのアウトドア風タイトスカートを穿いた聖魔子が乗り込んできた。
「おう、一応仕事だからな? お前も少しは霊感あるんだろ。半人前の真壁と2人で合わせて1人分の仕事はしてくれや?」
烈子課長は運転席からバックミラー越しに魔子をチラリと見ると、いつものメスゴリラ節を少しだけ和らげてフンと鼻を鳴らした。成仏課の聖課長(母親)にはあれだけ殺意を剥き出しにするくせに、その娘の魔子には意外と甘いらしい。
助手席の栞さんも、魔子に向かって「おはようございます」と優しく会釈をしている。
「あ、魔子ちゃん、これ栞さんが作ってくれたんだ。食べる?」
「あ、ありがとう……。っ、おいしい……!」
どのタイミング、どの隙に作ったのか完全に謎だが、栞さんが持参したタッパーには、プロ顔負けの美しさで具材がミチミチに詰まったカツサンドとタマゴサンドが並んでいた。
それを4人でワイワイと摘みながら、魔改造車は高原へと向かって爆走していく。たまに火のついた灰やタバコそのものが後部座席へと高速で飛んでくるが、魔子ちゃんが楽しそうに笑っているので、真壁は「まぁいいか……」と自分の服の焦げ跡を無視することにした。
車はいつしか舗装された道路を外れ、日光すら遮るような鬱蒼とした山の中の森へと進んでいく。
車窓から外を眺めていた真壁は、草むらに半分埋もれた、錆びついた不気味な看板を見つけて文字通り背筋を凍らせた。
「あの……課長。いま、看板に、手書きの歪んだ文字で『巨頭ォ』って書いてありませんでした……!?」
ネットの都市伝説で有名な、頭の巨大な化け物が徘徊する恐怖の廃村──。
「あぁ? あんなもん、4年前に我が課が村ごと物理的に滅ぼして更地にしたから安心しろ。今回は別件じゃ」
「村ごと滅ぼしたのぉぉおおお!?!? 安心できる要素が1ミリもないよ!!」
「さぁ着いたぞ。ここが目的地の『血脈高原キャンプ場』じゃ。最近、若いリア充カップルが夜な夜な精神に異常をきたして、お互いの首を絞め合う事件が頻発しとる、いわく付きの特級事故物件だ」
「えぇっ!? だから魔子ちゃんが来るのを(身代わりのカップルにできるから)許したのかこの人……。悪魔かよ……」
真壁が絶望しながら小声で呟いた瞬間。
ギチッ。
「ひぎゃっっ!?」
「ああん? 聞こえとるぞ、真壁ェ」
烈子課長の容赦ない安全靴が真壁の足を思い切り踏みにじった。
「真壁君、大丈夫よ! 私が絶対に守ってあげるから!!」
魔子は赤面しつつも、自分のタイトスカートの太もも裏のホルダーから、中二病全開の「怪しげな呪印の様な模様がびっしり刻まれた儀礼用ナイフをジャキッと抜いて構えた。
真壁が涙目になっている間にも、運転席から降りた栞さんの動きは、すでに人間の領域を超越していた。
シュパパパパパン!!!
爆音の金属音が鳴り響いたかと思うと、一瞬にして広大な5人用ツールームテントが二つ、寸分の狂いもなく地面に完璧に設営された。
それどころか、栞さんはどこからか集めてきた薪で、ベテランキャンパーも裸足で逃げ出すほどの美しい二次燃焼の焚き火を熾し、その上で高級な極厚ステーキ肉をジューシィに焼き始めている。
さらに、烈子課長のために用意された特大のアイスペールには、現世のあらゆる業苦を忘れさせる強力なウォッカやバーボン、レモンが完璧な温度でキンキンに冷やされていた。
設営、調理、酒の準備、すべて合わせて──わずか10分。
(……この人も、烈子課長とは別のベクトルで完全に『化け物』なんだよな……)
真壁が肉をひっくり返す栞さんの背中を見ながら、心底戦慄していると。
「お褒めに預かり光栄です、真壁さん。早くお肉を運んでください」
「心も読めるし!! ごめんなさい!!!」
恐怖の高原キャンプ、その宴(怪異の罠)の幕が静かに上がろうとしていた。




