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地獄のクリーンオフィス大作戦1

数日後の午前中。

真壁がいつものように(今日はまだ五体満足な状態で)登庁すると、地下の「幽霊社会復帰課」の室内は、見たこともないほどのパニックに陥っていた。


「やばいやばいやばい!! 県庁から監査が来る! 急げ栞! この大金を隠すんだ!!」


「了解しました課長! すぐにダミー会社への送金手続きを――」


(え、何これ……?)

真壁は入り口で硬直した。

そこには、珍しく午前中から出勤している鬼怒川課長の姿があった。しかも、デスクの上には、前回のストライキ幽霊の「人材派遣」で稼いだと思われる、生々しいほど大量の一万円札の束が山積みにされている。


「真壁さん! ぼさっとしてないでください!」


いつもは鉄仮面の栞が、珍しく形相を変えて殺気立っている。彼女は真壁の胸元に、一万円札がミチミチに詰まったブリーフケースを力任せに押し付けた。


「この大金をありとあらゆる金融機関を回って、この指定口座に振り込んできてください! 1回あたり数万円ずつ、ATMを細かく分けるんです! 大至急です!!」


「え? あ? え? はいぃぃぃ!!」


訳も分からぬまま、真壁は再びサドルのないママチャリに跨り、街へと飛び出した。

(怖い……! こんな鞄いっぱいの大金を持って歩くの、普通に怖すぎるんですけど!?)

強盗に怯え、小指の古傷を庇いながら、真壁は市内の銀行やコンビニのATMを必死にハシゴした。怪しまれないよう数万円ずつ地道に、機械的な作業を繰り返すこと1時間。

ようやくすべての資金洗浄(?)を終え、疲れ果てて地下の課内へと戻った真壁は、目の前の光景に我が目を疑った。


「え……?」


そこは、完全に別の部屋だった。

あのヤニ臭い畳は綺麗に片付けられ、そこには一般的な事務デスクが置かれている。部屋を埋め尽くしていた安酒の空き缶や、山のような灰皿も一切合切が撤去され、空気清浄機がゴーゴーと音を立てて回る「小綺麗なクリーンオフィス」に変貌を遂げていた。


そしてデスクの後ろでは、タバコを禁止された鬼怒川課長が、鬼の形相で「ガリガリッ! ボキボキッ!」と猛烈な勢いで飴玉を噛み砕いていた。ストレスが限界突破している。


しかし、その顔は――完璧な「外用の化粧」が施されていた。

コンシーラーでドス黒いクマを完全に消し去り、安酒のむくみもマッサージで吹き飛ばしたその姿は、誰もが二度見するような、儚げで上品な、まさに「絶世の美女」そのもの。


「ふん、思ったより早かったな真壁。感心感心。ご褒美に飴玉をくれてやる」


完璧な美女のビジュアルの課長が、真壁を見てフッと艶然に微笑んだ。

(おお……)と真壁が不覚にも見惚れそうになった、次の瞬間。

プッ。

課長は口の中から、今しがた粉々に噛み砕いた飴玉の破片を、ショットガンのように真壁の顔面に向けて吹き出してきた。

ベチャッ、と真壁の額にイチゴ味の破片が張り付く。

「(……これが無ければ、本当に美人で惚れそうなのに……!!)」


真壁は顔を拭いながら、自分の心が数秒でも動かされたことに激しい嫌悪感を抱いた。

その時、コンコン、とオフィスのドアが上品にノックされた。


「失礼します。県庁の監査室から参りました、――」

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