地獄の妖怪大相撲1
課長、お手紙が届いています」
地下室に、栞の硬質な声が響いた。
「おう、ありがとう」
受け取った手紙に目を落とした瞬間、課長の手がわなわなと震えだした。そのまま、バリバリと荒々しく封筒を破り捨てる。その様子に、真壁は背筋が寒くなった。
「ど、どうしたんですか……?」
課長はゆっくりと顔を上げた。その顔は、いつもより陰影の深い、ゴリゴリの劇画顔になっていた。
「どえらいこっちゃ。……こりゃあ、戦争になるで……」
「ええー!? ど、ど、どういうことで――」
バシィィィン!!!
「あぶっ!?」
理由なき理不尽なビンタを顔面にモロに喰らい、真壁はそのまま意識を失い卒倒した。
――数時間後。
ガタゴトと激しい振動で真壁は目を覚ました。そこは、いつものゴーストバスターズ風に魔改造された公用車の後部座席だった。
「起きたか真壁。これからちょっと、真面目な話し合いに行くからな。お前もちゃんと正装させておいたぞ」
助手席の課長がバックミラー越しに言った。
「あ? 正装……? って、うわあああ!? 白い着物!? これ、死装束じゃないですか!!」
よく見ると、運転席の課長も、助手席の栞も、全員が真っ白な死装束を着込んでいる。
「っていうか、僕が寝てる間に勝手に着替えさせたんですか!? エッチ! ケモノ! 淫獣!!」
ドンッ!!!
「ぶふぇっ!?」
その瞬間、助手席のシートが物凄い勢いで後方へスライドし、真壁の体は後部座席との間にみちみちに押し潰された。
車が止まったのは、山奥にある、広大だが酷く寂れた神社だった。
「こんな神社あったっけ……?」
シートの隙間から這い出た真壁が呟くと、車を降りた課長が胸を張った。
「あるけど普通の人には見えないんだよ。現に、この私は今でも全く見えてない! えっへん!」
死装束に身を包んだ課長は、夕暮れの境内に立つと、不気味なほど厳かな雰囲気を醸し出していた。
(これで、ヤニとドブとアルコールの匂いがしなければ、息を呑むほどの絶世の美人なのに……)
真壁がそんな失礼なことを考えていると、隣の栞が淡々とタブレットを操作しながら補足した。
「ここは、強力な『人避け・認識阻害の結界』が張られているんですよ。だから、人一倍霊感“だけ”はある真壁さんにも、結界の内部に近づくまで認識できなかったんです」と栞さんが事務的に説明してくれた。
課長が拝殿の重い扉に手をかける。
「さあ、着いたぞ。相手はガチのバケモノじゃ。全員、失礼の無いようにな」
ギィィ……と不気味な音を立てて扉が開く。真壁たちが社の中へと足を踏み入れると、そこには――。
「え……?」
真壁は息を呑んだ。
薄暗い社殿の奥に鎮座していたのは、家一軒分はあろうかという、純白の巨大な狐。
「え? デカ……え? 嘘だろ……」
「こちらが、この地方の土地神様――『三尾の白狐』様だ! ほら、挨拶をしろ!」
「ぶふっ!?」
背後から課長にガシッと後頭部を掴まれ、真壁は床の板張りに顔面を強烈に叩きつけられた。強制超土下座である。
静まり返る社殿の中、三つの巨大な尾を持つ白狐が、ゆっくりと、その黄金の眼眸を一同へと向けた。地響きのような、重低音の声が頭響に直接響き渡る。




