地獄の温泉慰安旅行3
ばしゃんっ!!!
「ぶはっ!? げほっ、ごほっ!」
顔面に冷や水をぶっかけられ、真壁は飛び起きた。
「真壁! 起きろ! 飯の時間だ!」
目の前には、旅館のご馳走が並んだ大皿の山。そして、その横にはピラミッドのように美しく積み上げられた9%のレモンサワーの缶の山。
「ガハハ! 今日はこれを全て空にするぞ!」
課長がすでに缶をパッカンと開けてあおっている。
「そ、そんな事よりコトリバコは!? 怨霊はどうしたんですか!?」
「あ? この木端のことか?」
課長が足元でパカパカになっているコトリバコを蹴飛ばした。
「中から変な汁が溢れて畳の掃除が大変だったぞ。で、怨霊? ――あそこで泣いてる奴らのことか?」
課長が顎で外を指す。真壁が恐る恐る窓の外の日本庭園を見ると、そこには異様な光景が広がっていた。
庭の真ん中、栞が描いた巨大な魔法陣の光の中に、実体化させられた何百匹もの怨霊たちが、すし詰め状態でミチミチに押し込められていた。流石にこの数はハンディ掃除機では吸いきれなかったらしい。
「え? でも課長は霊が見えないんじゃ……? またあの寿命が縮むメガネを使ったんですか!?」
「いや? 失神してるお前を庭の真ん中に『餌』として転がしておいてさ、寄ってきた奴らから片っ端から掃除機をかけてたのよ。大分集まったところで、この木端とお前を魔法陣で囲ったら、大漁大漁! ってな訳よ! ――真壁! やはりこれからはココ(知略)が物を言う時代だぞ?」
課長はフハハと笑いながら、自分の頭を指差した。
(無茶苦茶だよ……! 僕、死んでたらどうするつもりだったんだよ……!)
真壁の涙目の抗議など無視して、宴会はスタートした。
「それより乾杯だ! 乾杯!」
「学生時代を思い出します」
栞が氷も入れずにブラックルシアンを平然と煽っているのを見て、真壁は「この人もいっつもこうだった……」と絶望を新たにした。
深夜まで続いた宴会では、酒の勢いではだけた課長の浴衣から、ほんの少しだけ「ムフフ」なハプニング展開(※ただし直後にプロレス技を喰らう)もありつつ、死屍累々の状態で朝を迎えた。
庭に実体化させられたまま放置されていた怨霊たちは、容赦なく降り注ぐ朝日に身を灼かれ、悲鳴を上げながら霧散していった。旅館に漂っていた悪い空気は、完全に、力技で取り除かれていた。
翌朝、すっかりクリーンになった旅館の玄関先で、女将に見送られながら帰路につく一同。
車に乗り込む際、真壁はふと疑問を口にした。
「あの……この掃除機のカートリッジ1ダース分の大量の幽霊たちはどうするんですか?」
助手席の窓からタバコの煙を吐き出しながら、鬼怒川烈子課長はニヤリと凶悪に笑った。
「もちろん、社会復帰させて労働力としてこき使ってやるさ。大人しく成仏もしないような連中は、税金代わりに労働する! これが現代社会の世の摂理だ! 覚えておけバカモン!」




