地獄の峠バトル!BBAはユーロビートを聴かない2
深夜。
真壁が左を向いたまま「あ痛たた……」と首を押さえて目を覚ますと、そこは地元の走り屋の間で有名な、真っ暗な峠道の頂上だった。
だが、何かがおかしい。お尻の下に伝わる、内臓を揺らすような激しい振動。
「え? なんで俺、バイクの後ろに乗って……え? 課長!?」
「起きたか、真壁! よぉし! 早速シマ荒らしするクソババアとお前の仇討ちじゃい! 振り落とされるなよ!」
フロントに跨る課長は、いつもの絶世の美女メイクのまま、不敵な笑みを浮かべていた。
「え!? 課長、それ以前にレモンサワー飲んでましたよね!? 飲酒運転じゃ――」
「せからしか! 酒なんて飲んで単車が転がせるかボケェカスぅ!!」
「どっちの意味ですかそれぇぇぇ!!」
「お前はワシの『目』じゃ! ババアが出たらしっかり教えろ! 何がターボババアじゃい! こちとらカスタムにカスタムを重ねたスズキ・RGV-250Γじゃ! 『峠の流星』と呼ばれた私のドラテクに、舌噛むんじゃねぇぞ!!」
課長がアクセルを捻ると、2st特有の甲高い金属音と、あたりを真っ白に染めるオイルの煙が爆発した。ガンマは前輪を大きく持ち上げ、ウィリーしながら深夜の公道へと音速で飛び出した。
「馬鹿野郎真壁! もっとしっかり抱き付かんかい! 重心がブレる! 何も考えずに私に抱きついてればいいんじゃ!」
「そ、そんな事言ったって! 怖いものは怖いんです! きゃー! 地面が近いーっ!!」
ハングオンで膝がアスファルトを削る火花を見ながら、真壁はただ課長の細い腰にしがみついて悲鳴を上げるしかなかった。
そうやって限界の速度で峠を往復すること1時間。
ついに、奴が現れた。
後方から迫る、不自然に小刻みに揺れる弱い光――懐中電灯のパッシングだ。
「来ましたよ課長! あのパッシング! あいつです!!」
「あ? 私には何にも見えんぞ? ――しかし、来たか」
課長の口元がニヤリと吊り上がる。
「真壁! 状況をすべて口頭で伝えろ! 一瞬でも言い淀んだら、アスファルトでお前の顔面を大根おろしにしてやる!」




