地獄の峠バトル!BBAはユーロビートを聴かない3
課長の口元がニヤリと吊り上がる。
「真壁! 状況をすべて口頭で伝えろ! 一瞬でも言い淀んだら、アスファルトでお前の顔面を大根おろしにしてやる!」
「は、はいーっ! 後方約20メートル、時速80キロでコチラに詰めて来ています! あ、加速しました! 対向車線に出て、右側から追い抜くつもりです! 時速約100キロ! もうすぐ真横に並びます! 横を見ないでぇぇ!!」
「おぉぉ! 見えないし聞こえないが、走り屋の魂をビンビンに感じるぞクソババアが! 次のコーナーの立ち上がりで一度抜かせて、その直後にぶち追い抜いてやる!!」
「えっ、わざと抜かせるんですか!?」
「歯を食いしばれ真壁ぇ!」
課長の操るガンマが、超高速で迫る急コーナーの手前で鋭く2速落とした。安全マージンをキープしてインに滑り込む。その一瞬の減速をチャンスと見たか、ターボババアが凄まじい足捌きでガンマを追い抜いていった。
「今じゃぁぁぁぁ!!」
コーナーの出口と同時に、課長とガンマが猛り狂った。タコメーターの針が一瞬で11,000rpmのレッドゾーンへと吸い込まれる。2st特有の、背中をロケットで押されるような殺人的加速に、真壁の首が後ろへもげそうになる。
「真壁ぇ! 奴はどこだ!?」
「目の前! 目の前です! すぐそこでぇす!!」
その瞬間、課長は片手運転のまま、背中から梵字がビッシリと刻まれた特製の金属バットを引き抜いた。時速180キロ。風圧と圧倒的な質量に、流石の課長も腕を持っていかれそうになりながらも、追い越しざまに虚空に向かってそのバットをフルスイングした。
ドゴォッッッ!!!
「ギェッ!?」という潰れたカエルのような声が響き、バットはババアの後頭部にスマッシュヒット。ターボババアは道路に激しく転がり、ピクリとも動かなくなった。
キキィィィッ! と後ろから公用車で追いかけてきた栞がスマートに降車し、手際よく地面に魔法陣を展開してババアを実体化させる。
やはり怪異なのでハンディ掃除機には吸い込めない。そのまま、深夜の道路で課長による地獄の説教(再教育)が始まった。
「クォラァ! クソババア! 私のシマで何パッシングしてくれとんのじゃワレ!」
地面に正座させられ、頭から煙を上げているババアに課長が怒鳴り散らす。だが、課長はふとタバコに火をつけると、少しだけ表情を和らげた。
「……けどまぁ、お前もあのコーナーの突っ込み、中々気合い入ってたよ。悪くなかったぜ」
(何だその謎の走り屋的仲間意識は……)と真壁がツッコむ間もなく、ババアの第二の怪異生が決まった。
数日後。
あのターボババアは、高速道路でいつまでも追い越し車線をトロトロと走り続ける迷惑車両の背後に取り憑き、強烈な威圧感で走行車線へと戻す「高速道路マナー改善の守護霊」として、ネクスコ東日本に就職(派遣扱い)したらしい。
もちろん、毎月の派遣料は「幽霊社会復帰課」を経由して課長の口座にガッポリ入る。
(……けど、もしかして、あのババアが一番社会貢献してるんじゃないか……?)
役所のデスクで、左を向いたままの首を摩りながらそんなことを考えてしまう真壁。
「ガハハ! 今月のボーナスで美味い酒が飲めるぞ!」と机に足を乗せて笑う上司を見つめながら、真壁は、自分自身も大分脳みそをこの課の毒気にやられているな、と遠い目をするのだった。




