呪いの女王 中
程なくして、不気味に口を開ける洞窟の入り口へとたどり着いた我らが幽霊社会復帰課の一行。
ここまで、少年のものらしき足跡や衣服の切れ端といった痕跡は一切無かった。ということは、間違いなくこの暗闇の奥に──? 真壁はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あぁ真壁、心配せんでも大丈夫じゃ。問題無い、この中にゃあ最初から誰も入ってないわい」
烈子課長が、タバコに火をつけながらあっさりとそう言い切った。
「え? ど、どういうことですか? お孫さんが中にいるんじゃ……」
「あぁ、あれな? さっきのババアも含めて、全部ワシらが仕込んだ真っ赤な嘘じゃい」
「は? ……じゃあ、子供は?」
「入ってない。……『人間の子供』は、な」
一瞬の静寂の後、真壁の脳の理解が追いついた。
「はぁあああああーーーー!? やだやだやだやだやだ! 帰る帰る帰る〜!! お家に帰りゅうううううう!!!」
騙されたと知った真壁は、完全に幼児退行したかのように地面に寝そべり、手足をバタバタとさせて激しく駄々をこね始めた。しかし、烈子課長はそんな部下をゴミを見るような目で見下ろす。
「もう姦姦蛇螺の封印の間はすぐそこじゃからな。お前はそうやって、そこで一生地面に這いつくばって泣いてろクソザコカタツムリが! ぺっ」
課長が真壁の顔面に、濃厚な痰を吐き捨てた。
「ぎゃあああああああ!!! 臭い臭い臭い!! ヤニとストロングレモンサワーが極限まで煮詰まって混ざり合った、ヘドロとドブを足したような最悪の匂いがぁぁあああ!! 鼻がっ、僕の鼻が死ぬぅぅぅううう!!」
のたうち回って泣き叫ぶ真壁をその場に放置し、烈子課長と栞さんは一切躊躇することなく、さっさと洞窟の暗闇の奥へと進んでいってしまった。
「待って! 置いてかないでええええ!! 洞窟怖いよぉおおおお!! ここに一人きりとか絶対にコワイヨォおおおおおおお!!」
真壁の情けない絶叫を背中で聞き流しながら、二人は洞窟の最深部、異様な注連縄が巡らされた封印の間へと到着した。
「あー、やっぱり封印が完全に解けとるわ。ほら見ろ、栞。木箱の中の呪いの並び棒がぐちゃぐちゃになっとる」
「はい、そのようですね。完全に結界の機構が破壊されています」
栞さんが懐中電灯で周囲を照らす。ライトの光が、床に散らばる泥にまみれたスニーカーや、破られたジャケットを映し出した。
「そこに落ちとる靴や服……まぁ、ネットの噂に釣られた怖いもの知らずのクソ大学生達か。……ほれ、そこの肉片が中途半端にこびりついとる髑髏も、その成れの果てじゃ」
「はい、骨の風化具合から見て、数ヶ月前ってところですかね。ご愁傷様です」
二人は死体を見慣れすぎていて、完全に近所のゴミ捨て場を見るようなテンションで会話をしている。
「えっと、この呪いの棒、どうやって正しく並べるんじゃったっけ? こうか? 『 ////-- 』」
「違いますよ課長、こうですよ。 『 /\/\> 』 」
「おう! これじゃこれじゃ! 流石はワシの栞じゃ! 頼りになるのぅ!」
カチャカチャと慣れた手つきで箱の中の棒を並べ直しながら、課長が首を傾げた。
「それじゃあ、封印をぶち破ったダラのアマは、今頃外をお気楽にお散歩中っちゅうわけか?」
「そのようですね。……おや、先ほどから真壁さんの悲鳴のオクターブがさらに二段階ほど上がりましたので、ちょうど外で遭遇したかと」
洞窟の入り口の方から、「ひぎゃあああああああああああああああ!!!!」という、人間の限界を超えた音域の悲鳴がこだました。




