地獄のラブホテル2
凄まじい衝撃波と共に、ラブホテルの頑丈なコンクリートの壁が、内側から大爆発を起こしたように粉々に吹き飛んだ。
「おんどりゃあぇぇぇえええッッッ!!! ワシの可愛いしもべを男にするならぁ、まずはこの鬼怒川烈子様を満足させてからにしやがれぇぇえええッッ!!!」
土煙を割って突入してきたのは、アロハシャツをはだけさせ、片手に一升瓶を持った鬼怒川烈子課長だった。アルコールとタバコの臭いを周囲に撒き散らしながら、目が完全に据わっている。
「魔子ォォォオオオッッ!!! お母さん、まだそんな破廉恥なこと絶対に許してません!! よりによって相手があの悪臭メスゴリラのしもべだなんて、お股の火照りが怒りで爆発しちゃいそうですわぁぁぁッッ!!!」
逆側の壁からは、ミニスカガーターのシスター服のまま、先端がエグい形をした巨大な十字架を振り回す聖性子課長が、頬を紅潮させながら乱入してきた。
「「か、課長ーーー!!?(お母さんーーー!!!?)」」
「部下の(娘の)貞操は、ワシが(私が)護るッッ!!!」
二人の大人の、あまりにもお門違いで圧倒的な親バカ(上司バカ)のパワーが完全に暴走した。
挨拶代わりに放たれた烈子課長の超弩級のストレートと、聖課長の聖なる怒りが乗った十字架のフルスイングが、部屋の中央で激突する。
ドゴォォォォォォォンッッッ!!!!!!!
行き場を失った二人の怪力は、部屋の破壊だけにとどまらず、ラブホテルの建物そのものの強度を遥かに超越した。
メキメキ、バリバリと凄まじい音を立てて柱が折れ、壁が崩れ、ついにはラブホテル全体が「土台ごと」傾き、轟音と共に瓦礫の山へと崩壊していった──。
◇
「ゲホッ、ゴホッ……!」
静まり返った廃墟。もうもうと立ち込める凄まじい土煙の中から、激しい咳払いと共に、二つの巨影が「ズボッ!」と地面を突き破って現れた。
一方は、腰が抜けて気を失っている真壁を米俵のように肩に担いだ鬼怒川烈子課長。
もう一方は、恥ずかしさのあまりに顔を覆って気絶している魔子を小脇に抱えた聖性子課長。
二人の修羅は、お互いに一歩も退かぬ獰猛な視線をバチバチと交錯させ、同時に冷たく言い放った。
「「──やらん」」
ふんっ! とお互いに鼻を鳴らしてそっぽを向く。どうやら「せっせっせー」の手遊びすら、お互いの大事な子供(部下)にはまだ早すぎるという結論に達したらしい。
遠くから、通報を受けたであろうパトカーのサイレンの音がかすかに聞こえてくる。
「チッ、サツ(警察)が来る前にズラかるぞ! 栞!!」
「はい、課長。すでに車は回してあります」
いつの間にか、瓦礫のすぐ脇にゴーストバスターズ風の公用車が待機していた。栞さんがアクセルを踏み込み、キュルキュルキュルッと激しいスキール音を夜の街道に響かせながら、幽霊社会復帰課の面々は一瞬で現場からトンズラしていった。
残された聖課長も、ふぅとお股の火照りを冷ますように息を吐くと、敷地内に停めてあった私有車へと歩み寄る。
それは、シスター服にはあまりにも不釣り合いな、漆黒のボディに純白のストライプが走るゴリゴリのマッスルカー――『フォード・マスタング・シェルビーGT500』だった。
聖課長が運転席に乗り込み、イグニッションを回す。
ドォォォォオオオン!!!と、地響きのような爆音のV8サウンドが周囲に轟いた。
「おほほ、烈ちゃんに熱くされたお股、早く良い男で沈めないと……」
マスタングは猛烈な白煙を上げて急発進し、テールランプの赤い光を残して、あっという間に夜の闇へと消え去っていった。
後に残されたのは、手遊びの怪異ごと粉々に粉砕され、土台から消滅した哀れなラブホテルの残骸だけだった。
不条理な地獄の環境で育まれる、真壁と魔子の同期の絆。
しかし、その行く手にはあまりにも強大で狂った「二人の母親(上司)」が立ち塞がっている。若い二人の仲の進展は、まだまだ、ずいぶんと先のようである。




