地獄の亡者のハンガーストライキに何の意味があるのか?2
「無視して工事を進めようとすると機材のトラブルが起きたり、作業員たちが謎の体調不良で倒れてしまったりして、工期も遅れて本当に困ってるんです」
現場監督は涙目で訴えかける。
「高名な霊媒師さんにも見てもらったんですが、『これは私の手に負えないから市役所に頼め』と言われて……」
「そういう時こそ、我々幽霊社会復帰課にお任せください♡」
完璧な営業スマイルで胸を張る課長。しかし次の瞬間、監督たちが背を向けた瞬間にその顔はいつものドス黒い怪物へと戻っていた。
「いくぞ野郎ども!」
「「はい」」
ヘルメットを装着し、不気味に薄暗いトンネルの奥へと進んでいく三人。
「あぁん? ここが現場か? なんだ何にも居ないじゃねえか?」
ガリガリと頭を掻きながら、課長が早くもキレ始める。
当然だ。真壁にはハッキリと見え、その怒号が聞こえている。栞には見えないが、微かにその音声だけが聞こえている。だが、鬼怒川課長は「霊感0」なのだ。
トンネルの奥では、数十人の幽霊たちが工事用ヘルメットを被り、ゲバ棒を掲げていた。
「労働環境を改善しろー!」「死者にも人権をー!」と、口々にシュプレヒコールをあげて気勢を上げている。死んでいるのに。
「か、課長、どうしましょう?」
おろおろする真壁に、課長は冷酷な指示を飛ばした。
「真壁、とりあえず入り口に塩を撒け。一匹も逃すな。……栞、アレを持ってこい」
「了解しました」
栞がトンネルの外に停めた車から、極太の給水ホースを凄まじい力で引っ張ってきた。それをガシッと課長へ手渡す。
「これの中身はな、日本酒と、近所の神社の手水をくすねてきてブレンドした『霊験あらたかな水割り』だ! 放水開始!!」
「放水開始」
栞が淡々と復唱し、バルブを全開にする。
ズガガガガガガッ!!
凄まじい水圧とともに、トンネルの壁一面に「霊験あらたかな水割り」がぶち撒けられた。
「ギャァァァァアアア! 清められる!!」「アルコール度数が高すぎる!!」
バタバタと悶絶し、大パニックに陥るストライキ幽霊たち。その地獄絵図のような悲鳴を聞きながら、栞は「……素晴らしい音響です」とうっとりとした顔を浮かべている。真壁はただただ、うんざりした顔でそれを見つめるしかなかった。
「真壁! 1番偉そうな奴はどこだ!?」
「あっと、えっと、うーん、あのゲバ棒が一番大きくて……」
真壁が指差すのが一瞬遅れた、その瞬間。
バシンッ!!
課長の強烈な平手打ちが真壁の頬に炸裂する。
「せからしか! 頭を叩くのがケンカの基本じゃろがい! もうよか! 栞、アレ!」
「……はい、課長」
栞が少しだけ戸惑いながら手渡したのは、何の変哲もないチープな黒縁メガネだった。
課長がそれを無造作に顔にかける。
「これじゃこれ! おぉ、苦しんでる亡者どもが良く見えるっちゃね!」
視界が確保された瞬間、課長は戦闘民族の顔になり、ツカツカとリーダー格の幽霊に歩み寄った。
「お前が首謀者かぁ、あ゛あ゛ん!?」
「ひ、暴力反対――」
ドゴォッ!!
哀れなリーダー幽霊の顔面に、課長の容赦ない拳が突き刺さる。そこからは一方的なワンサイドゲームだった。
課長は腰からハンディクリーナーを引き抜くと、倒れた幽霊を次々と吸い込んでいく。
「フンッ!」
カチャ、シャキィン!
まるで特殊部隊のタクティカルリロードのように、満杯になったカートリッジを次々と投げ捨て、新しいものに差し替えていく。その流れるようなプロの技で、総勢20名のストライキ幽霊たちはあっという間に全員クリーナーの中へと吸い込まれていった。
「ふぅ」
課長は満足げにメガネを床に投げ捨てると、自分の引き締まったケツをピシャンと叩いた。
「びっくりするほどユートピア!」
そう言い残し、さっさとトンネルを出て行ってしまった。




