序章:遭遇
それは外にいるという。
オレは警戒しつつ、黒く、質量を感じられない会議室の扉を開けた。
やはりぼんやりとした、モノクロの、大小様々な箱のようなものが並んだフロアに出る。
その配置を見るに、ここも普段作業をしているオフィスの別レイヤーなのだろう。
そこかしこにネイムがいるが、会議室程は多くない。
「やっぱり、コイツらも全部駆除した方が・・・」
と、言いかけて気が付いた。
遠くで動く者の姿を。
その者の動きは明らかにネイムより速い。そもそもネイムは拍動するぐらいであまり動かない。
しかし、その者は動いている。明らかにこっちに向かいて歩いてくる。
そう、そいつは歩いていた。
ネイムのように黒く、モヤがかかったような様相ではあるが、形は明らかに人型をし、二足歩行している。
粘性と言うか、流動性を感じる独特の二足歩行に、オレは軽い嫌悪感を抱いた。
ふと、その二足歩行ネイムの顔の部分が揺らぐ。
「小川部長?」
のっぺりした黒い顔に、時折小川部長の顔がノイズのように表れる。
「気を付けろ!食われるぞ!」
突然、小川ネイムがオレにタックルをしてきた。
たまらず後ろに倒れされる。
「物理攻撃効くじゃん!」
オレは反射的に後頭部を打たないように受け身を取りつつ叫んだ。
その間に小川ネイムは馬乗りになってくる。
「随分小川とやらの情報を取り込んでいるようだ!」
とベーグル。
「ならば!」
と右手で髪?を掴んで左手で顔面を殴りつける。
左拳は空を切った。
というか、小川ネイムの顔をすり抜けた。
「こっちは効かないの??」
「生身ではそうだ」
「フェアじゃないにもほどがあるだろ!!」
「コイツらにフェアプレイ精神なんて無い、落ち着け!」
「無理だろ!!!」
こちらは触れないのに、向こうに乗られ、押さえつけられると拘束されてしまう。
焦り、恐怖、絶望が同時に襲ってくる。
そして、オレが消耗したのを見て小川ネイムは大口を開けた。
人の顔にヤツメウナギの口が付いたような大口だ。
(こんなヤツでも、捕食器官はあるんだな)
諦めの境地になると、妙に冷静な考えが浮かんでくる。
「あっ!」
オレは気づいた。
「その通りだ!」
とベーグル。
右手、即ちベーグルの手袋をはめている所ではヤツを掴むことが出来た。
そう、オレは右手でなら抵抗で来ていたんだ。
そうじゃなきゃ、もう、とっくに食われているよな。
そして、この右手はオレ達の『捕食器官』でもる。
オレは右手で小川ネイムの首を掴んだ。
まさに今、オレを食おうとしていた大口がヒクヒク動く。
「このまま食えるか?!」
「やってみる!」
掴んだ首の周りが揺らぎ、色が薄れていった。
大物を釣った時のような振動が右手に伝わって来る。
「!!」
オレは殴りつけられ、小川ネイムは飛びのいて距離を取った。
しかし、諦める気配はない。
再びジリジリと迫って来た。
「来いよ!日頃の恨み晴らしてやる!!」
オレは声に出して自分を鼓舞した。




