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地獄の亡者のハンガーストライキに何の意味があるのか?1

昼過ぎ。太陽が一番高い時間をとっくに過ぎた頃、幽霊社会復帰課の「重役」こと鬼怒川課長が出勤してきた。


「おはようございま――」

真壁が挨拶を言い切るより速く、課長の鋭いカーフキックが真壁のふくらはぎを正確に捉えた。

バシィン!

「ひぎゃあああ嗚呼あああ!?」

悶絶して床に転がる真壁を完全に尻目に、課長は牢名主のようにデスクの上の畳へとどかっと胡座をかいて座る。


「よし、今日も冴え渡っているな」


そう自画自賛しながら、課長は手慣れた手つきで二本のタバコに火をつけ、ストローでレモンサワー(9%)をズズズと啜り始めた。完全にただの通り魔である。

そこへ、デスクの黒電話がけたたましく鳴り響いた。課長が受話器をひったくる。


「はいこちら幽霊社会復帰課です! どうしました? 幽霊ですか? 妖怪ですか? ふむふむなるほどですね? すぐに向かいますので〜♡」


相変わらずの音速営業ボイス。しかし、通報内容を聞くうちに、課長の目の下のクマがピキリと跳ね上がった。

受話器を叩きつける。


「聞いたかお前達! 久しぶりの大捕物だ! 高速鉄道の工事現場のトンネルで、幽霊どもがストライキを起こしてやがるらしい!」


「ストライキ……? 幽霊が、ですか?」


真壁が足を引きずりながら尋ねると、課長はタバコの煙を盛大に吹き出した。


「全員正装に着替えて行くぞ!」


今回は「目立たないように」ではなく、CMで着ていたあの揃いのオレンジ色のつなぎ(※もちろん課長はコンシーラーでクマを完璧に消し去り、一時的に絶世の美女へとトランスフォームしている)を着用。

さすがに山奥の現場とあって、今回はサドルなしママチャリではなく、公用車(怪しい改造車)に乗せてくれた。車内には幽霊捕獲用とおぼしき最新鋭風の機材がビッシリと詰め込まれている。

(……こんなハイテクな道具があるなら、最初から僕に貸してくれればいいのに)

真壁が小声でボソッと呟いた瞬間、助手席の課長から火のついたタバコがバックオーライで飛んできて、真壁のつなぎの胸元でジュッと音を立てた。


「ひぃん! 熱い!」


「おしゃべりな口はシュレッダーにかけるぞ」と、見た目だけは美女の課長がクソ低音ボイスで凄む。バックミラーに映る課長の目は、相変わらず据わっていた。


現地に到着すると、青ざめた顔の現場監督たちが、オレンジのつなぎをパリッと着こなした「外用の顔」の課長を見るなり、大歓声で沸き立った。


「おおお! 本物だ! CMで見た通りだ!」


「すげぇ美人! ゴーストバスターズのお姉さんだ!」

「……なぁ、なんか気のせいか、もの凄くヤニ臭くねぇか?」

「ドブの匂いもするぞ?」


ザワつく現場の男たちを、課長は営業スマイル(4オクターブ仕様)で完璧にスルーし、現場監督に詰め寄った。


「それで、一体何が起きているのですかぁ〜?♡」


現場監督はハンカチで額の汗を拭いながら、おののくようにトンネルの奥を指差した。


「それが……工事中に、昔ここで亡くなったと思われる作業員の幽霊たちが大勢集まってきまして……。劣悪な労働環境に対しての賃上げを要求して、奥で『ハンガーストライキ』を始めたんです……!」


「は……?」


真壁はあまりの意味の分からなさに、その場で猛烈な目眩を覚えた。

死んでいるのに、ハンガーストライキ。

腹が減るわけでもないのに、飯を拒否しての抗議。

一体彼らは何を人質に、何を求めて戦っているというのか――。

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