地獄の猛暑!泥まみれデスマッチ2
到着した先は、異様としか言えない惨状だった。
うだるような暑さの中、何人もの老人や子供が道や田んぼの中に倒れ伏している。救助に来たはずの救急車までもが田んぼに突っ込み、フロントから黒い煙を噴き上げていた。
その傍らで、一人の座頭の老人が田んぼに向かって必死に手を合わせ、念仏を唱えていた。
「くねくねじゃ……! くねくねが出たんじゃ……! 恐ろしい、恐ろしい……!」
「あ゛あ゛ん? なんもいねぇぞ? クソ暑くて陽炎が揺らめいてるだけじゃろが。朦朧としてんのか、あのジジイ」
課長がガリガリと首筋を掻きながら毒づく。
「そうですね。特に何かがいる訳では……」
栞も冷静に周囲を見回す。そう、鬼怒川課長は「霊感0」であり、栞は「音しか聞こえない」のだ。この灼熱の田んぼに蠢く禁忌の存在など、二人には見えもしない。
「あへ? あひゃひゃ……? ひゃはははは!」
しかし、唯一「見えて、聞こえる」真壁は、一瞥した瞬間についに脳の回路を焼き切られた。視界の端、田んぼの真ん中で「くねくね」と踊る白い影。それを見た瞬間、真壁の顔から一切の理性が消え失せた。
「なんじゃ? 暑さで本当に狂ったんか、真壁」
「ただでさえ締まらない顔が、余計に緩んで見苦しいです」
二人の冷ややかな視線を浴びながら、真壁は「あはは! くねくね!稲穂が呼んでるよ! くねくね!」と支離滅裂に叫び、白目を剥いてタコのように踊りながら課長に擦り寄っていく。
「なんじゃ! 気色悪い! 勤務中の職務放棄は重罪じゃい!!」
ガシィッ!!!
課長の容赦ない腕が、狂った真壁の首と極限までひん曲がった身体を捉えた。電光石火で極まるオクトパスホールド――通称「卍固め」。
ボクンッ!!!
不吉な破裂音と共に、真壁の右肩の関節が派手に外れた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
激痛のあまり一瞬で正気に戻る真壁。
「正気に戻ったか? このカス。ペッ」
課長は真壁の足元に、ヤニ臭くてやけに粘つく痰を吐き捨てた。
「あ、あ、あそこに、白い何かが踊っていて、それを見たら急に……痛い痛い! 肩が外れてる!? なにこれ!?」
「それも怪異の仕業だ!」
(絶対違う、あなたの技のせいだ!!)
真壁は必死に反論しようとしたが、今ここで言い返したら次は腕ごと千切られるかもしれない。真壁は涙目で固く目を瞑り、くねくねが居る方向を震える指でさした。
「あの案山子の真横! 向かって左です!!」
「ほぉ? 逃げられたらかなわんな……。栞、メガネ!」
課長が手を差し出すが、珍しく栞の手が止まった。
「……課長。ですがそれは、この前も使ったばかりです。これ以上は課長の寿命が――」
課長はフッと「外用の顔(絶世の美女)」で妖艶に微笑んだ。
「いいから、な? こんなに被害が出てるのに何もしないなんて……私の中の閻魔さんが許さないからさ。ね?」
そう言って、愛おしそうに栞の頭をポン、と大きな手で叩いた。
「……はい」
いつもは鉄仮面の栞が、一瞬で見たこともない「乙女の顔」になる。
栞から一秒で一日寿命が縮む呪いのメガネを受け取り、ギリギリまで田んぼの畦道を詰め寄って装着する課長。視界が確保された瞬間、目の前に現れた「くねくね」に向かって、課長はドスの利いた声を浴びせた。
「おんどりゃあ! くねくねくねくねしおってからに! 少しはしゃん(真っ直ぐ)せんかい!!」




