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はい、こちら幽霊社会復帰課  作者: 拝頼人
一章 地獄の新人研修編
31/60

地獄の妖怪大相撲3

神域の土俵に、死装束の袖をまくり上げた鬼怒川課長が立つ。


対するは、鬼怒川課長の被害者である妖怪・陰陽師たちの連合軍。ここに、世界の命運を(主に真壁の生存を)かけた「妖怪大相撲」の火蓋が切って落とされた。


先鋒は、件の事件の引き金となった河童。

しかし、土俵外で粗塩をガバッと掴み、両手にたっぷりと擦り付けた課長の前には、自慢のぬるぬる肌も一切役に立たなかった。制限時間いっぱいの直後、開始数秒。課長の容赦ない一本背負いによって、河童は頭のお皿をカチ割られて絶命した。


次鋒の古狸は、変化の術で筋肉隆々のマッスルな巨漢狸になって襲いかかる。だが、課長は冷ややかに言い放った。


「変化したところで質量は変わらんだろうがボケキャンタマ」


バチィィィン!!!

課長の強烈な張り手一発で、マッスル狸は回転しながら吹っ飛び、場外の御神木の大きな楠木に後頭部を強打。血を吐いて絶命した。


中堅は、古戦場の怨念の集合体・ガシャドクロ。

巨大な骨の化け物に対し、課長はなんと土俵上でコブラツイストを敢行。ミシミシ、バキバキと凄まじい音を立てて、すべての骨の関節を外され、ただの骨の山となって動かなくなった。


梁の上で吊るされ、足元の油がじんわりと熱くなってきた真壁が、たまらず叫ぶ。


「っていうか! 全員で一斉に囲んでボコボコにすればいいのに!?」


すると、土俵の周りで順番を待っていた妖怪たちが、一斉に首を横に振った。


『いや、それは違うでしょ?』『相撲の美学ってものがあるじゃん』


(……なんでこいつら、妙にシンクロしてんの!? ムカつく! そして無駄にスポーツマンシップがあって熱い! 助けて課長!)


副将として出てきたのは、日本陰陽師連盟の矢部広彦やべ ひろひこさん。

本人の弁によると「安倍晴明の友人の母の知り合いの親戚のお兄ちゃんの孫から数えて16代目」らしいが、見た目はただのひょろひょろした口髭おじさんである。


(何ができるんだこのおじさん……)と真壁が呆れていると、なんとこの矢部さん、本日一番まともな取り組みを披露。土俵際で粘る、粘る!


(なんで式神とか陰陽術とか使わないんだろ? バカなのかな? 相撲だから?)


結局、術を使うこともなく、課長の圧倒的な「押し出し」によって勝負あり。矢部さんは綺麗に土俵の外へと転がっていった。


『――よかろう。最後は、この俺が直々に相手をしてやる』


満を持して、大将である三尾の白狐が動いた。ボフンと白い煙が上がると、そこには狐の面を被った、白髪の絶世の美男子が立っていた。


課長は煙草をペッと吐き捨て、ふんと鼻を鳴らす。


「ふん、相変わらず面だけは良いな?」


そう言って、いつものように中指を立てて挑発した。

美男子の姿の白狐は、不敵に微笑む。


『俺が勝ったら、俺の嫁になれ。結婚してくれ、烈子!』


行事役に任命された栞が、いつの間にか用意した軍配をビシッと振るう。


「はっきよぉおおおーーーい!!!」


(無駄に上手いな、行事の真似……!)


「のこった!!!」


刹那、白狐の鋭い爪から放たれた目に見えぬ斬撃が、課長の白い死装束を切り裂いた。

バラバラと衣服が破け、課長のパツパツの珠の肌が露出していく。しかし、そこに現れたのは、色気もクソもない「飾り気のないグレーのスポーツブラ」、そして色もメーカーも合わせていないどころか、何故か「男物のトランクス」であった。


(……課長らしいや。っていうか、栞さんなんていつの間にか軍配を捨てて、股間を押さえてうっとりしてるし……もうやだ、この課)


下着姿になった課長は、額に青筋をこれでもかと浮かべ、地獄の形相で拳を固めた。


「やってくれたなコラァアア!? このエキノコックス害獣がぁぁあああ!!!」


『あ、いや、それは蝦夷の同胞だけで、俺は本州の神だから関係――』


ドゴゴゴゴゴゴゴ!!!

白狐の言い訳をかき消すように、課長の横綱顔負けの「鉄砲」の連打が炸裂した。突っぱり、突っぱり、無限の突っぱり!


「オラァ! オラァ! オラァ!」


美男子の狐の面は一瞬でひび割れて粉砕。その下の素顔は赤黒くパンパンに腫れ上がり、そのままの勢いで土俵の外、社の壁まで弾き飛ばされた。


ボフンッ! と煙が上がり、変化が解ける。そこには、顔面の毛並みがめちゃくちゃに荒れた、元の白い巨大狐が倒れていた。


ハァハァと荒い息を吐きながら、白狐は腫れ上がった目で課長を見つめ、恍惚の表情を浮かべた。


『……負けたよ、烈子……。ああ、もっと……もっとくれ……! お前のその暴力的で理不尽な愛を、俺に注いでくれぇぇ!』


ガバッと起き上がり、課長をその巨大な口で飲み込まんとする変態土地神。


課長は冷ややかな目でそれを見下ろすと、上顎にある、ガードロープくらい太い立派なヒゲを3本ほどまとめてグッと掴み――。


ブチィィィン!!! と、力任せに引き抜いた。


「キャンッ!!!」


情けない悲鳴を上げて、白狐はみるみるうちにチワワほどのサイズに縮んでしまった。そのまま床に転がり、ビクンビクンと絶頂したように激しく痙攣している。


「ひぃっ……!」


大将のあまりにも無残(かつ変態的)な姿を見た残りの妖怪たちは、戦意を完全に喪失。社の影や木の隙間、ありとあらゆる闇の中へと、クモの子を散らすように消え去っていった。


静まり返った社殿。

いまだに床で白目を剥いて涎を垂らして痙攣している土地神チワワサイズに対し、課長はヤニ臭く、やけに粘つく痰をペッと吐き捨てた。


「帰るぞ、栞」


「はい、課長。お見事でした」


二人が踵を返し、出口へと歩き出す。


「おーーーい!!! 忘れてませんかぁーーー!? そろそろ足元の油の温度がマジでやばいんですよぉぉぉーーー!!! おーーーい!!!」


梁の上で、全身から唐揚げのような良い匂いをさせ始めた真壁の絶叫が、虚しく神域に響き渡るのだった。


――その後。

すっかり調教され、ドMを開花させた白狐さんが、恍惚とした顔で、烈子さんの部下には優しくしないと!と言いながら真壁をロープから降ろして、丁重に車で家まで送ってくれましたとさ。

第一部完!

来週は劇場版:幽霊社会復帰課の夏休み

を公開予定!カミングスーン

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