地獄のクリーンオフィス大作戦3
「……はっ!?」
どれほどの時間が経っただろうか。役人が飛び起きると、彼の頭はなぜか、先ほどの清楚な部下(栞)の柔らかい太ももの上に乗っていた。いわゆる膝枕である。
そして、目の前では絶世の美女(課長)が、優しく、わざとらしく絞った手拭いで彼の顔を丁寧に拭ってあげていた。
「き、君たち……! さ、さっきのは……? あれ? 私は確か、殴られて……?」
混乱する役人の口を、課長が「しっ!」と人差し指を立てて優しく押さえる。
「……幽霊の仕業です」
膝枕をしたまま、栞が1ミリも目を動かさずに真顔で言った。
「あなたはここの悪質な地縛霊に取り憑かれ、恐ろしい悪い幻を見せられていたのです」
「え……? 幻……?」
「ほら、そこに……」
栞が指差す先、部屋の隅の魔法陣の上で、無理やり実体化させられた哀れな幽霊が、怯えきった表情で直立不動の姿勢をとっていた。
「ハイ、ワタシガ、ヤリマシタ。ハイ、ワタシハ、アクリョウデス。ワルイ、ユウレイデス。」
まるでネジの切れた壊れたオルゴールのように、棒読みで同じセリフを繰り返させられている。
「悪い夢です。あれはすべて、悪い夢です……」
言い聞かせるように、栞が役人の頭を優しく撫で、その豊かな胸をこれでもかと顔面に押し付ける。至近距離の柔らかな誘惑と、恐怖のハイブリッド精神攻撃。
「あ……あぁ……」
役人は許容量を超えたのか、幸せそうな、それでいて完全に魂の抜けた顔をして、再びガクッと気を失った。
「よし、落ちたな!」
課長は役人が気絶したのを確認するや否や、手拭いを床に投げ捨て、いつものドス黒いクマの顔面に戻った。
「おい真壁! そいつを外の通路に捨てておけ! あと、ついでにこの壊れたオルゴールも、こいつの肩に憑りつかせとこうぜ? 県庁までのお土産じゃ!」
「それは素晴らしいアイデアですね、課長。県庁の監査室を内部から崩壊させられます」
栞が淡々と賛同する。
「な、何言ってるんですか二人とも! 犯罪ですよ!」
怯える真壁に、課長は口からハイライトの煙を浴びせながら、冷酷に言い放った。
「あぁん? 真壁! お前もあの幽霊みたいに、一生『ハイ、ワタシガ、ヤリマシタ』しか言えない壊れたオルゴールにしてやろうか? あ゛?」
「行きます!!!」
真壁は白目を剥いた役人を引きずりながら、涙ながらに悟った。
この職場の恐怖から逃れるために辞表を出しているが……もしここで本当に辞めるなんて言ったら、この悪魔たちにどんな「酷い目」に遭わされるか分かったものではない。
(……当分の間、命を守るために、辞表を書くのはやめよう……)
ボロボロに焦げた辞表の燃え殻を踏み締めながら、真壁はただ、今日も自分の生存戦略を見失うのだった。




