地獄の亡者のハンガーストライキに何の意味があるのか?3
残された真壁は、床に落ちたメガネを拾い上げる栞の姿を見て、素朴な疑問を口にした。
「あの……栞さん。そんな便利なアイテムがあるなら、課長は絶えず装着していればいいんじゃないですか? 霊感0なんですから」
栞はメガネのレンズをそっと拭きながら、感情のない瞳を真壁に向けた。
「真壁さん。これ、霊感0の人でも怪異が見える代物ですが……装着している間、1秒につき1日分の寿命を吸い取られる『呪具』でもあるんです」
「えっ……」
「あなたがいつまでも現場でモタモタしていると、課長の寿命が尽きます。ですから、もっとしっかりしていただかないと困るんです」
真壁は絶句した。
(そ、そんな……。課長、いつもあんなに理不尽で乱暴だけど、実は自分の命を削ってまで、市民のために戦っていたのか……?)
ほんの少しだけ。本当に、ほんの少しだけ、ドブ臭い上司の背中に「漢」の覚悟を見た気がして、真壁の胸に熱いものが込み上げた。――その日の夕方までは。
庁舎の地下に戻った真壁は、信じられない光景を目にすることになる。
デスクの上で、課長がホクホク顔で大量の一万円札を数えていたのだ。その横で、栞が淡々と契約書をシュレッダーにかけている。
「いや〜、あのストライキ幽霊ども、ゲバ棒の持ち方とシュプレヒコールの声量がプロ並みだったからな! 例の抗議活動団体に大金で貸し出してやったわ! 向こうも『サクラの即戦力が手に入った』って大喜びよ!」
「素晴らしいマッチングですね、課長。我が課の今月の裏予算も安泰です」
「ガハハハハ! 労働環境の改善大成功じゃ!」
真壁は、先ほどトンネル内で抱いた淡い感動をすべてドブに投げ捨てた。
(……やっぱりこの人、ただの悪魔だ。寿命が縮んでるのも、自業自得だわ……!!)
真壁は白目を剥きながらデスクに向かい、震える手で新しい白い封筒を取り出した。
彼の胸ポケットには、また新たな「辞表」が格納されるのだった。




