地獄の新人歓迎会1
市役所の地下、ジメついた湿気とタバコ、そして課長の吐息が混ざり合う、まさに「地獄のオフィス」の日常が幕を開けた。
真壁は決死の覚悟で、朝一……いや、課長の重役出勤に合わせて15時に辞表を提出した。
「課長、これ……」
課長は一瞥もくれない。いや、正確には一瞥をくれた直後、真壁の手から辞表を奪い取り、デスクの横にあるシュレッダーへ無慈悲に滑り込ませた。
ガガガガガッ!
紙が刻まれる無機質な音。課長の額に青筋が浮かぶ。
「お前じゃなくて、お前の家族をシュレッダーにかけてやろうか?」
その吐息の臭い――ドブの中に腐ったレモンを投げ込んだような強烈な悪臭に、真壁は酸欠で意識が飛びそうになった。
(あれがなきゃ、美人なのに……!)
ふとスマホが震える。デスクの対面に座る栞からのLINEだった。
『課長はいつも可愛いです!』
「ひっ……!?」
真壁が顔を上げると、栞は無表情のまま画面越しにこちらを見つめている。
「……エスパー?」
「エスパーですよ?」
即答だった。
「やだ、怖い……。本当に辞めたい……」
真壁は逃げ場を失い、前任者・墓間田さんの荷物を段ボールに詰める作業に没頭した。墓間田さんがいかにしてこの魔窟から去ったのか、今となっては羨望しかない。荷物を実家へ送る伝票を貼り終え、ようやく帰れる……そう思った矢先だった。
肩を叩かれて振り返ると、硬い人差し指が、真壁の頬にグイッと突き刺さった。
「ケラケラケラ!」
振り向くと、課長が腹を抱えて笑い転げている。対面の栞も、普段の鉄仮面を崩して「ブフォッ」とコーヒーを吹き出した。
「なんなんだこの人たち……!」
「おい新人!」
「真壁です」
「魔壁!」
「真壁です!」
「新人歓迎会だ! 行くぞ!」
課長は真壁の肩を乱暴に掴む。真壁は引きつった顔で断ろうとした。
「あっと……えっと、あー……今日は……」
バシンッ!
真壁の頬に、鋭い課長の平手打ちが走る。
「っつうー……」
「あの、パワハラ……ッ!」
バシンッ!!
「……行きます」
真壁は、頬の熱さを堪えながら、死刑宣告のような歓迎会へと連行されることになった。




